野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

とよおか音楽めぐり/John Tavener

城崎国際アートセンター(KIAC)でのレジデンスが終わる。不思議なもので、2018年に初めて、KIACに滞在したのは、兵庫県養父市の水谷神社に伝わる「ねってい相撲」をリサーチして創作するためだった。ところが滞在中に、兵庫県豊岡市の竹野に伝わる「竹野相撲甚句」に出会い、「竹野相撲甚句」を金管にアレンジする構想が浮上する。2020年に、竹野小学校の金管バトンクラブとコラボするために滞在するが、コロナだったためにオンラインでワークショップをするのみで、コンサートで共演も実現しなかった。そこで、2022年からのコミュニティ・プログラムで「とよおかこども音楽クラブ」を作り、「竹野相撲甚句」だけでなく豊岡市内の様々な芸能を子どもたちから教わりながら創作することにした。そして、今年度は、但東地域の自然観察をする「いつなっと」の協力で実施したので、ついには、相撲でも芸能でもなく、自然観察に基づく創作をした。これら全てを「とよおか音楽めぐり」と呼んでいる。

 

竹野:竹野相撲甚句

城崎:だんじり祭り

出石:幟回し

但東:自然観察

 

 

熊本に戻る。Piers Dudgeon著『Lifting the Veil : The Biography of Sir John Tavener』(Portrait)を読了。宗教音楽を書くイギリス作曲家ジョン・タヴナー(1944-2013)の伝記。

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ビートルズビョークとのコラボレーションでも知られるが、この伝記の中心は、彼の宗教音楽のドラマトゥルグ的な役割かつ精神的な支えでもあったMother Theklaという宗教家とのコミュニケーションにある。キリスト教と言えば、カトリックプロテスタントに出会うことが多かったので、東方教会ギリシア正教について無知すぎて、前提となる用語を検索しないと全然わからず、調べ物しながらの読書になった。例えば、正教会では聖像禁止令を出しているので、イコンという平面絵画のみが許されている。

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マリアと言えば、イエスの母しか知らないのに、色々なマリアが出てきて混乱する。タヴナーは、《エジプトのマリア》というオペラを書いている(同じタイトルのオペラがレスピーギにもある)が、エジプトのマリアとは、10代は無償で売春をする生活をし、その後、聖人になった5世紀ごろの宗教家のこと。

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晩年のタヴナーは、複数の宗教が共存する音楽を書こうとする。The Veil of the Templeという大作もその一例。複数の宗教が根っこのところで繋がっているという彼の思いと、しかし、その中心にキリスト教を置いてはいけないと考える葛藤の中から、晩年マザー・テクラとの繋がりがなくなるとすれば、排除しないために排除してしまう葛藤をタヴナーは抱えていたのかもしれない。究極の宗教音楽を探し続けた作曲家だったのだろう。

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