野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

振り返る一日

今日は、振り返る日だった。

 

朝、「四股1000」で竹澤悦子さんの誕生日を祝い、オランダ語ポーランド語などで、バースデイソングが歌われる。3年前に、「千住だじゃれ音楽祭」でサプライズ演奏したのが懐かしい。あらためて当時の動画を見返すと、感動的なくらい密で演奏しているし、金管楽器を吹きながら客席の中に入っていくし、こんな時代もあったんだなぁと感慨深い。1995年に水戸芸術館で上演した「でしでしでし」を23年ぶりに再演したのも懐かしいなぁ。

 

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次なる振り返りは、12月の北海道の芽武での滞在。里村真理さんと報告冊子作成に向けて、2ヶ月前のことを思い出し、言葉にしていく作業。

 

音まち事務局とは今年度を振り返るミーティング。熊倉純子さんとも久しぶりに話した。今年度は、「千住の1010人 in 2020年」という大規模企画を準備していたが実現できず、企画を根底から変更して「千住の1010人 from 2020年」とした上で「世界だじゃれ音Line音楽祭」というオンラインイベントを10月から月1ペースで開催した。from 2020年なので、2020年で完結せずに2021年になっても継続中。次年度も続く。コロナの状況次第で臨機応変にやることは大前提の上で、今年度追求しまくったオンラインでの活動に加えて、可能であれば、ディスタンスを十分にとれる魅力的な場所という視点で千住の町を見直し活動を再開したら新たな千住に出会えるかも、とワクワク。

 

「世界だじゃれ音Line音楽祭」の膨大な動画データを甲斐田さんが編集して作品を作ってくださるが、ぼくは音楽家として聞いて魅力的なポイントを探す作業をしている。動画を見ずに音だけで聞いていて、耳に飛び込んでくるポイントをピックアップし、それを別の動画の音源とどう繋げるかを考える。こうして、今年度の様々なイベントを懐かしく振り返りながら、再創造をしている。

 

 

 

《日羅印尼中の知音》の動画公開/《ハイドン盆栽》の収録

1月17日に収録した《日羅印尼中の知音》の動画が公開になった。5回のオンラインワークショップで、日本、ルーマニア、インド、インドネシア、中国の音楽を少しだけ体験して、その体験をもとに野村が作曲。本番の時だけ集まって、ディスタンスをとって収録。海外旅行ができない今、こうして音楽で世界を巡れたのは貴重な体験だった。ありがとう。

 

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本日も収録。2019年、2020年に作曲した《ハイドン盆栽》より2番、4番、5番、8番、9番の5曲を収録。ピアノソロ。どれも1分程度のシンプルな小品で、もともとのハイドンのユーモアとかトリッキーなところをデフォルメしているので、シンプルだけれどもトリッキーで、いい感じで弾いても、どこかの落とし穴に落ちてしまい、何度も録音にチャレンジするが、なかなかノーミスで演奏できない。自分で作曲して墓穴を掘る。ミスを恐れて萎縮すると演奏が面白くなくなるので、とりあえず少々の弾きそこないは気にせず伸び伸び弾こうと思って弾いた。

 

その後、映像を担当して下さった日本パルスの山本さん、センチュリー響の柿塚さんと打ち合わせ。今後の映像の編集方針などを話し合う。

 

1 《ミワモキホアプポグンカマネ》(2017)

2 《ルー・ハリソンへのオマージュ》(2017)

3 《Slapping Music》(2017)

4 《ハイドン盆栽》 (2019-20)

5 《問題行動ショー》(2019)

6 《土俵にあがる15の変奏曲》(2019)

7 《迷惑な反復コーキョー曲 Beethoven 250》(2020)

 

という7曲の曲順が現在の案で、全部で約90分程度なので、一枚のアルバムだ。7年前に日本センチュリー交響楽団のコミュニティプログラムディレクターを始めた時には、まさか7年後にセンチュリー響のために作曲した作品がアルバム一枚分になるなんて、想像していなかった。ワークショップをやったり、オーケストラの新しいあり方を模索したり、オーケストラの可能性を探したりしているうちに、気がついたら、曲が増えていた。

 

これで3日間に渡って行われた全7作品の収録も終わって一息。なにせ7作品のうち6作品に出演なので、結構、練習も収録もハードだったけど、いい緊張感だった。明日から創作中心の日々が戻ってくる。ふうっ。関係者の皆様、おつかれさまーー。

節分の10時間収録

いつも2月3日が節分なのに、今年は2月2日が節分なのだそうだ。例年だったら吉田神社の節分祭に出かけるところだが、今日は、アクア文化ホールで朝から晩まで野村作品の収録。自分の作曲作品を何作も続けて合奏する貴重な機会。

