野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

山本亜美は音楽だ/チーム・リエゾン(コロナ時代に交流する作曲家)

山本亜美さんとのリハーサル。通常の箏が13絃なので、その2倍近くある25絃は本当に大きく、音域も広い。日本の伝統音楽の邦楽器であるが、今から30年前に考案された新しい楽器。亜美さんの先生である野坂先生が、ちょうど今のぼくの年齢の頃に考案した楽器。50代で新しい楽器を作り出し、その後の人生で、その楽器のための新しい音楽を演奏したのかぁ。すごいなぁ。50代になると、ある程度自分のスタイルとか確立して保守的になりやすそうなものなのに。やっぱり凄い先生だ。

 

亜美さんのために書いた新曲《編む 継ぐ む》を演奏していただいた。もう、本当に音楽が満ち溢れていて、作曲者としては幸せこの上ない。何も言うことないくらい素晴らしいので、ディテールのニュアンスとか方針とか、色々お伝えして、2時間近くみっちり練習になった。ああ、間違いなく、めちゃくちゃ良くなる。みんな来た方がいいよ。

 

tsugumi25.blogspot.com

 

その後、欲張ってコンサートを観に行った。作曲家/ピアニストの佐藤伸輝さんは、2002年生まれで東京芸大2年生だが、ぼくが注目しているアーティストの一人。将棋の世界では、2002年生まれの藤井聡太さんが、想像を絶するスピードで頂点に登り詰めてしまったが、作曲の世界も、若い才能が育っている。佐藤さんの作品(カンボジアの虐殺に向き合う音楽で、二胡ハーモニクスグリッサンドに西洋楽器が重なり合う)を、昨年聴いて、素晴らしかったし、そのアンサンブルの中で作曲者自身がピアノを演奏していて、その演奏が秘めたパッションのようなものが伝わってくる内面の力強さを感じさせるものだった。今日のコンサートは、佐藤さんの作品、そして、彼の仲間の徳武史弥さん(国立音大在籍中)、上山花さん(東京音大在籍中)という二人の作曲家の作品も演奏され、さらに即興演奏もあるらしい、というので、行ってみた。

 

そもそも、平日だし、19:00開演だろうと思い込んでいたが、なんと17:00開演。こんな時間にやって人来るの?と思ったけれど、作曲者も出演者も、ほぼ20歳前後の大学生なので、その友人たちも、来られるようで、17:00開演のコンサートは満席だった。ぼくは、リハーサルの後に行ったので、楽しみにしていた佐藤作品を聞き逃した。

 

配布されたプログラムには、

 

私は現代の「解放区」を作りたい

 

から始まるTeam Liaison代表の徳武史弥さんの挨拶文がある。チーム・リエゾンって、チームは個人じゃなくってチームで、リエゾンって、フランス語で別々の単語が分離するんじゃなくって、繋がって発音されることだ。つまり、個人個人がバラバラじゃなくって、「チームつながる」。コロナの非接触時代に大学生になったからこそ、接触やつながりを模索し、即興セッションを頻繁に行う新世代作曲家たちのグループが出現してきたことに、ぼくは希望を感じた(以下のインプロりぶるに寄稿された「チームリエゾン」についての記事もぜひ参照ください)。

 

free-impro.jp

 

通常、こうしたコンサートに行ったら、一人一人の作曲家について論じることが多いのだけど、チーム・リエゾンは、個々の作品でありながらも、チームで一つのコンサートを作っている感覚にも非常に特色があるので、敢えて、コンサート全体を一つの表現として、以下に感想を書く。(個々の作品が非常に魅力的だったのだけど、その書き方だと表現しきれないので、今回は敢えて、こういう書き方しようと思う)。

 

コンサートは全体として、表現が溢れ出てくるような感覚があった。作りたい気持ちや演奏したい気持ちが溢れ出てくるような音楽会だった。悩んで行き詰まって、どん詰まりになって創作しているんじゃない。コロナで閉塞感がある時代だからこそ、逆に恐れずに表現し交流している。作らなければいけないから作っているんじゃなく、作りたいから作っている。当たり前に創作の喜びがあった。即興の時間だけで、1時間近くやっていたかもしれないけど、朗読のテキストが終わりまで行ったし、予定通り終わったのであって、力尽きて終わったのではなく、まだまだ演奏し続けてしまうかもしれない余力もあったに違いない。

 

Team Liaison Concert #2 「古事記」 in東京 - パスマーケット

 

ナマモノとしての音楽会をしていた。ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、クラリネットというメシアンの四重奏の編成に、ファゴットが加わったり、黒子が石を叩いたりした。最後の即興は、フライヤーにプロフィールが載っていないフルートの即興名手が突然登場し、クラリネット、シンセ、ピアノ、鍵盤ハーモニカと繰り広げられるセッションが繰り広げられた。

 

現在進行形で作っているものを、お客さんと一緒に体験するようなコンサートだった。先月に、チーム・リエゾンの第1回コンサートで(お誘いいただいたけど行けなかった)、来月には第3回コンサート。現在進行形で、今の自分達を表現していきたいから、毎月開催になる。チャンスがある限り、顔を出したいし、ぼくも一緒にセッションしてみたいと思った。今後も要注目。