野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ジェーンとのワークショップ

Jane Bentleyとのオンラインワークショップを開催した。これは、ジェーンと吉野さつきさんと昨年3−4月に実施する予定だったプログラムを、今年に形を変えて実施していく計画で、その第1弾としてオンライン企画を実施。

 

音楽療法士、ドラムサークル・ファシリテーター、オーケストラ・プレイヤー、施設職員、音大生などの参加者10名ほど。

 

ジェーンが時間を勘違いしていて、最初はジェーンなしで始まるハプニングもありながら、即興で音を出したりして始めているうちにジェーンが登場。ジェーンの提案で一人ずつ、自己紹介がわりに音を出してみたら、となり、音を出すだけでなく、皆さん結構丁寧に自己紹介してくださる。

 

その後、ジェーンがこの1年オンラインでどんな音楽活動をしてきたか、を紹介してもらう。まずは、マイクをオンにしたまま、同時に音を出してみようとする。同時に音が出ないことを確認した後、各自がマイクをミュートしながら、ジェーンのリズムに合わせて演奏する。さらには、ジェーンのリズム+ループマシーンに合わせて、演奏する、というもの。これは、バーチャルに合奏の中にいる体感をするもの。もう一つは、一人ずつ、前の人のリズムを真似して、リズムパターンを受け渡していくもの。この二つを融合させた即興もやった。

 

その後、ぼくは、皆さんにヘッドフォンをはずしてもらう。お互いの音がまわりこんで、ハウリングが起こる状態にすると、うまく言葉が聞き取れなくなったり、普通に出した声にエコーがかかったりする。この状態で声を出し合うと、自分の言葉もよく聞き取れないし、他人の言葉もよく聞き取れない。コミュニケーションを取るのに、ある種大きな障害がある状態になる。そこで、お互いに声でコミュニケーションしようとしていくと、だんだん、表現が大げさになったり、ゆっくり喋ったり、でも聞き取れなくって、変な声になっていったりして、拍車がかかっていく。聞き取りにくいことは、ある種の障害であるが、逆に表現を伸びやかにする要因にもなっていた。

 

その後、いくつかの質問に答えて後、最後に、ジェーンとノムとでアイディアを合体させて、オンラインワークショップを進めていって、終わる。ルールの中でうまく声を聞こえていなくて、聞き合えないけれども伝えようとするシーンがあった。その伝わらないのに伝えようとするやりとりが、とても美しかった。ぼくたちは、オンライン通話が不完全なツールであるからこそ、不具合が生じ、その不具合を克服しようと人々が自らの身体を駆使してコミュニケートしようとする。それが演劇であり、歌であり、コミュニケーションであったなぁ、と思った。そうした不完全さの尊さ、不具合の可能性を感じると同時に、そうした不完全さや不具合をなくし効率ばかりを重視する社会は息苦しいと改めて思った。

 

逆に、通訳については、対面でのワークショップでは、英語が苦手な人の耳元でヒソヒソ声で訳すとか、そういうことができるけれども、オンラインでは、それはできない。その代りチャットは使える。でも、チャットを打っていると、参加者の表情を見逃してしまうこともあり、なかなか対面と違う難しさもあるなぁ、と思った。ただ、それも、参加者の方々がボランティアでチャットに英訳を書いてくださったりして、助けられた部分もあった。

 

時間になって終わったけれども、ジェーンが色々アイディアを思いついたりしたところで終わったので、また、オンラインでも何かやれるといいのかもしれない。