野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

脱音楽か超音楽か、世界だじゃれ音Line音楽祭Day3

ほっとしたし、手応えをつかんだ1日だった。今日は、「世界だじゃれ音Line音楽祭Day3」で、Day1の10時間10分イベントが、カーテン、ヌイグルミ、石、掃除機、ヌードル、レギオン、本など、リモートでも成立すると考えられる大人数のアンサンブルを試みた。Day1では、いわゆる楽器はゲストが演奏して、参加する人は日用品などだった。Day2では、楽器を集めてやった。撥弦楽器、鍵盤ハーモニカは、いずれもZoomで音が消されにくい音質の楽器だった。今回のDay3では、台所用品、エレクトロニクス、を取り上げたが、Day1のような分かりやすいコンセプトでもなく、Day2のようないわゆる楽器でもない。だから、どんな感じになるのだろうと、それなりに不安もあったのだ。しかし、実際には、素晴らしい音響体験だった。

 

台所用品で、炊飯器だけのアンサンブルをやったり、やかんだけのアンサンブルをやったり、おたま+フライ返しのアンサンブルをやったり、茶碗だけのアンサンブルをやったり、それぞれで音色が全然ちがう。ヘッドフォンをして聞いていると、いつまでも聞いていたいほど面白い音/美しい音がしていて、止めるのが残念なくらいだった。そうした様々なキッチン用品の合奏をした後に、大巻さんのメモリアルリバースのシャボン玉と共演するサプライズセッション。シャボン玉の動きに合わせて音を鳴らす。ああ、美しかったなぁ。コロナで大変な世の中だけれども、こんなミラクルな音楽体験ができたことには、本当に感謝。

 

アーカイブがこちら(【台所用品で即興演奏!】世界だじゃれ音Line音楽祭 Day3 - YouTube)に残っている。

 

エレクトロニクスの回は、イギリスのジョン・リチャーズをゲストに招いた。ジョンは、25年前にイギリスのヨーク大学で出会った親友で、ぼくがヨークで企画した神戸の震災のためのコンサートにも出演してくれたし、ヨーク大学の現代音楽アンサンブルのコンサートで野村作曲の「でしでしでし」の演奏ではエレキベースで加わってくれたし、当時ぼくがヒュー・ナンキヴェルと結成したバンドBishop of Fish Drinks Sakeのライブにも出演してくれた。イギリスのジョンの家に何度も泊めてもらったし、ぼくの京都の家にも泊まってもらったりして、2年前には、彼が教えているレスターの大学で毎週集まっている(イギリスのだじゃ研のような)グループとレコーディングもした。ジョンとこうしてオンラインでワークショップができるのも、夢のよう。

 

今日は特別、だじゃ研の坂口さん(現在80代で、今回は光の量に反応して音を出す楽器を「えすーる」で参加)とジョンの即興セッションもやってもらった。参加者の方々は、テルミンオタマトーンシンセサイザー、自作のエレクトロニクス楽器などなど、様々な音で参加。既にそれぞれ面白い音がしている。ジョンの新曲「Zen for Zoom」は、Zoomなのに空間を感じる曲。演奏者が部屋の中を動き回るので、音が近づいたり離れたりして、いろいろな音の変化が生まれる。途中で、演奏者が部屋から出て行くので、最後には静寂が訪れる。参加者は、庭(または外)に出て静かな音に耳を澄まし、一枚写真をとって帰ってくる。そして、それをシェアする。すごく賑やかなエレクトロニクスの音に触れた後に、外に出ると、ぼくは静けさの中に響くエアコンの室外機の音が印象に残った。おそらく参加者一人ひとり違ったZenを体験したのだろう。続いて、「Slow Time」。これは、YouTubeの動画をスローモーションで再生するというもの。同じ動画をスローモーションで何人もで再生すると、不思議な音響になる。仕組みは簡単なのに、こんなカッコイイ音楽になるんだ、と感動。残り時間がわずかになったけれども、アルヴィン・ルシエに捧げる新曲「I am sitting in a Zoom」を演奏。これは、だじゃれ。ルシエの「I am sitting in a room」という曲のタイトルのroomをZoomにした「だじゃれ音楽」。喋り声は録音しプレイバックしていくと、どんどんセミの声のようになっていく。最後は、みんなも楽器で乱入して、素晴らしきカオス

【Zoomでエレクトロニクス!】世界だじゃれ音Line音楽祭 Day3 - YouTube

 

正直、今年の4月に初めてZoomを使った。これでリモートで合奏できるだろうか、と試みた。普通の音楽は、ほとんどできないことがわかった。だから、普通じゃない音楽をやるチャンスだと思って、8ヶ月間、実験をし続けてきた。そして、今日。Zoomを使ってリモートでやっているのに、こんなにストレスなく音楽が成立していた。それは、古典的な「音楽」というよりは、音楽の概念を広げるような「脱音楽」、「超音楽」だった。「世界だじゃれ音Line音楽祭」で、どうやらそんな「脱音楽」、「超音楽」が生まれ始めている。これは、一体、どんな方向にどう進んでいくのだろう?

 

ということで、「千住の1010人 in 2020年」は実現できなかったけれども、「千住の1010人 from 2020年」として2020年には十分に手応えを感じることができた。2021年には、どこまで行けるのだろう?無理して進んで行かないのに、気がつくと新しいことに繋がっていそうな気がする。

 

今朝も「四股1000」で四股を1000回踏んだ。今週半ばに寒さのために体調を崩したが、幸いにも何もなかったかのように復調した。昼間は、ピアノを練習し、夜は、砂連尾理さん、佐久間新さん、イウィンさん、里村さんと会い、JACSHAフォーラム2020の冊子をお渡しし、お話することもできた。2020年は、どんな一年だったかなぁ。年頭には、「脱皮」を抱負に掲げたけれども、本当に「脱皮」を強いられる一年でもあった。残り10日ほどになった2020年を最後まで満喫して、2021年に備えたい。