野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ジョン・リチャーズのアイディアを実験してみた

「四股1000」のホスト担当だったので、今朝の「四股1000」についてJACSHAホームページの「四股1000」ブログに執筆。

 

四股1000 – 日本相撲聞芸術作曲家協議会 / JACSHA

 

昨日の本番が終わり、対面でのコンサート本番は、おそらく今年最後。次の対面でのコンサートは、1月7日の名古屋での中川賢一+野村誠コンサート「愛と知のメシアン!!」で、本番まで1ヶ月強なのだが、明後日から北海道に2週間遠征で、その間は練習できないので、今日はみっちりピアノを練習。メシアン作曲の「アーメンの幻影」と野村誠作曲の「オリヴィエ・メシアンに注ぐ20のまなざし」を練習。メシアンも厄介なのだが、野村作品がなかなか厄介で、しかも2曲目の「音価と強度のまなざし」が全然弾けずにビックリした。今年の4月12日に本番やる予定だったのが直前に延期が決定したので、あの次点でしっかり練習していたはずなのに、半年経ったらこんなに指が忘れているのかぁ。仕方がないので、丁寧に譜読みをしていくうちに、徐々に思い出し、見通しが立ってきて、ちょっと安心。あと、四股とテッポウを毎日やっていることが関係するのか、ピアノを弾く時に、ちょっと違う体の使い方ができた実感があり、ちょっと面白い。

 

イギリスのJohn Richardsから、12月19日に開催予定の「世界だじゃれ音Line音楽祭」Day3のためのアイディアが山盛り送られてくる。Zoomを使ってリモートでどんな音楽ができるか、彼なりに色々考えてくれている。エレクトロニクスがリモートで、どんなことができるのか。単純な仕掛けで複雑な音響が生まれる仕組みがいっぱい。早速、だじゃ研(=だじゃれ音楽研究会)と試す。今日試したことは

 

1)パソコンの内臓音源だけで簡単な指揮で演奏する

2)YouTubeの動画を再生速度を変化させて再生する

3)I am sitting in a Zoom

4)Zen Garden

5)パソコンの読み上げ機能で遊ぶ

 

今日、だじゃ研のメンバーは、楽器を準備してスタンバイしていたのだが、ジョンは楽器を持っていない人が参加できるように考えてくれていた。楽器を準備しているメンバーにとっては、肩すかし。最初は、音楽用のソフトとかを使わず、パソコンにプリセットされているアラート音だけを使って演奏する提案だった。ぼくのパソコンにも、数種類の警告音がプリセットされていて、カエルに聞こえないfrogという音や、Glassという音があったりする。

 

続いて、各自が野村誠YouTubeの動画を選ぶのだが、その動画の再生速度を変えることで、複数の音が重なり合う音響をつくるというもの。これは、各自が動画をスロー再生しているだけなのに、あっという間にかっこいい音響が生まれてきた。

 

次の《I am sitting in a Zoom》は、アルヴィン・ルシエの《I am sitting in a room》という名作からのだじゃれ。(ちなみに、野村誠作曲に《I am Shitting in a Loo》というルシエに捧げる曲があり、その曲の世界初演にジョンは立ち会っている。話し声をZoomを通して、録音/再生を繰り返すと、ある特定の周波数が強調されて、あっという間にセミの鳴き声のように変調されていく。これは、だじゃれ音楽になっているし、Zoomに特化しているので、プレゼンの仕方を工夫してやれそう。

 

次にやった禅ガーデンは、各自がポータブルな楽器を演奏しながら、部屋を移動したり、パソコンのマイクに近づいたり離れたりする曲で、龍安寺の石庭に捧げられている。そして、各自がその場を離れて庭に出る。途中で、全員が画面からいなくなり、静かになるのが面白い。庭の写真をとって来て、それをみんなで鑑賞し合うことも試みたが、実際に公開のイベントで行うと、家の外の写真を見せることは個人情報の流出になりかねなく、自宅の場所を特定されるリスクがあるとの声もあがる。ジョンは、その場の思いつきで写真をとってシェアしようと言ったので、音楽祭で写真のシェアを無理にしなくていいと思うが、イギリスは朝なのに日本の外が暗いことに、彼が感動していた。

 

これで終わりかと思ったら、あと2分だけとジョンが言い、マッキントッシュのTerminalでsayというコマンドを使うと、アルファベットを入力すると喋ってくれる機能があり、これで遊ぶだけでも楽しいよ、とジョンが遊ぶ。

 

毎週1回集まって、簡単なエレクトロニクスの発信装置で、即興の音楽を楽しんでいるDirty Electronics Ensembleをやっているジョン。単なるエレクトロニクスではなく、Dirtyなエレクトロニクスだ。ダーティの「ダ」とだじゃれの「だ」は相通じるところがある。彼は、複雑に洗練されたエレクトロニクスじゃなくって、シンプルな遊びのようなエレクトロニクス、人々が遊びをシェアするエレクトロニクスを志向する。でも、コロナでイギリスは何度もロックダウンになり、集まれない。そんな中、今日、ジョンは本当に楽しそうで、ずっと遊んでいたい子どものようだった。日本の変な人たちが一緒になって実験に付き合ってくれるし、それによって、不思議な音響が成立しているから。

 

ジョンとの時間が終わった後も、だじゃ研からアイディアが出まくる。ジョンもいっぱいアイディア出してくれたけれども、だじゃ研も凄い。こんな風に笑って音を出してシェアできる場は、本当に貴重だなぁ。

 

夜、里村さんがJess Thomというイギリスの俳優についてドキュメンタリー映画《Me, My Mouth and I》(Sophie Robinson監督)が今日までネットで見られることを教えてくれて(ヨコハマ・パラトリエンナーレ)、滑り込みで見て、素晴らしく面白かった。