 

今日の1曲目は、《Beethoven 250 迷惑な反復コーキョー曲》(2020)というアコーディオンとピアノのデュオ。アコーディオンの大田智美さんと演奏。15分間、ベートーヴェンのモチーフが様々に登場してくる集中力と緊張感たっぷりの曲。やさしいところもあるし、激しいところもある。そして、アコーディオンの美しい音色にうっとりしたいけど、うっとりしていると弾き間違えるので、必死に演奏。智美ちゃんの繊細な表情あるアコーディオンとの共演は、本当に充実。この曲を撮り終えた時点で、既に達成感あり。

 

クイックランチでおにぎりを食べながら、パーカッションの安永早絵子さんとリハーサルと打ち合わせをしてのち、本日の二曲目《ミワモキホアプポグンカマネ》(2017)。日本センチュリー交響楽団のスーパーチェリスト北口大輔さんをソリストに、センチュリー響の小川和代さん(ヴァイオリン)、森亜紀子さん(ヴァイラ)、村田和幸さん(コントラバス)、笠野望さん(トロンボーン)、ロジャー・フラットさん(トロンボーン)に野村という豪華な編成。4楽章あって20分くらいある大曲なので、これまた、やるのは大変。弦も菅もいるし、サン=サーンスやサティやハイドンドビュッシーなどのモチーフも出てきたりもするので、バンドで演奏している感覚というよりは、オーケストラの一員になったような気分。皆さん、タキシードの中、一人だけ黄色の水玉シャツで演奏。ふうっ。

 

本日の3曲目は、《土俵にあがる15の変奏曲》(2019)。これは、センチュリー響の小川和代さん(ヴァイオリン)と柿原宗雅さん(ピアノ)に、安永早絵子さんと野村がボディパーカッションと相撲パフォーマンスで乱入。12分くらいの曲。安永さんとのパフォーマンスは、アドリブ多かったけれども、安永さんが臨機応変に遊びまくって下さるので、めちゃくちゃ面白くなった。小川さんと柿原さんは、1年前に世界初演した時よりも、さらに演奏が練り上げられていて、気迫も十分で素晴らしかった。さっきまでオーケストラ気分だったのに、急に相撲の世界になっている。

 

本日の最後の曲は、《Slapping Music》(2017)で、3分くらいの小品だけれども、これは体を叩きまくるし、集中力を使うので、一発で成功させたかった。安永さんと野村のボディパーカッション。安永さんは、本当にさすがの演奏で、1拍ずつずれていくかなり難しいパートを、難なく正確に演奏し、色々音色も変化をつけ、遊び心もたっぷり。すごいなぁ。

 

ということで、10時間弱、ノンストップでの収録が終わる。撮影スタッフ、ホールスタッフ、演奏者の皆さん、ありがとうございました。まだ、明日もあるので、急いで帰宅。日付が変わらないうちに、里村さんと豆まきやって、鬼は外、福は内。豆をまくと、東の空に下弦の月があやしい姿を見せていた。

 

Beethoven 250 / French Music and Jazz in Conversation

1月17日の「世界のしょうない音楽祭」で撮影した《日羅印尼中の知音》(野村誠作曲)の動画が編集され、本日、最終確認データをチェック。エンドロールなど、少し気になったところがあり、そこの修正をお願いしたが、近日中に公開の予定。全員マスクをしての演奏も、コロナ後に見たら懐かしいと思うだろうか?

 

本日は、アコーディオニストの大田智美さんとリハーサルで、野村誠作曲《Beethoven 250  迷惑な反復コーキョー曲》をじっくり練習。智美ちゃんと会うのは、3月28日にこの曲を無観客世界初演した時以来で10ヶ月ぶりだったようだ。あれから半年間くらいは、コンサートでの演奏が全くなくなったものの、今では演奏の機会が復活してきていて、先日も高橋悠治さんの作品を演奏するなど、相変わらずのご活躍。ベートーヴェンの生誕250年だった2020年はいつの間にか終わり、ピアソラの生誕100年である2021年になっている。智美ちゃんのアコーディオンの音色を身近で生で聞けることを、本当に幸せに思うほど、やはりいい音色だった。明日も体験できることが嬉しい。智美ちゃんは、今年の11月には、野村誠アコーディオン作品を一挙に演奏するコンサートも計画中。非常に楽しみ。そうしたお話もしたけれども、みっちり練習して、明日の収録に準備。

 

