野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

6時間の猛練習

両国門天ホールにて、中川賢一さんと2台ピアノのリハーサル。

13時から19時まで、みっちり6時間。中川さんのピアノが素晴らしすぎ、そして、音楽への情熱が素晴らしく、曲の理解や人柄も素晴らしく、感動の連続です。

19時半から、「両国橋アートセンター」オープニングイベントにて、中川さんと「相撲聞序曲」を演奏し、パーティーで皆様とも歓談。いよいよ、明日です。台風のコースが少し西になったので、東京直撃ではなさそうで、コンサートが開催できそうな気配です。

以下、決意表明です。

50歳の誕生日が来るのは、1ヶ月後なので、まだ49歳なのですが、1ヶ月先取りして、明日(9月4日)に、「中川賢一・野村誠生誕50年記念2台ピアノコンサート」を開催いたします。意気込みなどを書く機会は、今しかないと思うので、書かせて下さい。

このコンサートは、全て、2台ピアノで、演奏します。両国門天ホールは、ホールという名前がついていますが、非常に小さなスタジオで、パイプ椅子を最大50脚並べれば、満員になる空間です。ここは、黒崎八重子さんという方の熱い思いだけで運営/継続している奇跡のような場所で、アーティストが試みたい実験の場を提供してくれています。通常、こんなに小さなスペースに、ピアノは2台ないです。しかし、両国門天ホールは、毎年夏にピアノを一台レンタルして、2台ピアノ月間を実施し、2台ピアノの新しい表現を生み出すことを推進しています。だから、2台ピアノを、超間近の至近距離で凄い迫力で体験することができますし、細部まで味わい尽くすことができます。

演目は、全部で17曲あり、そのうちの14曲は、野村誠作曲作品で、そのうちの8曲は書き下ろしの新曲です。それ以外の3曲は、20世紀フランスの巨匠オリヴィエ・メシアン(1908−1992)の作曲した「アーメンの幻影」です。小学生の頃、ぼくのアイドルはバルトーク(1881−1945)で、中学生の頃、ぼくのアイドルは、メシアンで、メシアンに作曲を弟子入りしたいと、本気で思っていました。メシアンは、ふざけたところはなく、非常に真面目な人物だと思うのですが、しかし、書かれた音楽は明らかに変なのです。こんなに大真面目に独自性を出せるのが、凄いと尊敬し、中学3年の時に作曲した「Oniの衰退」は、メシアンの音楽に大いに影響されています。

そのメシアンピアノ曲は膨大にあり、「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」という曲だけでも、20曲あって、2時間くらいかかるのに、メシアンピアノ曲の全曲演奏会を行うという凄いピアニストが日本にいます。それが、中川賢一さんです。メシアンの演奏の第一人者で素晴らしいピアニストの中川さんと、メシアンで共演させていただくというのは、横綱に胸を借りるようなものです。恐れ多いので、そんな大それたことは思いもよらなかったのですが、50歳という年齢で、いつまでも若いわけでも体力があるわけではない、と思うと、挑戦できる時に挑戦しないと、と思い、横綱ピアニストに共演を申し入れました。

新曲「オリヴィエ・メシアンに注ぐ20のまなざし」は、もちろんメシアンと中川賢一さんに捧げて書きおろしたものです。メシアンを知っていても知らなくても楽しめるように作曲しました。メシアンという作曲家は、鳥の鳴き声をピアノで演奏したり、古代インド音楽のリズムを取り入れたり、ギリシアの詩のリズムを取り入れたり、さらには、モーツァルトのリズム法を参照したりしている、と本人は言うのですが、模倣が単なる模倣ではなく、参照しているのに、まったく別物になっているところが、面白く、作曲する勇気をもらったのです。自由について、最も多くを教えてくれた作曲家は、メシアンです。メシアンの「7つの俳諧」という曲の中で、ウグイスが鳴きますが、あんなウグイス聴いたことがない、という鳴き方をします。「雅楽」という曲がありますが、全然「雅楽」っぽくない「雅楽」です。自分の感性で音楽を書いていいんだ、と励ましてくれた作曲家です。だからこそ、メシアンへのお礼の意味も込めて、今の野村がメシアンを模倣し、全然メシアンじゃない音楽を書いてみたいのです。8曲どれもがメシアンを参照していますが、メシアンとは違った音楽になり、普段の野村が書かないような音楽が書けることが喜びでした。世界が広がりました。

それにしても、中川賢一さんは凄いです。昼の13時から夜の21時まで、ノンストップで、二人で練習しました。おやつもなし、食事もなし。音楽に対する情熱を失わず、体力も集中力も持続して、こんなに一刻一秒も大切にして、丁寧に一生懸命音楽に取り組んでおられる姿は、感動的で、リハーサルで既に感動の嵐が吹き荒れております。そして、今日から明日にかけて、台風の嵐が吹き荒れる中、リハーサルを続けます。明日(9月4日)の本番時に、台風が既に通過してくれていることを祈りますが、天気予報を見る限りでは、それは希望でしかないかもしれません。悪天候の中、無理に来て下さいとは申しませんが、それでも、皆様方のご来場、お待ち申し上げます。とにかく、悔いのないように、全力で演奏に向かいます。