野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

エンジェルと出会う


いつも通り7:45の朝食を終えると、サポートスタッフの徳さん、林さん、甲斐くん、カテキンの4人が京都に向けて出発。ピアノオルガンサービスで、廃棄処分のピアノをもらってきてくれる。

残ったメンバーは、小学生の飯盒炊爨に加わる。昨日「火の音楽会」を体験した小学生が、今日火を扱えるのは、いい流れだと思う。

ついに、ピアノが到着。森の中でピアノを弾くのは、初体験で楽しい。予想以上にいい音のするピアノで、Angelというメーカーで、鍵盤が75しかない小型のものだ。フェルトが堅くなっているせいか音色がクラビコードみたい。そこで、バロック風に適当に装飾音符で即興でピアノを弾く。

夜は、ピアノの足下の前の板をはずして、これだけ燃やしてみた。表面から徐々に燃える。燃えていく形が美しい、面白い。そこそこ燃えるがそれほど燃えないことが分かった。火打石で点火は、かなり頑張ったが、残念ながら成功せず。

夜、明日のプログラムについて打ち合わせをする。最後のピアノを燃やす部分が、どうしてもはっきりしない。「自然の家」の方から、何度もピアノを燃やす件に関しては、やめて欲しいと言われてきた。最初は、「楽器を燃やすのは学校教育に反する」から始まり、今は安全面から、ピアノから子どもを遠ざけて欲しい、と要望が出ている。ピアノのことを考えると、教育委員会や自然の家からの苦情のことが頭を過り、自分が何をしたいか分からなくなってきてしまった。

打ち合わせを中断。入浴。教育委員会のことを、ひとまず忘れようと思うが、なかなか忘れられない。そこで、林くん、甲斐くんに愚痴を聞いてもらったら、少し忘れることができた。そこで、自分が何をしたいかを、もう一度考えた。

明日の主役は「火」だ。だから、「火」がピアノを演奏するのであって、燃えるピアノを人間が弾くなど、ではない。あの廃棄処分になっていたピアノを、「火の音楽会」で燃やし、それをまた廃棄処分する、という流れが、違う気がしてきた。廃棄処分になったピアノが、ぼくのピアノになった。そして、「火の音楽会」で「火」に出会い、何か子どもが生まれるというか、そんな感じ。次の日には、ピアノの燃え残りの部品で、みんなが工作をするし、さらに残ったピアノが、ぼくのものとして、ぼくの家にやって来る。この筋書きだ!

こう考えたら、ぼくのピアノが明日「火」と共演する前に、ぼくはぼくのピアノを送りだすために演奏しなければいけない気がした。しかも、昼間ではなく、この夜に。

外は本当に底冷えする。しかし、ぼくの提案に、サポートスタッフ全員がついて来てくれた。深夜12時、底冷えする森の中、ぼくは必死にピアノを弾いた。ぼくは、このピアノを本当に燃やしていいのか、問いかけながら弾いた。
「このピアノ、名前決めなくっちゃ。やっぱり、エンジェルかな?」
と言うと、アニキが
「そうに決まってるじゃないですか」
ピアノの名前は、エンジェルに決まった。エンジェルが、ぼくの家の住所は、天使突抜3丁目。この家に、エンジェルが来るなんて!何と言う巡り合わせ!

室内に戻って、タナカットさんが質問。
「どうして、あんなに美しい音が出るピアノを燃やすのか?子ども達にどう説明するのか、今聞かせて欲しい」
この質問には、助けられた。
「ピアノって、演奏する人が違うと全然違う音出すんです。だから、ぼくが弾く音と他の人が弾く音は違う。それで、ぼくは火にもピアノを弾いてみて欲しいと思った。今、ぼくが弾いた時のエンジェルの音は美しいけれど、エンジェルと火が出会うことで、エンジェルはもっと美しい音を出してくれる、とぼくは信じているし、そこに期待している。ぼくは、その音をみんなと、子ども達と一緒に聞いてみたいと思う。」
というようなことを言ったと思う。覚悟ができた。すべて決定。

明日は、サポートスタッフ提案の防寒対策、紙座布団(新聞紙で座布団を作り子どもに配布)、靴下2枚履き、タオルを首にまく、カイロを配布、チョコを配る、を実行に移すことにした。いよいよ、明日だ。

明日に備えて、1時に寝ようかと思ったが、1時間だけ飲み会。この飲み会にも助けられた。ムネちゃんの「神戸体操」の話など、少し「火の音楽会」と関係ない話をしたので、本番前の興奮がおさまり、2時には布団に入り、眠り込むことができた。