大阪への行き帰りは読書の時間になっているが、最近読んでいたのが、Deborah Mawer『French Music and Jazz in Conversation』Amazon | French Music and Jazz in Conversation: From Debussy to Brubeck (Music since 1900) | Mawer, Deborah | Classicalという本で、本日、読了。ドビュッシーラヴェル、ミヨーなどのフランスの作曲家がアメリカのジャズに影響を受けた曲を書いたと同時に、これらの作曲家の作品に、ジャズが影響を受けたという相互関係の話。

 

アメリカに亡命したミヨーの弟子には、デイヴ・ブルーベックバート・バカラックスティーヴ・ライヒなどがいる。中でもブルーベックは、複調、ポリリズムなどミヨーの作曲技法に大きく影響を受けていて、ミヨーの音楽がアメリカに受け継がれていくのが面白い。読みやすくて譜例も多くて、楽しい本だった。昨年がブルーベックの生誕100年だったので、ブルーベックの伝記を読んだ後に、この本も読んでみたくなって買った。気がついたら、2021年。今年は《ブルーベック101》を作曲したい。

 

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本日は母の誕生日だったので電話をする。82歳になったのかな。元気そうな声でよかった。

 

 

 

 

新しいおっさん/500回の失敗/日英オンライン交流

現在、日本センチュリー交響楽団豊中市立文化芸術センターと作っている野村作曲作品の動画の編集がいくつか届く。センチュリー響の演奏家や事務局、さらには大阪音大の先生のコメントなどが挟まれながら進む中、自分たちがやってきたことの意味を再確認する作業になっていて、足元を見つめ直す機会になっていると思った。

 

里村さんの誕生日なので、ケーキを買いに行く。昨年の今頃は都城にいた。今年は行けるだろうか?ケーキ屋さんを探す旅も楽しく。

 

おっさん姉妹(=片岡祐介鈴木潤)が野村誠作曲《新しいおっさん》(2020)を世界初演するライブ演奏を生放送でYouTube配信。こちらの動画の1時間あたりから。

 

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新作初演がこうして行われることが素晴らしいと同時に、リアルタイムに行われた聴衆からの様々なチャットも面白い。この二人の素晴らしい音楽家が自分たちがやりたい音楽を一方向的に発信しているだけでなく、鑑賞している人々が色々な形で発言/参加しやすい雰囲気をつくり、ある種の交流の場を作っている。おっさんたちは、「新しいサロン」を作っているのだ。野村作品以外にも、色々な曲をやっていて、自分たちが弾きたい曲に重点があるというより、リスナーたちからのリクエストや要望に応じて演奏したり即興している。リスナーの人々は楽しんでチャットに書き込んで盛り上がっていて、そんな大仰に構えずに、自然にチャットを書き込むことが音楽創造への参加になっていく。ある種の音楽解放の場。Ossan Novaが生まれつつあることを感じる。素敵な仕事だ。

 

本日はイベントが多く、ネットTAMトークイベント第3弾「これでいいのか?!どうする?コロナ以降のアートマネジメント」に出演。2時間半に渡って、熱い熱いトークをした。本当にいっぱい話せてよかった。刺激をいっぱい受けたし触発された。触発された結果に、最後の最後に、「500回失敗していいから、実験していこう」というようなことをハイテンションに言っていた。正直、コロナがあってもなくても、危機感を持って活動してきた。アートも人類も絶滅の一歩手前の瀬戸際で踏みとどまっていて、下手すれば既に手遅れなところにいて、ぼくは、それに抗って小さな石を投げ続けている。そんなつもりで30年くらい活動してきた。これまでの30年間、少しずつ種蒔きしてきた。

 

だから、コロナだからと言って慌て始めることはない。様々な隠されていた問題が見えてきたという点では、活動しやすくなったはずだ。蘇生する可能性は0.2%かもしれないアートや人類を見殺しにしない決意で、微かな光を捕まえるための悪あがきをして、次世代に何かを残して残りの人生を送りたい。10年後には根絶やしになってしまうかもしれないアートという産業を、どんな形にしてでも、次世代に伝えたい。どうしてそう思うか。ぼく自身は、音楽にアートに救われてきたし、生きる力の交換をしてきた。

 

コロナで世の中が様々な変化を余儀なくされていて、世界や価値観が変わっていくチャンスで、それは正直嬉しいし追い風だと思う。ぼくらが生きているこの時代から、新しい考え方、新しい表現、新しいアート、新しい働き方、新しい生き方を生み出すことがしたい。それができないならば、そもそも、ぼくが生きている意味なんてないとさえ思う。500回の失敗をしてもいい。今の時代だからこそできる試みを、実験を、今生きている人と模索したい。失敗を恐れている場合じゃない。背水の陣だし、500回失敗してもいいから(そもそも失敗って何だ?)、今だからこそできる何かを生み出したい。ぼくは本気でそう思ってる、ということを、声に出して言えた。今、文字に書けた。500回の失敗を許容できる環境をどうやって作っていくか。そこには、様々な方便、仕組み、やり口、策略がいるんだと思う。そのために知恵を絞る。

 

ああ、興奮したなぁ。皆さん、刺激的なトークの場をありがとう。多謝!!!!!

