野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

世界のしょうない2017の動画/トラブルメイカーについて

たった4年前の動画「世界のしょうない音楽祭」。こんなに密集して演奏して、聞いてたんだ、と感激しながら見てたら、終わりの方で「夢に見て候」と歌が出てきて、本当に、こんな合奏が再びできる未来は夢のようだと思って、泣けてきた。

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1月31日(日)に、オンライントークイベントに出演する。

 

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コロナ後のアートマネジメントについて論じる会なので、自分なりに未来のアートマネジメントについて色々考える。帆足さんのメールにワクワクしたり、進行を務める若林さんから紹介された橋本さんの論座の論考劇場と行政との関係を問い直す【上】 - 橋本裕介|論座 - 朝日新聞社の言論サイトを読んだり、『幸せな現場づくり』のための研究会(2016)│Tokyo Art Research Labの報告pdf「働き方の育て方 アートの現場で共通認識をつくる」https://tarl.jp/wp/wp-content/uploads/2017/01/tarl_output_45-1.pdfを斜め読みして、最後の参考図書の紹介で、「数学する身体」という本に反応して、早速注文してみたりする。

 

自分なりに考えを整理したり、散らかしたりする。最近、「トラブルメイカー」という職業があってもいいのではないか、と考えたりしていて、そのことも話したいと思った。話し合いやワークショップを円滑に進めるためのファシリテーターという職業が徐々に確立されていて、同調圧力に忖度するケースが多いとされる中で、創造的な場を維持するために、「トラブルメイカー」という役割を職業化してもいいのかもしれない、と思い始めている。それは、「問題行動ショー」を行い、「問題行動マガジン」を作ってきた流れなのかもしれない。

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2月2日のレコーディングに向けて、野村作曲の《土俵にあがる15の変奏曲》(2019)で打楽器奏者の安永さんと乱入する場面のボディパーカッションの部分だけ、作曲して安永さんにお送りする。世界初演の時は、鶴見幸代とアドリブでやったけど、今回は、簡単に作曲して、現場で調整。楽しみ。

 

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その他、野村が演奏する曲の練習で、《ミワモキホアプポグンカマネ》(2017)、《ハイドン盆栽》(2019-2020)より、2番、4番、5番、8番、9番の5曲、《Beethoven 250 迷惑な反復コーキョー曲》(2020)を練習。こうして無観客でも収録の機会があり、合奏すること、本番をやれることの有り難みを、コロナになって痛感する。それは、以前は当たり前に体験していたけど、プレイヤーとしての自分にとっては、本当に貴重な機会だと思うので、大切にしていきたいし、今後、そうした機会をどうやって作っていくかを考えたいと思う。

 

 

 

大慌ての練習/だじゃ研のチャット/10年計画

2017年に作曲した《ミワモキホアプポグンカマネ》を2月2日にレコーディングするので、個人練習中。3年前に作曲し初演した際にもピアノパートを演奏したのだが、3年前に苦もなく弾けたところが若干弾きにくい気がする。やばい!当時は40代だったけど今は50代。身体能力の衰えなのではないか。年を重ねて表現力が増すこともあるが、運動能力の低下をあっさり受け入れていては、このまま老化の道を一気に進みそうなので、大慌てで練習する。

 

 

「世界だじゃれ音Line音楽祭day4」の興奮から3日が経った。このイベントは、野村とゲストによるデュオだったのだが、あらためてYouTubeアーカイブ動画を見ると、だじゃ研(=だじゃれ音楽研究会)メンバーがチャット欄への書き込みという形でコラボしてくれていたことがよくわかる。鑑賞のためのガイドになるチャットだなぁ。

 

里村真理さんと2021年ー2030年の10年間のプロジェクト計画を話し合い素案ができあがる。10年間の計画を考えることで2021年にどんな活動するかを考えられるような気がしてきた。

 

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鍵盤楽器の作曲ワークショップ

豊橋の劇場PLATの企画での賀茂小学校でのワークショップ2日目。本日は、3、4年生約25名と。コロナでなかなか子どもと接する機会が少ない中、貴重な機会なので、できるだけ野村もやったことないこと、野村が今取り組んでいる疑問を子どもにぶつけてみたいと思って過ごしている二日間。

