野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

無観客コンサート「はじめの一歩」

本日、ニコニコ動画で、無観客コンサートだった。

 

思い出すことは、2010年10月26日に、イギリスのティムの家で行なった即興コンサートで、観客から次々に曲のタイトルをリクエストしてもらい、それを即興で演奏し、ユーストリームで配信するというもの。当時の日記が残っている。おそらく、これが、初めて行なったネット配信のリアルタイムコンサート。ちょうど10年前。

 

ユーストリーム・ライヴ - 野村誠の作曲日記

 

あれから10年経って、まさか同じようなことを、プロのオーケストラのメンバーとするとは、10年前には夢にも思わなかった。今日は、そういう意味でも記念すべき日。

 

野村に与えられたお題は、ベートーヴェン交響曲第7番を題材に、アコーディオンとピアノのための新曲を作曲し、それを演奏するだけでなく、作曲家の視点からベートーヴェンについて語る、というもの。これは、当初、多目的室で定員100名で、開演前のオーケストラを聞きに来た人への無料サービスとしてのイベント「プレパフォーマンス&トーク」として行う予定だった。ところが、新型コロナウイルス の影響で、日本センチュリー交響楽団定期演奏会自体が無観客コンサートで、動画無料配信になったため、「プレパフォーマンス&トーク」も、動画配信となった。そして、定員100名だった「プレパフォーマンス&トーク」に3000人以上の視聴者が訪れてくれて、数多くのコメントの書き込みもしてもらえたらしい。ありがたい。

 

リハーサルで、「一度、猛烈に速い演奏で一回通してみよう」と言って、猛烈に速いバージョンで一回通した。これはこれでスリリングでよかったがリスクが高いので、本番はもう少し安全な演奏をしようと思った。最後に、「今度は、ややゆっくり目に味わうように通してみよう」と通した。これも、曲の細部まで丁寧に味わってよかった。ぼくは、アコーディオンの大田智美ちゃんに言った。「速くいっても、遅くいっても、大丈夫だね。でも、本番は、速すぎず、遅すぎずで、いくね」と。

 

しかし、無観客な上に、時間がタイトだったので、ハイテンションでベートーヴェンについて解説して、このまま演奏に突入すると、絶対にテンポが速くなりすぎるので、一度、深呼吸してからスタート。そして、新曲の世界初演は、これ以上に飛ばすと事故が起こるかもしれないギリギリに近いリスクのあるテンポでの演奏だったが、スリルも緊張感もありながらも、ベートーヴェンに気持ちで負けることなく、大田智美のアコーディオンとぼくのピアノはギアを緩めることなく、でも、最大限に楽器とホールの響きを味わいながら、演奏を進めていった。遠くパソコンの画面の向こうで聞いている観客達の気配を感じながら、聞こえない声援を聞きながら、ぼくたちは演奏した。そして、野村の新曲「Beethoven 250   迷惑な反復コーキョー曲」が14分ほど経つと、最後の観客参加の時間になる。本番直前なのに、センチュリー響のメンバーも、何人も参加して、手拍子してくれるし、楽器でアドリブで加わってくれる。これまで6年間、センチュリー響と色々やってきたから、無茶ぶりしても、やりたいと言って、一緒にやってくれるのは、とても嬉しい。もっともっと演奏していたいところだが、時間があるので、終わる。予定になかったが、一本締めをしてしまう。

 

そして、予定通り2分間だけ即興をする時間が残された。コメント欄にドレミで視聴者に書き込んでもらい、できれば、その画面を見ながら演奏したかったのだけれども、テクニカルな関係で、そこまでは実現せず、その画面を柿塚さんがホワイトボードに書き、それで即興。アコーディオンの大田智美も、センチュリーの小川さん(ヴァイオリン)、森さん(ヴィオラ)、末永さん(チェロ)にしても、普段即興で演奏しない人なのに、野村の無茶振りに応じて、やってくれた。せっかくニコニコ動画なのだから、双方向での可能性を探る試みを少しはやらないと、という思いから、急に提案してやらせてもらった。そして、即興で打ち合わせなしなのに、ソロもまわせたり、面白い曲ができた。

 

センチュリーの方々も、みんな興奮して喜んでくれたし、無観客演奏会の口火を切るためのトップバッターの役目は果たせたと感じた。

 

楽屋口のモニターで鑑賞したセンチュリー響の演奏会も、本当によかった。特殊な状況であることが、プラスに作用して、演奏することの喜びを体現する素晴らしい演奏会だった。時々、ニコニコ動画のコメントに、「野村さんの曲みたい」とか、「野村さんの交響曲を聴いてみたい」とか、コメントが流れると、それは嬉しかった。ステージ上にいる時も、コメント見れたら面白かったなぁ。次回チャンスがあったら、コメント見ながらやってみたい。

 

ドイツから、無観客コンサートを鑑賞して共演した動画が送られたり、いろいろ写真なども届き、反響があり嬉しかった。これは、最初の一歩。これで満足している場合ではなく、ここから、音楽会のあり方、演奏者と聴衆のコミュニケーションの取り方の可能性について、考えて深めていくことができれば、と思う。そうした最初の第一歩が踏み出せた意味では、今日、この体験ができたのが、本当に大きかったと思う。

 

とりあえず、新型コロナウイルスが収束できるよりも前に、我々音楽家が息絶えてしまわないように、しぶとく生き延びていく術を、みんなで探っていくしかない。いろいろ試行錯誤していこう。まけへんよーー!

 

ちなみに、日本センチュリー交響楽団の巖埼友美さん(ヴァイオリン)と吉岡奏絵さん(クラリネット)と野村誠(ピアノ)で昨年世界初演した野村作曲作品「問題行動ショー」は、以下の動画の46分あたりから60分あたりで見られます。砂連尾理さんと佐久間新さんがダンスしてくれています。(そして、1時間48分あたりからは、香港の人々らも加わって、ピアノとクラとヴァイオリンで)

 

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