 

そして、参加できなかったけど、イギリスのヒューやエマがやっているファミリーオーケストラAubergines(ナス!)と、ぼくがディレクターしている千住だじゃれ音楽祭「だじゃ研」メンバーが、今日もオンラインで合同ワークショップやってた。いわゆるプロのアーティストの国際交流じゃなくって、いわゆるアマチュアの即興音楽の国際交流が、こうやって進んでいて面白いことになってきてる。どんどんやろう。

 

そして、これまた参加できなかったけど、今日は、text & sound networkのオンラインミーティング。作曲家のフランチェスカがイギリス、日本、台湾、ドイツ、、、、などの音と文章のアーティストを集めて始めたプロジェクト。こうした動きも面白い。

 

砂連尾さんの映像/大徳寺の塔頭

砂連尾理さんの映像作品に、以前、砂連尾さんと佐久間さんによる家族交換会の時に野村が演奏したケンハモを携帯で録音していたものがあって、それを使いたいとの連絡が来る。砂連尾さんから、その編集動画が送られてくる。その時限りの演奏が実は記録されていて、活用してもらうのは有難い。と同時に、演奏の不出来な部分も気になり、もうちょっと丁寧に演奏しておけばよかったとか、色々思うが、あの時あの日に今は亡き砂連尾さんのご両親に聞いていただいた演奏はあの時のものでしかない。改めて日々を大切に生きること、日々を大切に演奏することを思う。

 

今日はたくさん散歩をした。大徳寺塔頭を順に巡ったりして、500年前のこと、400年前のことなどをイメージしながら過ごす。座禅体験の案内なども出ていて、参加してみてもいいかも、と思ったり。

 

鐘をいくつも見たけれども、21の塔頭の全てに鐘はあるのだろうか?鐘はいくつあるのだろう?夕方に来たら、どれもが一斉に鳴るのかな?録音しに来てみたいとも思った。

 

 

 

 

 

 

 

ミワモキホアプポグンカマネ/新しいおっさん/IM-OS

2017年に作曲した《ミワモキホアプポグンカマネ》のリハーサル2回目。日本センチュリー交響楽団の北口くん(チェロ)、小川さん(ヴァイオリン)、森さん(ヴィオラ)、村田さん(コントラバス)、笠野さん(トロンボーン)、ロジャーさん(トロンボーン)に野村(ピアノ)という編成。2月2日に収録する。ここ数年、センチュリー響と本当に色々なことをしてきたので、演奏家の方々との距離も縮まっていて、皆さんが野村作品を自分たちの音楽として演奏してくれるのが、本当に嬉しい。

 

改めて演奏してみて、野村の作曲作品の中でも群を抜いてクラシックな曲と思った。多分、4年前に作曲した時に、意図的にクラシックっぽい要素をふんだんに盛り込んだと思う(作曲した頃のことを結構忘れている)。ワークショップの中から出てきたアイディアが、クラシック音楽とはほど遠いものだったからこそ、敢えて、そうして、あのアイディアがこんな風になるのか、という驚きをいっぱい作りたかった。そして、そういう驚きはいっぱいあったと思う。

 

ということで、オーケストラプレイヤーたちが演奏する中に、作曲者がピアノで混じっているわけで、野村以外の6人は、阿吽の呼吸でクラシックのアンサンブルの仕方がツーカーなので、ピアノでちゃんと解け合えるように演奏するのが大変だった。後の先の立合い、なかなか難しい。

 

家に戻り、本日のおっさん姉妹(=片岡祐介鈴木潤)のリハーサル動画を視聴し、野村作曲の《新しいおっさん》のリハーサルを譜面を見ながら確認。こんな風に自分の曲のリハーサルにオンラインで立ち会うのも現在ならではだなぁ。

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デンマークのカールさんから、Improvised Music - Open Scoreのvol.6に、野村誠の《根楽》が載っているよと連絡が来る。またまた、アメリカのコントラバス奏者のダニエルが取り上げてくれたようだ。ありがたい。興味のある方は、こちら。

http://im-os.net/IMOS-Issue6.pdf