 

先月のダンスワークショップでどんなことをしたのかを質問し、色々、うろ覚えのダンスをやってもらって、それに合わせて即興でピアノを弾いたり。その流れでラジオ体操第1を演奏すると、みんなでラジオ体操してくれて、寒い体育館で体があたたまる。ケンハモイントロダクションをして、その後、子どもたちに自由にケンハモ吹いてもらう自由時間。自由時間で気になった奏法をピックアップして、みんなでやってみる。

 

1 頭でケンハモ演奏

2 グリッサンド

3 ボタンの速押し奏法

4 できるだけたくさんの鍵盤を一度に

 

どれも25人で一斉にやると、すごいサウンドになって面白い。休憩を挟み、ピアノの弦を弾いたり、マレットで演奏したりする内部奏法を説明して後、北海道の芽武の浜辺の石の写真を楽譜に見たたて演奏してもらうグループ活動。スタートの石とゴールの石を決めて、双六のような楽譜になったグループ。大きい石と小さい石で、大きい石は一番高い音(ド)、小さい石は一番低い音(ファ)とやったグループも変拍子で面白い。最後には、全員一人ずつが音を出さずに指の形だけで選んで見つけた和音を25人分つないだ曲を合奏。一人1和音でのコード進行は、なかなか名曲になった。

 

楽器を片付け、校長先生にご挨拶の後、劇場に戻り、契約書など事務手続きを終えて後、京都に戻る。疲れていたのか、横になると2時間ほど眠ってしまった。「世阿弥の稽古哲学」という本と「世阿弥」という本を、時々、交互に少しずつ読んでいるが、世阿弥の子どもへの眼差しと、昨日と今日のワークショップのことを思い出す。正直、小学生と一緒に作曲する活動は面白い。アイディアが色々出てくるし、柔軟で、一緒に作っている感じになるから。こちらが課題にしていることがあると、それを突き詰めていける感じがある。今回は敢えて鍵盤楽器のみに限定して、今まであまり取り組んだことのないハーモニーのことをやったけど、もっと色々なアプローチでやれそうで、また機会があったら実践したいなぁ。

 

おつかれさま。

 

 

 

 

小学生と四股/指の形の和音/石の楽譜の解読

豊橋の劇場PLATの企画で、賀茂小学校でのワークショップ。劇場の担当の大橋さんと、コーディネーターの山本さん(ピラティスの先生らしい)と向かう。コロナなので、冬の体育館で窓を開けて換気して行う。幸い天気がいいので、そこまで寒くないが体を動かさないと寒い。

 

3、4限目に1、2年生合同。2学年合わせて約25人。ぼくは、ケンハモイントロダクションをやるが、マスクを着用したまま、つばを飛ばさないように、マイクを使って声を出す。子どもたちに、「野村が大きな声を出したら、注意してください」と言って、子どもの側ではなく、ピアノの内部の弦に向かって、大声を出すと、子どもが注意してくれた。鍵盤ハーモニカを吹きながら、四股を100回踏んだ。鍵盤ハーモニカを吹き、ピアノを弾き(どちらも特殊奏法満載)、その後、四股をやるって、唐突だけど、これが野村の自己紹介なので、仕方がない。そうして理解してもらった後に、子どもたちに鍵盤ハーモニカをやってもらったら、顎で弾く子もいれば、頭の後ろで弾く子もいて、子どもの発想の柔軟さに感心し、アイディアをいっぱい教わる。今日は、鍵盤楽器とコードの話をしようと思って、ピアノは一音でもいい音が出るけど、指を二本使うと二音同時にならせて、組み合わせによって、いろいろな響きがするんだ。三本使うと、またいろいろな響きが出せるんだ、と言って、みんなに好きな指の形を作って、鍵盤に当ててもらう。そうすると、本当にいろんな和音ができる。一人ずつの指の形を、野村が大急ぎで譜面に落とし、みんなの和音を一人ずつ鳴らすのに、野村がユニゾンで重ねる合奏をした。本当に多様な響きが次々に出て、意外な響きの展開があり、面白かった。その後、6人組くらいの4グループに分かれて、シロフォンヴィブラフォンを一人一本のマレットで自由に叩いてもらう。その上で、各自、自分が一番気に入った鍵盤を一つ選んでもらい、4つの6音くらいの和音ができあがる。これまた、渋い響き。できあがった曲のタイトルは《暗くて綺麗な音怖かったまた考えます明るい》となった。

