野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

肥後琵琶の多様性とカオス/サヌカイト

琵琶を習い始め、本日が2回目の稽古である。肥後琵琶という熊本に伝承されてきた琵琶がある。

 

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お稽古と言っても、肥後琵琶には筑前琵琶などのようには、教えるメソッドもないそうで、岩下小太郎さんからは、まず筑前琵琶を学んでから肥後琵琶をやるのが良いのではとアドバイスをいただき、ぼくは混沌としていていいので、いきなり肥後琵琶を始めたい、とリクエストしたので、混沌である。今日は、いきなり最後の琵琶法師と言われる肥後琵琶奏者の後藤昭子さんのお宅を訪ねていった。

 

最初の2時間くらいは琵琶を弾くこともなく、後藤さんが肥後琵琶を始められた経緯を聞き、山鹿さんのレッスンがどんなものだったかを聞く。レッスンに言っても、山鹿さんが酔っ払っていて、ほとんどレッスンにならない時もある。来客がいてレッスンにならない時もあるが、来客が写真家だったり、ジャーナリストだったり、柳川瞽女の一座だったりして、交流するのが楽しかったそうだ。つまり、後藤さんは楽器と歌を教わったのではなく、そうしたカオスのような琵琶法師山鹿良之さんという人間を形成する全てを浴びたのだ。だから、具体的に楽器や節回しを学ぶことも大切だが、そうしたことを浴びることが今日のお稽古である。大変面白い。タイで民族音楽学者のAnant Narkkongに連れられて、達人の家を訪ねて行った時のことなど思い出す。

 

その後、後藤さん、小太郎さんが、それぞれ実演して道成寺を語って下さったりし、そこで演奏法など気になったことを質問すると、突然、技術的なレッスンが始まる。2回目の初心者がやるようなことじゃない、と言われながら、いきなりディープな奏法を練習したり。目の前に生きた教材がおられるのは、大変ありがたい。同じ演目でも後藤さんと小太郎さんの演奏は全く違う。同じ山鹿さんに習った片山旭星さんと後藤さんでは、全く違う。一つの正解があるわけではない。即興性もあり固定化できるものでもない。生きた芸能であり、他の肥後琵琶の動画も次々見せていただくと、全部違う。多様性とカオス。今日は、それが体感させていただき、その上でカオスの中から自分に合ったやり方を見つけていくのだ、と言われる。それはぼく好みのアプローチで楽しい。結局、4時間滞在した。

 

帰宅後は、高松市美術館の開館・閉館の音楽の作業をする。収録した皆さんの声を聞いて癒されながら編集が続く。