野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

「火の音楽会」誕生


いつものように、7時45分から朝食。毎朝同じメニュー。食パンに、ゆで卵、キャベツの千切りにウィンナー。朝食が終わるとすぐに作業を開始。キャビンファイヤー場からメインファイヤー場に薪、竹、石などを移動。

午前中の作業は、火打石探しと、線香花火の実験。80本の線香花火を同時に鳴らす方法は、かなり難しい。石段にガムテープで貼って、ぶら下げ、一つずつ点火してみるが、一つ一つの点火に要する時間が長過ぎて、これでは全然間に合わない。ライターをやめて、灯油に浸したトーチで点火してみると、今度は火力が強すぎてパシャパシャが見えなくなる。花火の方に灯油をつけてみた。点火は早くなるが、肝心のパシャパシャが見えないので、意味がない。ぶら下げるのではなく、水平方向に突き出したら早く点火できるのでは?と試すがダメ。様々なアイディアが失敗を繰り返し、もうダメかと思った時に、ワイヤーにぶら下げて宙づりにする案に少しだけ可能性が見えた。そして、ワイヤーからぶら下げた線香花火の先に、灯油を一滴だけ付けるのが成功した。この点火のスピードなら、なんとか80本の合奏ができる。その後、火打石の合奏を練習。最初は、間をあけて、一撃ずつを強調するようにした。

昼食後は、ビデオ上映の準備、水風船づくり、ファイヤーの薪組みを終え、セッティング完了。14時前には、稗田小学校4年生80人が到着した。小学生たちが多目的ホールに集まり、自然の家の星加さんから説明を受けている途中、雨が猛烈に降り出した。あんなに快晴だったのに!いよいよこれまで準備していた成果を試すチャンスが来たのに!サポートスタッフが全速力でブルーシートを持って走って行く。薪を湿らせてはいけない。

15時、ぼくが自己紹介代わりに、「ブタとの音楽」の映像を上映するために、暗幕を閉め、子どもたちにも笑って楽しんでもらった後、暗幕を開けたら、陽光が差し込んで来た。雨がやんだ!

15時15分、子どもたちにリコーダーを出してもらう。カテキンに、トワリングの動きで木の棒を振り回してもらう。
「今日は、火の指揮者に合わせて演奏します。」
子ども達にもカテキンの動きに合わせて、どんな音を出したらいいか考えてもらう。子どもたちが音を出してくると、カテキンも反応して、ちょっと動かして止めてみたり、遊び心が出てきて、カテキンの動きとリコーダー80人の掛け合いになる。10分後には、カテキンは立派な指揮者になっていた。

15時45分、雨があがったので、予定通り班ごとに散策して、燃やしたい物と石を拾ってきてもらう。

16時35分。摩耶ファイヤー場に集合。大急ぎで石の合奏をする。全員でカチカチ鳴らしたり、リズムを打ったり。予定が押していて、10分しかないので、簡単に終わらせる。

16時45分。線香花火づくりワークショップ開始。タナカットさんにワークショップは任せ、ぼくはメインファイヤー場へ音響機材を運び、セッティング。音響スタッフの中島さんとサウンドチェック。ケーブルの配線などしているうちに、どんどん暗くなり、どんどん寒くなる。標高600メートルのこの地は、本当に冷え込むが今日は特に寒い。

さっさと夕食を食べ、全員スタンバイ。

19時20分。到着するはずの子どもが来ない。先生たちが間違えて摩耶ファイヤー場に行ってしまったみたいだ。

19時30分。予定より遅れて子どもたち到着。
「危ないから、無理に前に出て来ないでね。」
と、ぼく。
「いいよ。」
子ども達。給食当番で、線香花火ができなかった二人の子どもに線香花火をしてもらうところで、「火の音楽会」スタート。ムネちゃんとヒメが80本の線香花火に点火開始。とても静かに美しく進んでいった。線香花火の最後の一つが消え切えて真っ暗闇になるまでの時間が、愛おしかった。真っ暗闇になったら、火打石が始まった。しかも、予定では、スタッフが先に始め、後から子どもに合図するはずが、誰よりも早く子どもが始めた。そして、雨が降ったにも関わらず、石から火花が次々に散る。練習ではほとんど出なかったのに、火花が出る。子どもからも出る。ウソみたいに出る。みんな無我夢中で石を打つ。そこにカイ君が上半身裸にシーツをたすきがけにした状態で入場し点火。なかなか点火しない。ぼくは、もう一度、石を鳴らしながら、ファイヤーの周りを駆け巡った。動物が走り回っているようだったらしい。
「うわっ、早い」
と子どもから声があがった。ぼくは調子にのって全速力で走ると、子どもたちの叩く石もテンポが加速する。最後に中央で合図を出すと、一斉に石の音が消え、そこから火の音が立ち上がってきた。

ひのきの葉を入れる。「ジューーーボリバリバリ、ジュグゥーーー」とすごい音がする。班ごとの拾ったものも投入。水風船をカウントダウンとともに投入。弾ける音とともに、「しゅーーーー」と火が弱くなる。米も入れる。鉄板のデュエットを二つのやかんで。花火のもと(=鉄粉)を振りかけたら、ファイヤーの周りに空中線香花火が出現する。これは本番に初めてやったので、本当にびっくりした。みかんの皮を投入したら、なんと光が青くなって、これまたびっくりした。

班ごとに聴診器を聴く。この辺で、火の近くに設置したマイクが溶けて、スピーカーから音が出なくなる。練習の時よりも明らかに火力が強く、練習の時に大丈夫だった場所ではマイクは溶けてしまった。すぐに、予備のマイクと交換。中島さんが、
「ヘッドフォンで聴いていると、音、めっちゃ面白いですよ。」

「いよいよ、最後の曲です。リコーダーを用意して下さい。」
と、ぼく。火の音がフェイドアウトするのに合わせて、カテキンが火の指揮者を開始。赤い炭火の軌跡に合わせ、リコーダーが鳴り響く。数分続いたその音楽とクロスフェードで、ぼくの鍵ハモが始まる。静かに静かに、火の音楽会は終わっていった。最後には、炭を星形にして、それを眺めながら子どもたちは帰っていった。サポートスタッフと握手を交わした。ぼくは、もう一本のマイクを炭火の中に投入した。どうしても炭の中の音を録音してみたかったのだ。もちろん、10秒後にはマイクは溶けてしまった。

小学校の先生から、子どもたちが火の音楽会を凄く喜んだこと、などを伝えにやってきてくれ、みかんを差し入れしてくれた。16日にも、みかんの皮を投入しよう。