 

午後は高学年。こちらもケンハモイントロダクションの後、四股100回踏み。相撲の呼出しの話とかして、呼び上げをテーマに野村がピアノの即興演奏を披露し、自由に鍵盤ハーモニカをやってみるタイムで、肘で演奏する奏法など新奏法を発見の後、北海道の芽武の海岸で撮影した石の写真を配り、これを楽譜と思って演奏する無茶振りをする。6グループに分かれて活動開始。ところが、子どもたちは写真にどんどんマジックで書き込み、星図のようにつないだり、ドレミを書き込んだり、大きい石が低い音で小さい石が高い音としたり、グループによって全然違う解釈の楽譜を生み出し、月並みな表現だが、子どもの創造力の高さに本当にびっくりする。正直、この能力をもっと世の中に生かす仕組みを考えた方がいいと思った。これだけ柔軟な発想ができる子どもたちに相談したらいいこと、たくさんある気がする。もちろん、知識や経験があるからできることも多いけれども、知識や経験が少ないからこそ、こんなにできるのだ、ということを見せつけられる。さらに、1、2年生同様に、自分なりの和音を作ってもらい、野村が楽譜に書き込んで。最後に、子どもたちが発表してくれた石の譜面を、野村がピアノで演奏するタイム。同じ写真なのに、全然違う楽譜になっていて、これ本当に面白い。

 

放課後、担任の先生に子どもたちの印象について質問されて、無茶振りにクリエイティヴに回答する子どもに感動したことを伝える。1学年12人くらいが1クラス。これが、1クラス40人学級とかだと、集団の中に埋もれるとか、みんなで譲り合うとか、活動に参加しないとか、いろいろな問題が起こりやすくなる。でも、12人だと普段から全員が活動に参加しないとクラスが成立しない。全ての学校を1クラス12人にした方がいい、と思った。

 

劇場に戻ると偶然、ダンサーの京極朋彦くんと出会う。今、レジデンスアーティストとして滞在制作中らしい。きたまりの企画で、ダンスファンファーレ京都で共演して以来の再会。彼も、昨年、豊岡市竹野でダンス作品を発表したらしい。

 

愛知大学吉野さつきさんと久しぶりに会う。門限ズのこと、イギリスのジェーンとの企画のことなど話す。緊急事態宣言中の愛知県なので、閑散とした飲食店は20時に閉店で19時半ラストオーダー。20時なのに、まるで23時のような風景。

 

ホテルに戻り、今日のワークショップの和音を譜面に書く。

 

おっさん姉妹(片岡祐介さん+鈴木潤さん)が、1月31日に野村誠作曲《新しいおっさん》をオンライン配信で世界初演してくれるとの連絡が入る。楽しみ。

 

世界だじゃれ音Line音楽祭day4

『世界だじゃれ音Line音楽祭』Day4を開催した。4人のゲストとセッションをした。ぼくは出演者でもあったのだが、4人の個性的なゲストを紹介する気持ちも強かった。それぞれのゲストの世界観を4つ続けて体験できて、とても面白かった。アーカイブは、こちらで視聴できるので、以下の野村の感想と合わせて視聴していただければ幸い。

 

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一つ目は、安野太郎とのセッション。事前の打ち合わせで、音響なども万全だったが、少々のテクニカルな事故が起こり得るけど、そうした事故も含めて見せていこう。失うものは何もないから、と話し合った。そしたら、冒頭のパフォーマンスで、安野くんの音が全然聞こえていないというトラブルが起こった。よりによって、このパフォーマンスは、部屋を移動しながら行う時空を超えるパフォーマンスだったので、お互いに相手の音を聞くことができない。だから、相手はきっとこういうことをしているだろう、と想像しながらのセッションだった。ぼくとしては、安野くんの音はエフェクトがかかったりして、どんどん重なり合っているだろうから、非常にシンプルでショボショボな音を出していたら、なんと、ぼくの音しか聞こえていなかったらしい。そのことが発覚して、最後に少しだけリベンジでセッションした。最後の最後に安野くんの音が聞こえてきた。逆に、ぼくは、声を出さずに声を出す仕草をしたり、ピアノを弾く動きをいっぱいするけれども、滅多に音を出さなかったりした。本当は音がしているのに音が聞こえないのか、実際に弾いていないのかは、画面の向こう側からは判断がつかない。それにしても、リハーサルの時にも音が出るのに本番で音が出なくなるとは、さすが安野太郎。ゾンビの悪戯だったのかもしれない。衣装は、香港のi-dArtのレジデンスの時にキッチンミュージックの衣装として作ってもらったペイントされた白衣。

