野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

しょうぎ作曲2日目

本日も、十和田市現代美術館で、しょうぎ作曲のワークショップを開催。昨日も今日も、複数の会場が確保できなかったが、1グループ4名程度がよいところを8名ほどの人が集まったため、交代で休んで4人ずつが参加することにした。そのために、通常のしょうぎ作曲よりも、複雑になったが、逆に、交代するタイミングにアイコンタクトをとって入ったり抜けたりするなど、別のコミュニケーションの要素が加わって、違った面白みが生まれたことも、面白かった。

 

そして、8月25日に開催する野村誠+大田智美デュオ 野村誠作曲作品オンパレード(即興演奏なし!)の案内文を作文した。

 

 

WINDS CAFE に2年ぶりの登場です。2年前は、野村誠の作曲作品のオンパレード+即興演奏でした。今回は、即興演奏はなしにして、作曲作品のオンパレードで、編成はアコーディオン+ピアノです。共演していただくのは、ぼくが最も信頼する大田智美さんです。野村誠の作曲したアコーディオン作品を、ほぼ全曲演奏している人で、以前、野村誠アコーディオン独奏曲だけでソロコンサートを構成された方でもあります。

 

大田さんとの歴史を少し説明させてください。そもそもの出会いは、アコーディオニストの御喜美江さんを通してでした。ぼくは、2001年以来、御喜さんのためにアコーディオン作品を次々に書いていました。そして、御喜さんの教え子である大田さんを紹介されたのは、今から16年前の2003年。野村のアコーディオンデュオ曲「FとI」の演奏者として大田さんが選ばれたのです。初対面の印象は鮮烈。20歳そこそこの童顔で初々しい学生さんが、アコーディオンを弾き始めるや否や、音楽を全身で理解し、繊細なニュアンスで表情豊かな音が飛び交い、ただただ、とんでもない才能が出現したと驚くばかりでした。2004年、フランスのリールでの野村誠のプロジェクトに3週間も同行してもらい、ステージのみならず、カフェ、バー、メトロの駅、個人宅と、あらゆる環境で演奏してもらいました。2005年に、彼女から、ドイツのフォルクヴァンク音楽大学室内楽コースの卒業試験で演奏するために、アコーディオンとピアノのための新曲の委嘱を受け、その時に作曲したのが、「ウマとの音楽」です。彼女は、最優秀の成績でコースを修了し、ソリストコースに進学します。そして、2009年のソリストコースの最終試験でプロのオーケストラと共演するコンチェルトを演奏することになり、そこでも野村に新曲を委嘱してきます。それが、「アコーディオン協奏曲」(2008)で、これまた最優秀の成績で修了されます。10年を超えるドイツでの研鑽を終えて、彼女は日本に拠点を移して後も、野村作品を演奏し、新作を初演し続けてくれています。そして、ぼくは彼女の音色に魅了され続けています。

 

続いて、アコーディオンという楽器についても、若干説明をさせてください。一般に普及しているアコーディオンの多くは、左手がコード、右手でメロディーを演奏できるようになっているのですが、大田さんの演奏されるアコーディオンは、全く違う楽器です。右手、左手ともに、5オクターブの半音階が演奏できるようになっているので、バッハの平均律なんかも一人で演奏することができます。大量なリードが入っているため、総重量15kgもある巨大な楽器で、彼女の弾く楽器は右手も左手も鍵盤ではなく、ボタンになっていて、ボタンばかりのメカニックな機械のようでありながら、非常に有機的な音色を奏でます。彼女が留学したドイツでは、このクラシックアコーディオンが非常に盛んで、バッハなどを演奏したり、ソフィア・グバイドゥーリナほか数多くの現代作曲家がアコーディオンのために作品を書いています。ピアソラバンドネオンをレコードで初めて聴いた時も衝撃でしたが、クラシックアコーディオンの演奏に初めて出会った時は、心底アコーディオンのために作曲したいと思ったものです。

 

ちなみに、ぼくは、鍵盤ハーモニカという金属のフリーリードの楽器の奏者としても活動をしていますが、二つの楽器は、発音原理が似ているので、アコーディオンの表現と鍵盤ハーモニカの表現は似ている部分も多く、作曲に際しては、楽器を理解しやすい部分もあります。と同時に、アコーディオンの音色は断然豊かですし、様々なストップでリードを重ねることができ、アコーディオンでしかできない表現も多数あります。

 

最後に、今回とりあげる作品について。「ウマとの音楽」は、映像作品「ウマとの音楽」(野村幸宏+野村誠)がもとになっています。これは、イギリスのバーミンガム郊外の牧場で、野村誠が鍵盤ハーモニカを奏でているのに、ウマが反応して、ウマと音楽で交流していくドキュメンタリー映像です。実際の1時間ほどのセッションを10分程度の映像作品に編集しています。つまり、音楽の論理ではなく、映像の論理で音楽が切りはりされ展開されているのです。それに触発されて、この映像の論理で展開された音楽の構造をそのまま活かして作曲しようと考えました。そこで、映像での鍵盤ハーモニカの演奏をほぼそのままアコーディオンパートとして書き起こし、それに新たにピアノパートを書き加えました。バーミンガム郊外の牧場の空気感を残しつつ、映像の編集の構造を活かしつつ、コンサートピースとして成立させる、という試みにチャレンジしました。

 

「動物の演劇組曲」は、振付家山下残の舞台作品「動物の演劇」のために作曲したものを、演奏会用組曲として、再構成した作品です。この作品は、横浜トリエンナーレ2005で発表された映像作品「ズーラシアの音楽」(野村誠+野村幸宏)を下敷きにしています。「ズーラシアの音楽」は、2005年に、よこはま動物園ズーラシアの飼育係の宿直室に宿泊し、園内の動物と実際に音楽セッションを繰り広げ、それをドキュメンタリー映像としてまとめたものです。

 

新潟組曲「水と土のこどもたち」は、水と土の芸術祭2018の委嘱で作曲しました。新潟には、潟という地形がたくさんあり、その中でも様々な自然が残っている福島潟を散策し、音楽をつくる小学生のためのワークショップを開催しました。そのワークショップで子どもたちと作った6曲。トーンチャイムで音列をつくった「謎の多い自然」、空間を移動しながら打楽器を演奏した「チョチョズ」、いわゆる歌を作詞・作曲した「愉快な小熊さん」、鉄琴と木琴のみで様々な奏法を試みた「蓮の成長」、箏の柱をランダムに並べてつくった無調の「福島潟大事件」、最後に自由に楽器を演奏した「福島潟散歩」の6曲を題材に、アコーディオンとピアノの作品として再構成しました。

 

バーミンガム、横浜、新潟の地から生まれた音楽を、皆さんと味わいたいと思います。ご来場、心よりお待ちしております。