野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

北口大輔チェロリサイタル3

ベートーヴェンの「交響曲第7番」に、個人的には全く思い入れはない。ベートーヴェンにも思い入れはない。なのに、相変わらず、このテーマで曲を書いている。ベートーヴェン生誕250年を祝福したい気持ちがあったわけでもない。偶々、ぼくが日本センチュリー交響楽団と仕事をしていて、このお題で作曲することになってしまったのだ。

 

なってしまったなどと言うと、巨匠ベートーヴェンには申し訳ないが、やっぱりなってしまったなのだ。21世紀に、なぜベートーヴェンをとりあげるのか?ベートーヴェンから何を受け取るのか。そうして、ベートーヴェンの音楽のことを考えているうちに、ベートーヴェンは難聴で聴覚障害がありながら作曲したので、「障害者アート」とベートーヴェンというテーマになっていった。そうしてみるとベートーヴェンの音楽は、延々と音階を繰り返したりして、自閉症の人と即興演奏をする時にしばしば見られる、しつこい反復とそっくりだ。だから、ベートーヴェン自閉症にテーマが移行していった。

 

そうこうしているうちに、都城で障害者施設や高齢者施設で即興をする機会があった。その時に、ベートーヴェンのメロディーを演奏してみた。すると、ベートーヴェンの単純なモチーフを何度も反復するのは、みんなで輪になって太鼓を叩く活動とぴったりだった。だから、ベートーヴェンは参加型の音楽で、参加しやすいように単純で反復するのだ、と思った。

 

でも、ベートーヴェンの音楽は、当時のオーストリアやドイツの人々に向けての参加を促す音楽なので、ぼくは21世紀の日本、アジア、オセアニアアメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、南米、世界各地の人々に向けて参加を促す音楽にしたい。さらには、人々のみならず、動物や宇宙や自然や霊魂などなどに向けても。ということで、作曲中。今日は、ベートーヴェンが初めてタンゴのように感じたので、タンゴのように書いてみた。この曲は、いつでも完成できるけれども、3月上旬に書き上げればいいので、少しずつ修正して変わってきている。じっくり熟成させたい。

 

本日は、北口大輔チェロリサイタルを聴きに行った。北口くんのジャズロック風の無伴奏オリジナル曲「キラキラ星変奏曲」から始まり、その後は、鈴木潤さんとのデュオ。ピアノとチェロのデュオ、キーボードとチェロのデュオで、潤さんの曲を3曲、ジョアン・ドナートを2曲と計5曲。ボサノバとレゲエで、チェロの魅力を存分に発揮するし、潤さんのピアノの音色もグルーヴもさすが。このデュオ、もっとやってほしい。

 

後半は、ピアニストが交代して、塩見さん。バッハ、ファリャ、ヴィラ=ロボスの3曲だが、それぞれ4楽章、6楽章、3楽章とあったので、後半の方が曲がいっぱいあった感じ。クラシックになっても、チェロの魅力を伝える北口くんの態度は一貫している。

 

世界に様々な民族がいて、様々な思想があり、様々な宗教があり、様々な音楽がある。しかし、世界は細分化されて、国境があったり、断絶があったり、紛争があったりする。ぼくは、作曲という仕事で、旅をして、この断絶を結びつけるべく、だじゃれ音楽などを、実践している。北口くんは、チェロという仕事で、これを体現できる人物で、オーケストラやクラシックのフィールドのみで活動するだけに留まらず、どんどん色々な場面で活躍していける。その可能性を、今日のコンサートは感じさせてくれた。

 

アンコールの「イパネマの娘」も楽しく、飛び入りしたくなった。みなさん、おつかれさま。