 

二つ目は、宮田篤とのセッション。だじゃれ音楽をやろうと思いつくきっかけを与えてくれたのは、取手アートプロジェクト2006で出会った宮田くんや山中カメラなど、「あーだ・こーだ・けーだ」のメンバーたちだ。あのプロジェクトがなかったら、「千住の1010人」もやっていない。宮田くんが適度に「らくがっき」を忘れているのが面白く、つくった本人が正解が描けず、不思議な絵が生まれてくる。宮田画伯が次々に絵を描きながら話してくれる楽しい時間。衣装は、取手で浴衣を着た思い出から、相撲の浴衣の端切衣装。

 

三つ目は、ドイツのケルンからジモン・ルンメルとのセッション。ドイツは朝9時で、ピアノのすぐ横にベッドがあって、朝食前の出演。ジモンとは30分一本勝負で、ノンストップでピアノを弾いた。京都とケルンで演奏しているのに、まるで隣の部屋で弾いているかのよう。ジモンとは双子の兄弟のようだ。実際に会ったのは一度だけなのに。オンラインで2週間前に打ち合わせしたのが2度目。今日は3度目だけど、どうして、こんなに阿吽の呼吸なのだろう?音楽で追求していることが近いから、即興でも、相手がどう感じているのか、どんな演奏をしてくるのか、だいたい感覚でわかる。感性が全然違う人と演奏するのも面白いが、感性が近い人と演奏するのも面白い。それにしても、ジモン熱演だった。素晴らしいピアニストで即興演奏家だ。彼の創作楽器とかインスタレーションも面白いから、また紹介したい。衣装は、先日、メシアンのコンサートできたカラフルシャツ。

 

四つ目は、奥田扇久とのセッション。ひょうたん楽器が勢揃い。ジモンとの即興と奥田さんとの即興とでは、全然違うところが引き出される。ひょうたん楽器の音色が素晴らしい。いろいろな弦楽器が、それぞれ独特な音色がして、その楽器ならではの音楽がでてくる。障子紙をはった楽器もあった。コラみたいな楽器もあり、太棹三味線みたいなのもある。本当にいろいろ。あっという間の45分。もっとやりたかった。1009さん+1で1010人のセッション。そうした思いも込めて、2014年の「千住の1010人」の時に着てたシャツを衣装に。

 

ゲストの皆さん、事務局の皆さん、視聴者の皆さん、ありがとうございました。おつかれさまでした。

思い出せ!/音楽の旨味

明日の「世界だじゃれ音Line音楽祭day4」に向けて準備中。宮田篤さんとの「らくがっき」を思い出すために、復習中。10年前のプロジェクト。歌を歌っても、全然フルートの絵にならないけど、なんとかフルートを描ける気になるところまできた。記憶力、悪いなー。

 

北海道で濃密なコラボレーションをさせていただいたアイヌ音楽研究者の千葉伸彦さんと野村がオンラインでトークする企画を、里村真理さんが企画してくれ、本日、それが実現。千葉さんと3時間強、じっくりお話させていただく。ギタリストである千葉さんが、ミュージシャンとしてアイヌ音楽に興味を抱いたところから、気がついたら、伝承が途絶えそうな様々な歌を伝授されている貴重な一人となり、また音楽家であるがゆえにマニアックに節回しのディテールに興味を持ち、そこに愛着を持つ。ぼくは、アイヌ音楽にもちろん興味はあるが、それ以上に千葉さんというフィルターを通してアイヌ音楽に出会うことに興味がある。千葉さんが旨味であると思うアイヌ音楽のエッセンスは、実はあらゆる音楽にとって旨味でありエッセンスであり、千葉さんが守ろうとしているアイヌ音楽のエッセンスは、実はアイヌ音楽だけでなく、世界中のあらゆる音楽が喪失しているように思う。その意味では、世界中のあらゆる音楽が絶滅の危機にあり、形骸化した音楽の骸骨や残骸だけが残っているのかもしれない。でも、そうした音楽の骸骨や残骸を起点に、なんとか音楽を生み出したい。そんな意識で、音楽活動をしてきたのかもしれない。とか、いろいろなことが、頭の中をぐるぐるする。お話できて本当によかった。千葉さんと一緒に生きた音楽をしたいと思う。

