野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

香港との遠隔セッション

本日も、四股1000回踏む。1ヶ月前のJACSHAでのオンライン飲み会の時に、一緒に四股を踏んでみようかと発案があって、まさか毎日1ヶ月も続くとは思っていなかった。四股の感染は一気には拡散しなかったが、それでも、十人以上の人々を巻き込み、四股熱は収束に向かうどころか、さらに深まっている。鶴見幸代が三線を弾きながら四股を踏めることに驚いたが、自分で三味線を持って四股を踏んでみて、意外にしっくりきて、さらに驚いた。この先、どこに向かうのか、予測がつかない。

 

さてさて、今日は、香港のi-dArtと遠隔ワークショップを試験的にやってみた。 ミンキは、昨年6月の豊中市文化芸術センターでの「問題行動ショー」に出演してくれて、最後のシーンのダンスを踊った。目が見えないが、耳の感覚が素晴らしく、安定したリズム感を持つ。ヒウチンも昨年の「問題行動ショー」に出演。リズムに反応しての身体の動きも抜群。今日は、この二人が参加。どうやら、ぼくの姿は大きめにプロジェクションされているようだ。知的障害のあると言われる二人だが、二人とも素晴らしい音楽家である。もし、同じ場にいれば、難なくコミュニケーションができる。ところが、こうしたオンラインでのセッションで、果たしてコミュニケーションが可能なのだろうか、と思った。タイムラグがあるから、音は同時にならない。音質も決してよくない。こんな状況で、即興でコミュニケーションできるのか?

 

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ところが、始めてみると、不安は全部吹き飛んだ。彼女たちはマスクを着用して、画面の向こうにいる。挨拶をする。補佐役のメキシカが画面を指さして、「マコトさん」と言ってくれるので、ヒウチンはすぐに反応してくれるし、盲目のミンキは声が聞こえれたら、すぐに反応してくれる。そして、嬉しそうに演奏を始めた。タイムラグがあるとか、同時でないなど、音楽を共有する上で全く些細なことで、彼女たちは、そんな些細なことを超えた根源的なところで音楽をやっていた。ぼくの発する音を感じて、全身で体を揺らしながら木琴やジャンベや木の箱を猛烈な勢いで叩くヒウチン。ぼくのピアノのビートに的確に反応するミンキ。セッションが始まると、向こうの音が全然聞こえてこない時もあるのだが、聞こえなくても、彼女たちの演奏のエネルギーが画面を通して溢れんばかりに伝わってくる。音楽という交信/交流。聞こえても聞こえなくても、この時間を共有して共演すること。ヒウチンのとんでもない脱力での楽器の連打など、次から次に触発される演奏行為があり、ぼくは触発されながら演奏を続けた。1時間はあっという間に過ぎてしまった。自然にコール&レスポンスになったり、様々なやりとりも起こった。コミュニケーションが難しい状況で、かえって大切な部分が浮き彫りになる気がした。

 

香港との交流にエネルギーを使ったからだろうか、夕方、急に睡魔がきて、昼寝をした。家から外に出る機会が極端に少ない生活をしているのだが、意識の上では、外出が多い日々だ。これが、結構エネルギーを使うのかもしれない。

 

アコーディオン奏者のFanzhuohan Yangさんが、野村作曲の「誰といますか?」をYouTubeにアップしてくれた。この曲は2004年に作曲した曲で、もちろん作曲した当時に、新型コロナウイルス で濃厚接触を避けろと言われている時代に聞くことなど想定していなかった。でも、こんな時代に、「誰といますか?」という曲を聴いてみて、人が人と一緒に過ごすことについて、また違った感覚で思いを巡らせた。演奏してくださり、ありがとう。

 

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ベルギーの作曲家Hans Roelsが、サイトスペシフィックな音楽についての論文を書いたと送ってきた。近々、出版される予定らしい。樅山智子、トレヴァー・ウィシャート、メルライン・トワルフホーフェン、野村誠など、近しい人々の音楽についても触れられていて興味深い。時間がある時に、じっくり読んでみたい。

 

夜は、JACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)のオンライン飲み会。1ヶ月ぶりに、鶴見幸代、樅山智子、里村真理と4人で、だらだらと4時間話した。シリアスな話からバカ話から、妄想から、事務的なことから、なんでもかんでも話す。どうして、JACSHAは、こんなに笑うことが多いのだろう?マニアックなのに開かれているのだろう?いつもドリームプランを語るのがJACSHA。

 

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