野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

日本音楽を奏でるギタリスト

 

2月15日に大阪のフェニックスホールでの會田瑞樹ヴィブラフォンリサイタルで世界初演になる新曲「相撲ノオト」のプログラムノートを書いた。

 

相撲ノオト Sumo Note  野村誠

 

1 土俵入り

2 取組

3 大一番

4 ストニコ

 

 2008年に、鶴見幸代、樅山智子と日本相撲聞芸術作曲家協議会(JACSHA)を発足した。日本相撲聞芸術作曲家協議会(Japan Association of Composers for Sumo Hearing Arts、略してJACSHA= ジャクシャ)とは ― 全国各地に伝わる相撲神事や大相撲をリサーチし、神事であり、芸能であり、スポーツ であり、エンターテインメントであり、伝統であり、現代であり、文化であり、つまり智慧である相撲に耳を傾けること(相撲聞:すもうぶん)によって、新たな芸術を創造する作曲家の協議会。「相撲聞芸術のもくろみ』(アサヒアートスクエア)、「さいたまトリエンナーレ2016」 にて、インスタレーション「相撲聞芸術研究室」とパフォーマンス「JACSHA 土俵祭り in 岩槻」、「岩槻と相撲と音楽2017」ワークショップ&トーク〜行司さん編、「水と土の芸術祭2018」にて「JACSHA土俵開きinあけぼの公園」、城崎国際アートセンター(豊岡市)レジデンスアーティストとして「はじめまして!コンサート」などを開催。

 また、野村個人としても、3重唱「相撲トリエンナーレ」(2016)、ピアノ連弾の「相撲聞序曲」(2017)、2台ピアノのための「土俵の譜」(2017)、3重唱「但馬土俵開きのうた」(2018)、ヴァイオリンとピアノのための「土俵にあがる15の変奏曲」(2019)などの作品を作曲してきた。

 「相撲ノオト」は、ヴィブラフォン独奏のために作曲。4つの小品が(アタッカで)途切れなく一続きに演奏される。

 1曲目の「土俵入り」は、横綱土俵入りの動きをトレースして作曲。特に、双葉山引退相撲での土俵入りの動画の静かで美しい動きには大いに触発された。

 2曲目の「取組」は、ヴィブラフォンを土俵、右手と左手に持つマレットを力士と見立てての取組。何番も取り組みが行われる度に、異なるマレットが登場する。マレットの違いや音色の違いにも注目してほしい。

 3曲目の「大一番」は、土俵際で堪えて勝負がなかなかつかない好取組。常に黒鍵を奏する東方力士と、常に白鍵を奏する西方力士の激しいせめぎ合いの音楽。

 気がつくと、4曲目の「ストニコ」が始まっている。この曲は、大相撲の朝に演奏される一番太鼓のリズムに基づく。通常は、朝の最初に演奏されるリズムを曲を敢えて、曲のエンディングに持ってきた。実際の相撲の音の時系列とは異なるとも言えるし、翌日の朝と解してもいいし、そもそも、そのようなことを気にせずに聞いてもよい。ちなみに、この太鼓のリズムは、長い音符をトン、短い音符をト、休符をス、と口伝で伝承されてきた。例えば、トントンストン、トントトン、などといった具合に。それを、大相撲の高砂部屋の邦夫さんから教わったのだが、その中で例外的な間が一つあり、それは「ストニコ」と伝承されていた。「ストン」よりも少し長い音符で、一番太鼓のリズムに登場する。

 

ギタリストの渥美幸裕さんが訪ねてくる。邦楽2.0、NIPPONNOTE RECORDSとして活動されていて、今月頭に新年会で出会った。ぼくの理解する限り、ギタリストでありながら、ギタリストとして、日本の伝統音楽を学び、それをギタリストとして実践している稀有な人。ギターが弾けるなら、三味線もやってみよう、ではない。あくまでギターにこだわりながら、三味線と一緒にやったり、民謡と一緒にやったり、古典の世界にギターを追加していく。古典に敬意を示しつつ、古典を歪めずに、ギターを付け加えて、古典を21世紀に蘇らせようとする。ユニークな活動をしている。しかも、日本の伝統音楽と一口に言っても、歌舞伎も能も民謡も浪曲文楽地歌箏曲雅楽も、、、、と色々あり、琉球民謡やアイヌの音楽や、、、、、色々ある。それを、限定せずに、全部横断的にやろうとしている人。ちなみに、そのいろいろある中に、相撲もある。

 

ぼくも、「六段→交段→空段→穴段の調」という曲で、邦楽の古典「六段」にアコーディオンとピアノを書き加えて、さらに、その続きまで書いたこともあるし、地歌の「越後獅子」にピアノや弦楽やクラリネットトロンボーンを加えた「越後獅子コンチェルト」を書いたこともあり、大変、共感する部分も多い。

 

渥美さんと、何かを始められたら面白いと思う。邦楽の演奏家の中には、古典に精通するだけでなく、洋楽にも明るい人もいる。しかし、洋楽の演奏家の中に、邦楽に明るい人は決して多くない。だから、渥美さんのような人が登場して、洋楽と邦楽のミュージシャン同士の交流が、頻繁に起こるのは、すごく新しいことなのだと思う。

 

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