野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

問題行動トリオ『夜の美術館の夏祭り』

問題行動トリオの十和田市現代美術館での公演『夜の美術館の夏祭り』2日目に向けて準備する。初日の公演で、展示作品『スタンディング・ウーマン』(通称、大きいおばちゃん)との関わりがもう少しあった方が面白いと思い、本日は、ぼくが大きいおばちゃんの声役として出演することにした。だから、その台本を作成して練習。おばちゃん役の声をやったことがなく、役作りに励む。

 

『ガチャ・コン音楽祭』に向けて、日撫神社の角力踊りの甚句のメロディーを覚えるべく、YouTubeにある動画を見まくって、節を自分なりの簡易な譜面を作って覚えていく。最終的にフルートで演奏してもらうつもりなので、五線譜にしていく予定。

 

十和田市現代美術館での公演。ぼくは、コロナウイルス陽性者の濃厚接触者であり、PCR検査陰性であったが、保健所の指示で本日まで隔離のため、この公演にはリモートで参加することになった。今回、観客も出演者も全員対面で行うつもりで考えていたが、最終的に、出演者は野村がリモート参加で、砂連尾さんはお客さんと対面で、佐久間さんは現場にいるにも関わらず、お客さんの前に現れる時もあれば、別室からリモートで登場する時もある。つまり、50%同じ場にいて、50%別の場所にいるパフォーマンス。

 

開場から開演まで、マイケル・リンの作品(2009年の福岡で会ったことがある)が床にあるカフェロビーで、お客さんが待っている。その中に、佐久間新を放し飼いにする。佐久間さんが近づいてくると、目を合わせないように、気づいていないふりをする人もいれば、リアクションする人もいる。待合室に緊張感と違和感とリラックスがどう渦巻いたのかは、それぞれの人次第。

 

定刻になって、砂連尾さんが登場し、「夏祭りと言えば?」とお客さんに質問してまわる。お客さんは、花火、スイカ割り、出店などと答え、盆踊りという言葉が出てきて、そこで、三本木小唄普及委員会の方々をご紹介し、三本木小唄の盆踊りを教わる。今日は、会場を移動するときは、この踊りをしながら移動するのがルール。軽く練習するが、覚えられなくても見よう見まねでいい。

 

ぼくが鍵盤ハーモニカで三本木小唄を演奏し、それに合わせて、列になって踊りながら展示室へ移動。津田道子さんの作品(2010年に青森のACACでレジデンス中の彼女と会って以来、何度かお会いしたことがある)の中で、砂連尾さんと佐久間さんの即興ダンスが始まる。ここでは、自分の姿が鏡に映ったり、映像で別のところに映ったりして、真正面にいる人でない人と出会える。ぼくは自分の演奏の鏡を用意できていなかったし、手元にルーパーなどもなかったので、自分の演奏をいくつか録音しておいて、録音の自分の鍵盤ハーモニカを色々な組み合わせで再生しながら、それを模した別の演奏を生演奏で重ねた。もちろん、会場のダンサーたちやお客さんの動きを見ながら、演奏した。ぼくの演奏は、音だけを送っていて、動きは会場には見えないのだが、演奏しながら動きまくった。楽器がマイクに近づいたり離れたりもあるし、何より、リモートでこちらの波動を伝えるために、自然と体が動いた。それが、どの程度会場に伝わったかは不明だが、でも、こちらの演奏の濃度が高くないと、リモートで音質も劣化し、情報量も少なくなっても、それでも残る部分をつくるべく、自分なりに濃度をあげた。

 

三本木小唄の演奏で、次の展示室に移動。先ほどは普通に三本木小唄を演奏したが、今度はスピードを速くしたり遅くしたりして、盆踊りも撹乱される。陰旋法のメロディーを陽旋法にしたり、琉球音階にしたりして、アレンジもする。だんだん三本木小唄が原型からずれていく。ロン・ミュエク『スタンディング・ウーマン』の展示室につく。ぼくは、大きなおばちゃんの声役として佐久間さんに指令を出す。それに従って、佐久間さんがおばちゃんと対峙する。その後、佐久間さんは野外の鈴木康広さんのりんご作品のところから中継となり、砂連尾さんの言葉で振付するのに従ってりんごを触る。砂連尾さんのナビゲートでお客さんも指示を出し、色々なりんごの触り方が生まれる。それをりんごのない別室で動くと、ダンスの振付になっている。ぼくは、鍵盤ハーモニカでこのダンスとセッションをしたが、最後は声で音楽をした。

 

塩田千春さんの展示室から、佐久間さんと佐久間ウイヤンタリさんによる影絵パフォーマンスが中継される。ウイヤンタリさんのジャワの歌声が遠くから聞こえてくる。今、同時に行われているけれども、その場の様子をスクリーンで見ている。でも、声は遠くから聞こえてくる。

 

また、ぼくが鍵盤ハーモニカで盆踊りの曲を奏でて、ジム・ランビーの作品が床にある美術館のロビーにくる。2年前の十和田でのピアノをめぐるツアーでは、ここから始まり、《ある晴れた日のゾボップ》という短いピアノ小品もつくった。ここでは、日本センチュリー交響楽団の巖埼友美さん(ヴァイオリン)と吉岡奏絵さん(クラリネット)と野村のピアノで録音した15分の野村作品《問題行動ショー》も2年前に作曲したもの。その曲の主題になっているのが、砂連尾さんが作詞し、佐久間さん、ほんまなほさん、たんぽぽの家のメンバーで共同作曲したメロディー。この15分の音源に合わせて、砂連尾さん、佐久間さんの15分のデュオダンスが繰り広げられるのが、今回の公演のクライマックス。雨にも関わらず、砂連尾さんは美術館の外に出て、ガラスの向こうとこちらでのダンスシーンになったりもした。今まで顔の表情をつくらずにクールに踊ってきた砂連尾さんが色々な表情になるという大転換が起こったダンスでもあった。

 

カーテンコールがあり終了。美術館内で展示作品や空間と関わりあいながら、通常の展示期間ではなかなかできないような体験をいっぱい盛り込めた。

 

今回ぼくは、十和田に行けない状態で、この公演に参加するということをした。これから、日本に来られないメメットとかアナンとかチョーグゥワンと一緒に、『アジアだじゃれ音Line音楽祭』を作っていく。日本に来られない彼らに、日本で一緒につくった感覚を体験してもらうのに、どうしたらいいだろう?ぼくが十和田に行けないのに十和田にいる体感ができたのも、鷲田さん、中川さん、里村さん、見留さん、外山さんたちスタッフの方々が、離れているものを結び付けようとしてくれたことだと思う。この離れた者の視点を想像し、結び付けようと補おうとすること。これはとても大きなことだと思う。単に野村とつなぐだけではない。美術館の中と外をどうつなぐか?今、美術館に来ていない人とどうつなぐか?アートと社会をどうつなぐか?つながりを作ることについて、議論されることは多いけれども、今回のパフォーマンスを成立させるために行なったことは、そうした問いに密接に結びついていると、ぼくは思った。皆さん、ありがとう。次は9月25、26日!