野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

高嶺格の嘘についての嘘/Jane BentleyのReConnect

美術家の高嶺格くんのインスタレーションが、京都文化博物館で今日まで展示なので、見に行った。今日で展示も終わりなので、ネタバレでも問題ないと思うので感想。

 

まず、わざわざ、アーティストの存在意義は嘘をつかないこと、という解説まであって、安部元首相が国会答弁でついた嘘の数が118であることから、「118の除夜の鐘」という作品タイトルをつけた由来まで書いてあるのが導入。これを読んだ時点では、変だなとは思わずに、「高嶺くん=嘘をつかない人」という姿勢の表明に、凄い決意表明なのだと信じて展示を体験するのをワクワクして待つ。

 

さて、作品のコンセプトは、小さな嘘が増幅し、次から次へと加速度的に嘘が増幅するように、鉄の管を転がる鉄球が加速して音がどんどん増幅するという体験だと、懇切丁寧に説明もある。「最初に手品師がタネも仕掛けもありません」とやるように、わざわざ、鉄の球を選ばせて、それを最上部から入れると転がる音がする、という仕組み。わざわざ、手品のようにやるのが不自然。

 

さて、実際に始まってみると、鉄パイプのインスタレーションの上下にスピーカーが多数設置されていて、音像が回っていくサラウンド音響が繰り広げられる。えっ?なんで、スピーカーから音がするの?鉄球が転がる音を聴かせるならば、スピーカーは要らないんじゃないの?えっ?嘘をつかないと宣言して、鉄の球が転がる音が加速すると説明したこと自体が大嘘?えっ、高嶺くんが、「アーティスト=嘘をつかない人」とわざわざ書いていたこと自体が、悪意ある前振りの嘘?嘘をつく人を糾弾するような作品と見せて、自分自身がわざと嘘をつく作品をつくった?作品の説明文自体が嘘になっていて、作品全体が巨大な嘘で、意地の悪いアーティストの嘘を信じていいのかい?と問いかけているように思った。でも、一回だけだと確信が持てなかったので、再度並んで鑑賞。結局、3回も鑑賞した。さて、この野村誠のレポートは嘘だろうか?真実だろうか?野村の主観的な体験談と、他の人の鑑賞は全く違うかもしれない。

 

京都市美術館での荒木優光「わたしとゾンビ」も鑑賞。こちらは、スピーカー愛が溢れるサウンドインスタレーションで、スピーカーという楽器と空間との出会い。

 

夜は、Jane Bentleyと吉野さつきとのオンライン打ち合わせ。昨年3月にやる予定だったプロジェクトがコロナで延期になり続けて、とりあえず、3月に少しだけオンラインでプレイベントをして、夏以降の実施に向けて始動する予定。スコットランドは、ロックダウンで5マイル圏内しか移動できないと言うし、必要最低限の買い物と最小限の運動以外は外出不可らしいし、さらにはワクチンも打ったと言ってるし、全然状況違うなぁ。打ち合わせは面白く、そしてジェーンがスコットランド室内管弦楽団と最近収録した動画ReConnect | Scottish Chamber Orchestraを教えてくれて、認知症の人とのワークショップなどをウェブ上でデリバリーしているような感じの動画で、舞台セットなどがさすがイギリス、面白い。ぼくが日本センチュリー交響楽団と作った動画とは、全く違う方向性だけど、お互いオーケストラの人と動画の撮影をしていたのが共通で、面白い。