野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

名前をつけることの有効性と危険性

四股を1000回踏む「四股1000」は、第2フェーズに入る。四股を踏んだ後のアフタートークが面白いので、そこをできるだけ記録していくことに。ぼくは、毎回、ここに印象に残ったことを少しだけ書くことにしよう。

 

四股とか相撲の所作とか双葉山とか、放っておくとすぐに神格化されたり、神聖視されたりするが、本当にそうなんだろうか、ととりあえず疑ってみる。疑ってみるけれども、先入観を捨てて、やってみる。そうすると、1000回踏もうが、毎日踏もうが、よくわからん。で、1ヶ月も経ってみた今日、やっていて、あれっ、なんだかちょっと着地の安定感が増したかも、という感じがした。上半身の脱力も、1ヶ月前よりは自然にできている感じがする。だからと言って、それが何の役にたつのかと言われたら、わからん。わからんが、若干、気持ちいいかも。いいかも。でも、わからん。コントラバス奏者の四戸さんがコントラバスの実演をしてくれる。コントラバスを弾く手の動きも、四股のようだ。だんだん、何でも四股に見えてくる。

 

昨日の10時間オンラインは、さすがに疲れた。今日は、四股1時間以外には、夏のワークショップに向けての1時間のオンラインミーティングのみ。画面の向こうでピアニストの中川賢一さんがスーパーハイテンションで、ヘッドフォンの音量を慌てて下げて、それでも、画面から溢れてくるようなエネルギー。この方は、やはり凄い演奏家だ。

 

残りの時間は、オフラインで過ごす。里村さんと昨日の「地域アートはどこにある?」打ち上げを巡って、いろいろ話をする。そんな中で、「名前をつけること」の有効性と、「名前をつけること」の危険性についてが話題になる。名前をつけること、ラベリングすることは、複雑な状況を単純化して、気がつかなかった構造や枠組みに気づけるきっかけになり得る。しかし、逆に、単純な枠組みを抽出して論じることで、実像と合致していないのに、レッテルを貼り、先入観の色眼鏡で見て、実像を見誤るリスクもある。だから、「地域アート」という言葉をつくることで見えてくることがあると同時に、その言葉を使うことで、見落とすことがある。だから、言葉を作ってそうした枠組みで見た次の瞬間に、一度、その言葉を捨てて、現実を注意深く見返す必要がある。ラベルを貼ることで見えたら、次の瞬間にラベルを剥がしてみるのだ。

 

同様なことは、ぼくとハイドンの関係でもあてはまる。何度も言うが、正直、ハイドンには、全く興味がなかった。「交響曲の父」、「古典派」の教科書的な退屈な音楽と、完全に色眼鏡で決めつけていた。しかし、以前レクチャーする際に、試しに、前情報ゼロで、文脈を無視して、先入観を捨てて譜面だけから読み取ると、ハイドンのイメージががらりと変わった。実験と遊びに溢れた挑発的な音楽家像が浮かび上がってきた。

 

さて、6月7日の「ハイドン大学」(オンライン)に向けて、ハイドン交響曲93番、95番、97番の譜面を見ていたのだが、全然面白くなかったのだ。「ハイドン=実験と遊びに溢れた挑発的な音楽家」と思って、そういうハイドンを譜面の中に探すのだけど、全然見つからない。ぼくは途方にくれた。つまらん、と思った。

 

ところが、「地域アート」のラベリングの話を思い出し、自分がハイドンは実験的で変な音楽家だと決めつけていることを反省し、今日は、新たに先入観を消し去り、ハイドンの楽譜に向かった。すると、あれれれ、ハイドンの違った味わいが見えてきた。昨日までのぼくは、ハイドンの一面しか見てなかった。でも、別の一面もある。また別の一面もある。

 

レクチャーに際しては、ぼくは、新たなラベリングをするだろう。ラベリングをすることで、魅力をわかりやすく伝えられるし、強調もできる。でも、ラベリングすることで見失うこともある。だから、色眼鏡をつけては、はずし、つけては、はずし、構築しては脱構築し、言語化しては非言語で体感し、それらを交互に続けていくことが重要になる。視点が固定化して見失わないように、要注意。

 

一ノ矢さんが、三味線弾き語りのための新作の歌詞を送ってきてくださる。いよいよ、これを野村が作曲して、秋には世界初演だ。今月は、三味線弾き語りの作曲と、25弦箏の作曲と、2曲新曲を書き下ろすことになるので、結局、ステイホームが中心になりそうだ。

 

天安門事件」を思っての音楽を録音して、香港のモックさんに送りたい。でも、まだ今日は、そこまで自分をチューニングできなかった。昨日の余韻と疲労が残っている。だから、のんびり呼吸をしようと思う。

 

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6月13日に、九州大学ソーシャルアートラボの企画で、門限ズとして、オンライン企画やります。申し込み受付中。詳細はこちら

 

オープン・ディスカッション「次にみんなで、何しよう?」|九州大学ソーシャルアートラボ

 

と、こちら。

 

オンラインワークショップ「それぞれの日常を交換する」|九州大学ソーシャルアートラボ