野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

「市民が参加するのだ!世界を変革するのだ!」とベートーヴェンが言った日

本日、アッセンブリッジ名古屋で『北口大輔がチェロリサイタルをするかと思いきや‥‥野村と鈴木が乱入してみた!ークラシックジャズチャンプルーー』だった。コンサートのPAをしてくれたのが、即興ギタリストの臼井康浩さん。お会いするのも超久しぶり。PAしていただくのは、本当に心強いのだが、臼井さんにも飛び入りでセッションに加わってもらったら、今日のトリオに大いに刺激になっただろうなぁ。またの機会に。

 

午前中のリハーサル後の空き時間を使って、アッセンブリッジの展示を見に行く。音楽の企画に参加しているけれども、同じエリア内の徒歩圏内に、色々展示がある。折元立身さんのアルツハイマーのお母さんの顔のお面をつけてロンドンの街中をうろうろするパフォーマンスの映像を見る。5年ほど前に、ベネチアビエンナーレの代表選考で、折元さん+野村誠+砂連尾理による展覧会を保坂健二朗さんが企画して、惜しくも次点となり実現しなかった幻のプロジェクトがあったことを思い出す。あの企画、ベネチアビエンナーレの日本代表には採用されなかったけど、そんな展覧会、どこかで誰かが企画実現したら面白いから、やるべきだなぁ、と思った。三田村光土里さんの絶妙な混沌としているようで調和しているインスタレーションや、部屋の畳や襖を外したりして、そこにある空間をうまく生かしたインスタレーション、丸山のどかさんのベニアなどで作られた虚像のようなオブジェたちによるインスタレーションなど、本日のコンサートへの良い栄養をいただいて、コンサート会場に戻る。

 

ワークショップが始まる。たった30分で、野村誠作曲『Beethoven 250 -迷惑な反復コーキョー曲』の最後の参加する場面に出演するためのワークショップ。13人の子どもたちが集まったが、全員小学生でヴァイオリン10人、チェロ1人、コントラバス2人。つまり全員が弦楽器。日本センチュリー交響楽団首席チェロ奏者の北口大輔くんと一緒のワークショップだからか。野村誠鈴木潤さんの二人でのワークショップでは、集まり方違っただろうなぁ。で、子どもたちとその場で遊びながら、いいアンサンブルが即興的に出来上がる。あれっ?これって、ベートーヴェンだと思ったら、アントニオ・カルロス・ジョビンの「One Note Samba」みたいだぞ。あれれ?

 

ということで、コンサートは北口くんのバッハで始まり、北口+鈴木で、北口作曲の「ノーモアブラームス」(これは、アントニオ・カルロス・ジョビンの「ノーモアブルース」というボサノバにブラームスが加わったような曲)、鈴木潤作曲の「マイレゲエ」と3曲進んだ後の4曲目のジョアン・ドナートの曲に、野村が客席背後から乱入する。せっかく二人がチェロとピアノで美しいアンサンブルをしているのに、プロレスラーが試合を邪魔しに乱闘するように入ってきて、ああいう人はレフェリーに追い出されるはずなのだが、相撲の浴衣生地の服を羽織り「私はベートーヴェンだ」と言って四股を踏んで、打楽器を鳴らしたりしている。そして、5曲目のジョビンの「One Note Samba」。今回のプログラムにやたらにボサノバが多いが、これは北口くんの選曲。ぼくはボサノバは嫌いではないが、そこまで興味があったわけではない。ところが、昨日『One Note Samba』の編曲をして、1音だけでメロディーだけになる仕組みを考えたジョビンは凄いし、これってある意味、楽器が不得手な人が参加できる仕組みの提案とも読めるなぁ、とジョビンを解釈すると面白く、すっかりジョビンにはまりながら演奏。最後の曲は、野村作曲の『Beethoven 250』。そのまま自称ベートーヴェンは、「政治は政治家だけが作るのではなく、市民が参加するものだ。音楽は舞台上の音楽家だけが演奏するのではなく、市民が参加するものだ。客席にいるみなさんも手拍子で一緒に音楽に参加し、心の中で歌えるように、私は単純なフレーズを何度も反復する」と語った。「市民が世界をつくり、市民が音楽をつくり、世界を変えていく。それが、私ベートーヴェンの音楽なのだ」と。そして、ベートーヴェンの音楽は、野村誠の音楽になり、鈴木潤と北口大輔の音楽であり、会場にいる人々の音楽であり、我々市民が主体的に世界を作っていくのだ、という激励のメッセージである。と同時に、そうした新しい市民参加社会を築いていく困難さと向き合う苦悩するベートーヴェンの憤りや苛立ちもあり、それでも世界を変革していきたいという強い意志もある。そうしたベートーヴェンの革命的な思いも200年の月日が経って風化して、オーソドックスなクラシックとなってしまっているけれども、でも、ベートーヴェンの精神こそ、今もう一度出会い直すべきものなのだ、と思った。ベートーヴェンのパンクなエネルギーを感じながら演奏し、子どもたちや観客の手拍子と共演できて、素敵な時間だった。そして、北口くんという素晴らしいチェリスト、潤さんという素晴らしいキーボーディストと共演するのは、本当に触発される時間だった。

 

アンコールに「テイクファイブ」を演奏。今日、デイブ・ブルーベックの伝記を読了したんだった。企画の岩田さん、関係者のみなさん、久しぶりにお会いできた名古屋の知人の方々、本当にありがとう。来年1月7日に名古屋でコンサートします。その日まで、また!!