 

 

《問題行動ショー》と《ルー・ハリソンへのオマージュ》の収録

本日は、アクア文化ホールで野村誠作曲の《問題行動ショー》(2019)と《ルー・ハリソンへのオマージュ ヴァイオリンとバリガムランのための四重奏》(2017)の収録をした。コロナで公演が行えなくなっている公共ホールに対して、公文協(全国公立文化施設協会)が11月に突如動画配信の助成金を出すことになり、しかし、2月までに行わなければいけないという正気の沙汰でないスケジュール。それに、プロデューサーの柿塚さんが、野村誠の作曲作品をまとめて演奏する企画で応募し採択され、本日と2月上旬に収録する。スケジュールの隙間の時間を使って、リハーサルをしたり、収録をするという強行企画。自分の作曲作品の動画アーカイブができるのは、本当にありがたい。昨年2月に、ポーランドの国営ラジオPolskie Radioの番組Nokturnで、野村誠を特集した2時間番組が放送されたのも、嬉しかったけど。あ、それに、すみゆめで「野村誠X北斎」の作品がまとめて動画配信されたのも、貴重なアーカイブ

 

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映像、録音のスタッフの方々、そして、ホールの舞台、照明のスタッフの方々にも感謝。舞台、照明のスタッフの方々の姿を見ると、この10ヶ月間にホールの仕事はどれだけキャンセルされたのだろう?仕事をしたいのに仕事ができずにいるのは、本当に辛いことだろうという思いが頭をよぎる。

 

《問題行動ショー》は、2年前にアクア文化ホールで演奏した。あの時には、砂連尾さんと佐久間さんの踊りもあった。会場にはお客さんがいた。香港から多くの仲間が来ていた。ざわめきの中で演奏した。見えない世界のことを思う。今日、ここに不在の人々のことを思いながら、そこに届けるような音楽を奏でたい。それと同時に、15分間息を抜く間もないほど緊張感が持続する譜面と目一杯格闘し、ヴァイオリンの巖埼さん、クラリネットの吉岡さんと音で対話をしていく。この二人、本当にいい演奏家で、一音、一音、ニュアンスが変わっていくのが、味わい深い。本当に難しい曲を作曲したなぁ。でも、この二人と演奏したくて書いちゃったんだなぁ。大切に、魂を込めながら、異世界へと誘われるべく、演奏。この曲を何テイクかやったら、集中力が枯渇するくらいヘトヘトになった。

 

バリガムランのギータクンチャナと巖埼さんのヴァイオリンでの《ルー・ハリソンへのオマージュ》は、3年前の初演とは印象が変わった。当時は、西洋楽器のヴァイオリンとインドネシアガムランの異質さが際立った演奏だった。今日は、異質なはずの二つの楽器が融和して、西洋とアジアが対立するとかではなく、西洋でもアジアでもないかもしれない、どこかの国の音楽かもしれない世界が醸し出された。3年の時を経て、音楽が発酵してきている。3年前の時は、今日よりもガムラン楽器がドレミっぽく聞こえた。今日は、全然、ドレミじゃなかった。ぼくが作曲した音楽なのに、民族音楽に聞こえた。巖埼さんは、昨日の午前にこの曲をリハーサルして、夜には、センチュリー響の定期演奏会で、リゲティバルトーク、ヨハンシュトラウスを演奏し、今日のこの収録に参加。感謝。ガムラン奏者とヴァイオリニストが、頭にインドネシアの花を飾っているのも良かったなぁ。

 

おつかれさまでしたーーー。