野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ハイドンのボケ、遠隔しょうぎ作曲

2014年以前には、クラシック音楽やオーケストラには、あまり詳しくなく、活動の接点が少なかったのだが、2014年から、日本センチュリー交響楽団という大阪のプロの楽団と仕事をしていて、クラシック音楽を勉強する機会にもなっている。ハイドンの音楽には、失礼ながら本当に興味がなかった。貴族のおかかえで数多くの弦楽四重奏交響曲を作った古典派の王道作曲家として、あまりにもシンプルで退屈な作曲家だと思っていた。センチュリー響からの仕事の依頼で初めてハイドンのシンフォニーを解説することになった時も、人生で最初で最後だから、普段やらないことにチャレンジしてみようと思って引き受けた。ところが、そこからハイドンにはまった。

 

ハイドンの音楽は、簡単に言うと冗談や洒落の連続のような音楽。そこかしこに、変な仕掛けや罠が入っていて、聞き手にツッコミを要求する。ハイドンは、ボケまくっているのだ。しかし、演奏する側が、そのボケをあっさり演奏してしまうと、ボケはボケとして聞こえてこないので、スルーされてしまう。ボケに気がつかないと、ハイドンの音楽は退屈な音楽になってしまう。

 

ハイドン大學」では、ハイドンのボケをデフォルメして強調して、解説することをしている。このボケを強調するために、ハイドンのボケのエッセンスだけを凝縮して、「ハイドン盆栽」という短いピアノ曲集を作って、講義のレジュメとして譜面を配り、ピアノで実演してハイドンのボケを解説する。今日は、「ハイドン盆栽 第9番」の譜面を書いていた。

 

片岡祐介さんと鈴木潤さんとオンライン遠隔しょうぎ作曲をすることになった。5月22日の14時半から、こちらで。

 

 

今、大きなテーマになっているのが、同時が存在しない時差のある(タイムラグのある)音楽。5月5日に、「音楽の根っこ」に関するトークをした後に、片岡祐介さんと鈴木潤さんと即興演奏をした。時差がある状況で、即興で演奏する面白さがあった。お互いに同じ音楽を聴いていないことを前提に、演奏した。そんな中で、この相対的な時間の中で、「しょうぎ作曲」で共同作曲をしてみたいと思った。「しょうぎ作曲」は、ぼくが1999年に考案した共同作曲法だ。

 

2014年に「千住の1010人」を作曲した時にも、1010人の演奏者が空間を離れて演奏することを前提に作曲した。例えば、「パルス+3人の指揮者」という場面で、それぞれのグループは拍を演奏するが、離れたグループ間では、この拍(パルス)はずれて複雑なグルーヴになる。このたくさんのグループがパルスを演奏している中で、観客はいる場所によって、違ったリズムの重なり合いを聞く。

 

5月22日に、片岡祐介鈴木潤野村誠で行う遠隔しょうぎ作曲は、こうしたずれることを前提に共同で作曲することで、どんな音楽が生まれてくるのか、という音楽の可能性に挑みたい。この歴史的な瞬間を、最も信頼する音楽家の片岡さん、潤さんと行うことにした。5月5日の即興演奏と、どれくらい違った世界を創出することができるのか、というチャレンジでもある。今までのしょうぎ作曲とは全然違う音楽が生まれるような気もする。楽しみだ。