野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

《オリヴィエ・メシアンに注ぐ20のまなざし》プログラムノート執筆

4月12日に開催する「愛と知のメシアン!!」の曲目解説を執筆した。3週間後に、新型コロナウイルスと我々人類の状況はどうなっているのか。予想がつかない。3週間後に聴きに来るお客さんの方々が、どんな状況でどんな気持ちで来て下さるのかも、想像がつかない。なので、ただただ、曲目解説を執筆。そして、ただただピアノを練習。本番に向けて、イメージしつつ準備をする。即興的に対応するのが好きな人間なので、とりあえず準備できることは準備しつつ、状況に応じて対応しようとは思っている。

 

 野村誠作曲《オリヴィエ・メシアンに注ぐ20のまなざし》(2018)

 

①異国の鳥、②インドの古文書、③音価、④強度、⑤逆行不能な鐘、⑥ギリシアの詩、⑦俳諧、⑧時の終わり、⑨瞬間の時間、⑩喜びのジャズ、⑪雅楽、⑫〜⑱(7つの)移調の限られた銀杏、⑲火の島、⑳ガムラン

という20のまなざしから構成した8曲。

 

1 異国の鳥とインドの古文書のまなざし

 

メシアンの《Traité De Rythme, De Couleur, Et D'ornithologie (リズムと色彩と鳥類学の論文)》の第1巻に、13世紀インドのリズムが120種類記述されている。ここからランダムにリズムを抽出した(メシアンっぽくないリズムもある)。メシアンの論文の記譜に従えば、なかなか複雑で間違えやすいリズムだったので、間違えを推奨するために、違った音を弾くと時々鳥が鳴くことにした。その結果、様々な音の組み合わせが、偶然出現する。

 

2 音価と強度のまなざし

 

メシアンの《音価と強度のモード》は、総音列主義の先駆的な作品で、シュトックハウゼンなど若い世代に多大な影響を及ぼした。しかし、この作品を別の視点から分析すると、高い音は短い音で、低い音は長い音で、それは、インドネシアガムラン音楽のようでもある。そこで、《音価と強度のモード》をコンセプトをそのまま、ガムランの音階にした。

  

3 逆行不能な鐘のまなざし

 

「逆行不能なリズム」は、メシアンが多用した回文的なシンメトリーなリズムのこと。メシアンは教会の鐘の音を模した和音を使ったが、この曲では、メシアンとは無縁の鐘を模した36種類の和音で、様々なシンメトリーを楽しむ。第1ピアノと第2ピアノは常に鏡の関係で、常に折り返し地点のみで、二人が同時に鳴らす。

 

4 ギリシアの詩と俳諧のまなざし

 

メシアンは来日を機に《7つの俳諧》を作曲した。ぼくは、2017年に、地歌越後獅子》に他の楽器を加えた《越後獅子コンチェルト》を作曲した。《越後獅子》の歌詞は75調だったので、《越後獅子コンチェルト》の第1楽章のを2台ピアノにアレンジし、メシアンのリズム理論に強く影響を与えた古代ギリシアのリズムをトッピングした。

  

5 時の終わりと瞬間の時間のまなざし

 

メシアンは《時の終わりのための四重奏曲》を作曲し、サティは《世紀的な時間と瞬間の時間》を作曲し、そこには永遠と瞬間の対比がある。メシアンが度々用いるイソリズム法やリズムカノンを、サティ的なシンプルさで提示し、リズムの面白さを強調した。

  

6 喜びのジャズと雅楽のまなざし

 

メシアンは《7つの俳諧》の中の《雅楽》で日本の雅楽を模倣した曲を書いている。ジャズを好まなかったメシアンだが、《喜びの精霊のまなざし》などジャズの和音やアドリブのエネルギーと決して遠くない。そこで、メシアンとジャズに共通する4度を重ねた和音でビートを刻み、雅楽の合竹の和音を加えた。喜びの精霊ではなく、喜びの「メリーさんの羊」が現れた。

 

7 移調の限られた銀杏のまなざし

 

メシアンのハーモニーは、7つの「移調の限られた旋法」をベースにしている。この旋法は、移調が限られるのだが、移調と銀杏を「イチョー」つながりで考えた。「大銀杏」とは、大相撲の力士が結う髷のこと。そこで、大相撲の太鼓のリズムとメシアンの「移調の限られた旋法」を合体させた。この曲で繰り返し演奏されるリズムは、大相撲の「はね太鼓」のリズムそのまま。

 

8 火の島とガムランのまなざし

 

メシアンの《火の島》は、パプア島に捧げたピアノ曲。火の島と言えば、活火山ムラピ山で有名なジャワ島が思いつく。ムラピ山に近接するジョグジャカルタで、パプア出身のダンサーがガムランで踊るのを見たことがあるので、ガムランを登場させることに。メシアンは、《火の島1》の中で、右手が6拍、左手が7拍で、ポリリズムシンコペーションを奏でるのだが、高音から低音に一気に下降し、あっという間に終わってしまう。このリズムの面白さを、じっくり味うべく、高音から低音まで、単調に何度も何度も下降させて、ずれのリズムを強調した終曲。

 

 

野村誠作曲《メシアン・ゲーム》(20 20)

 

メシアンと言えば、「戦争」、「炎上」、「介護」。戦争中に捕虜になり捕虜収容所で《時の終わりのための四重奏曲》を作曲し初演したエピソードはあまりにも有名。また、第2次世界大戦が終戦間近なフランスで発表した《神の現存の3つの小典礼歌》が大スキャンダルになり大炎上。同じ頃に、妻が精神病になり、長年介護をしながらの音楽生活を送った。中川賢一さんが、よく「オーイェー!」と勢いよく挨拶される姿が脳裏に焼きつき、メシアンの「移調の限られた旋法」第2旋法の響きで、メシアンの「戦争」、「炎上」、「介護」を歌うロックンロール。響きはメシアン、でも、ロック。そして、参加型。メシアンの大炎上から75周年を記念して。

 

あとは、自宅のDIY作業を進め、大相撲をネットで観戦したのだが、無観客場所も、初日には異様に見えたのに、13日目になると、だんだん違和感がなくなり見慣れてくるから不思議だ。人間は慣れるのが早いな。