野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

エンジェルが火と出会う


いつものように7時45分から朝食。相変わらず、食パン、ウィンナー、キャベツ、ゆで卵。今日こそは和食か、と期待したのだが、、、。午前中は、ミニファイヤーの準備、ピアノの置き場を準備。ピアノの低音弦を緩めていく。万が一、弦が切れて飛ぶ可能性をなくすために。すると、中音や高音も微妙に調律が狂っていく。

サポートスタッフのみんなにも、ピアノをいっぱい弾いてもらった。連弾して遊ぶ。

11時には、この日からのサポートスタッフが続々登場。全体でミーティング。昼食後、スタッフとレクリエーションとしてゲームをしたりして、いよいよ14時に、子ども登場、3〜6年生の小学生50人。

子どもたちにまず、鍵盤ハーモニカの即興演奏を聞いてもらう。そのまま、「ブタとの音楽」の映像を見てもらい、その後、ゲーム。貨物列車、人間知恵の輪(音楽付き)。ゲームをしているうちに、子ども達もほぐれてきた。班ごとに散策して、燃える物や石を拾ってもらうが、その間にエンジェルのところに来てもらい、ピアノを一緒に演奏したり、ピアノの内部構造を説明したりする。調律師の上野さんが来てくれる。

火打石ワークショップが終わると、タナカットさんに線香花火ワークショップを任せて、メインファイヤー場に移動。ピアノ、音響機材などのセッティング。今日は、マイクケーブルも、地面に埋めるなど、セッティングには念を入れた。

19時いよいよ本番。線香花火、火打石、カイ君点火までは、14日と同じ流れ。ただし、記録ビデオ撮影用に薄く照明を入れている分、真っ暗闇ほどの緊張感は出ない。

班ごとのアイディア、聴診器なども進み、子どもを入り口付近に移動。センターのファイヤーを消火し、ミニファイヤー4つで、「火の四重奏」を開始。4つの音源が色んな音を出すこと自体面白いが、やはり4つに関係性が見えない。ぼくは、声を出しながら、「じゅわ〜〜〜、じょわ〜〜〜」と狐につかれたように指揮を始めた。そのまま、子どもたちにも身ぶりと奇声で指揮をすると、子どもたちも演奏を開始。石と鉄板に水を振り掛ける、の共演だ。ここで、初めて、全体で合奏している感じになった、楽しかった、と多くの人にコメントされた瞬間だ。

その後、ぼくはこれからピアノと火が共演することを説明。
「演奏は、エンジェルさんと、」
と言うと、子どもが
「マスターファイヤー」
と言ったので、
「演奏は、エンジェルとマスターファイヤーです。」
と言い直し、点火。
「ピアノが燃える〜〜!」
と子ども。燃え始めた直後に、もの凄い音で、三味線や琵琶よりももっと激しい音で、ベベンベベンベベベン、とでもいう感じで、瞬時に次々に弦が切れた。
「エンジェル可哀想」
と言う子どももいる。
「エンジェル死んだ。」
子どもからは、「死んだ」という声が次々に聞かれた。震災復興事業として行われているネイチャーアートキャンプで、ピアノを燃やす。この決断には、本当に勇気がいった。このピアノが火と出会って奏でている歌を聞いてくれ、と言っても、「死んだ」、「燃やさん方が良かったんちゃう?」、「可哀想」とネガティブに見る子どもの声も聞こえてくる。もうこれ以上はやばい。ボクシングのセコンドの人がタオルを投げ入れるように、ぼくはエンジェルに水をかける。バケツ数杯で消火完了。

「エンジェル死んだ?」
「エンジェルは死んでないよ。」
「エンジェル弾いて。」
「アンコール、アンコール」
子どもたちの不思議なアンコールに、ぼくはエンジェルの鍵盤を弾き始めた。音の出ない鍵盤もあるし、音が出てもなんだか不気味な音がする。ぼくはエンジェルの機嫌を伺うように演奏を開始した。怒っていないか、悲しんでいないか、確認するように演奏したが、さっぱり分からない。無我夢中に演奏するがさっぱり分からない。演奏中、石で共演していた子どもが何人もいたらしいが、ぼくの耳には全く聞こえていなかった。ぼく自身が茫然としていた中でピアノを弾いていたのだ。

演奏が終わると、拍手。
「さようなら、エンジェル」
と子どもの声が聞こえた。
「エンジェルには、また明日の朝会うよ。」
とぼく。エンジェルは死んでなんかいないのに!火に出会っただけなのに!子どもたちは、どんな気持ちで宿に戻ったのか、ぼくには分からない。どう感じたのだろう?

アニキと米田さんが山を降りるというので、お別れ。その直後、エンジェルを触って気がついた。燃やす前よりも、響きが良くなっているのだ!どういうこと?
「ひょっとすると、響板が炭化して響きが良くなったのかもしれませんな。」
と上野さん。これは、奇跡か?

23時に、スタッフミーティング。今日の振り返りと、明日のプログラムを巡っての打ち合わせ。とにかく、子ども達に大きなショックを与えたことは間違いないが、きちんと言葉で説明しないと、こちらの意図がちゃんと伝わっていない危険性がある。しかし、言葉でも伝える必要があるが、それ以上に、演奏で伝える必要がある。そうやって、明日のプログラムについて延々話し合った。半分は、ぼくの独り言のようなミーティング。ぼくは、子どもたちにぼくの気持ちを言葉と演奏で伝えなければならない。それが、明日のぼくの仕事だ。

その後、飲み会になり、過去のネイチャーアートキャンプのビデオを見たりしているうちに、朝6時になり、やっと寝た。