野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

JACSHA城崎レジデンス 中日八日目 preservationとinheritanceの違い

JACSHA(=日本相撲聞芸術作曲家協議会)のKIAC(=城崎国際アートセンター)でのレジデンスも本日が中日(8日目)。

 

朝、四股を300回踏んで後、明日の竹野小学校金管バトンバンドとのオンラインワークショップに向けて、打ち合わせ。たった1時間、一回切りのワークショップ。この貴重な1時間をどのように過ごすかを話し合う。この1時間がかけがいのない1時間であるために、どんなことができるだろう?もちろん、既に、相撲太鼓のワークショップ、相撲甚句のワークショップ、竹野相撲甚句体操のワークショップなど、JACSHAとしてのレパートリーをやってみることもできる。しかし、今回、初めての試みをして、明日の1時間で新たなフェーズに入るような特別な体験にしたい。

 

そうやって考えていく中で、竹野相撲甚句のメロディーは2年前に伝授していただいたが、踊りは、今回新たに伝授してもらった。この踊りのステップが、実は、なかなか単純なようで複雑。どうなっているのだろう、と整理して、楽譜に書いてみる。なるほど、こういう構造になっているのか、と楽譜として認識したことで、このステップを起点にして、金管バトンバンドにアレンジしていくアイディアが思い浮かんだ。最初は、40名全員でステップを覚える。そこから、徐々に、打楽器の子が太鼓を入れる。手拍子のところで、金管を鳴らす。そこに金管でメロディーを加える。バトンで振り付ける、というように。そんな風に、明日のワークショップの進行を組み立てていく。

 

弓取式もどきの実演をしたいので、弓のようなものを欲しいと、KIAC技術スタッフの藤原さんにお願いすると、角材の角を落としてやすりをかけて、見事な杖のようなステッキができた。これができたために、竹野相撲甚句保存会のように、オペラ双葉山保存会ができて、メンバーが全員天国に行ってしまうと伝承が途絶えるから、将来、最後の生き残りが次世代に伝えていかなければ、と「オペラ双葉山保存会」について考え始める。「オペラ双葉山」ができてもいないのに、「オペラ双葉山保存会」を設立しようとしている自分たちに大笑い。その後、英語ではなんていうのか、と考え始めると、保存をどう訳すかで、preservationとかconservationだと、違う気がするなぁ、となって、inheritanceなんじゃない?という話になる。つまり、そのまま保存し変化を認めないのか、次世代に継承されながら変化を受け入れるのか?という話。KIAC館長が、「しおふる」にならないの?と言って、Society for Inheritance of Opera Futabayama Legacies SIOFuLという名称を考えたりする。オペラ双葉山をOpFutという略称を考えたりして笑う。そもそも12年前に、JACSHAを始めた時も、こんな風にして笑いながら始まったのだった。当時の日記は、こちら。

 

2008-05-13から1日間の記事一覧 - 野村誠の作曲日記

 

夕方18時より、「JACSHAフォーラム2020」。ホールの客席を舞台にし、アートセンターの橋本さん、吉田さんをゲストに迎えて話す。「JACSHAのオペラ双葉山 ー地域/わけのわからないものを応援すること」というテーマ。KIACの橋本さん、吉田さんは、2年前にレジデンスに来た当初は、「オペラ双葉山」を狭義の舞台芸術だと捉えていたが、2年前のレジデンスを経て、舞台も、人との交流も、フォーラムも、ありとあらゆる活動が「オペラ双葉山」であると感じるようになったと言う。そして、狭義の舞台芸術の枠組みに留まらない活動であることを知った上で、JACSHAのアプローチを、地域資源を搾取して芸術作品をつくるのでなく、そこにリスペクトを持ち、自らが変容していくことを恐れずに、関わっていく。そこに共感し、可能性を感じ、今回の「オペラ双葉山 竹野の段」を主催事業として行うことにしたそうだ。そして、「多中心」であること。一つの中心に集約せずに、複数の中心が共存していくありよう。そうした議論が行えた。

 

疲労が溜まってきているが、折り返し地点。