野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

東大と音楽の未来をつくる

東京大学という大学があり、日本の中では最も研究費が潤沢にあり、様々な研究が行われている研究/教育機関がある。今日から行われている東大駒場祭という学園祭での東京大学新聞の主催でのシンポジウム/コンサートに出演してきて、大変、刺激を受けた。

 

それにしても、会場が東大。モデレーターが、東大の現役の学生である円光門さん。

パネラーが、東大教授の小田部胤久先生、東大卒のピアニストの園田涼さん、東大大学院生でピアニストの角野隼斗さん、そして、野村誠。つまり、ぼく以外は、全員東大関係者。完全にアウェー。

 

控え室で小田部先生とお話する。なんでも、「こどもと音楽の未来をつくる」というシリーズを東大で開催したそうで、その話をいろいろ聞かせていただく。面白そう。東大を面白く活用することもできるし、東大生を面白く活用することもできるし、東大教授を面白く活用することもできる。東大や東大生や東大教授が、東大らしいイメージを払拭できないでいる必要はない。これまでの高々100年ちょっとの歴史で築かれた東大なんていうイメージなんて関係なく、これからの未来の東大になっていったらいい。「こどもと音楽の未来をつくる」と同時に、「東大と音楽の未来をつくる」もあり得るなぁ、と思う。

 

こどもと音楽の未来をつくる

 

14時に始まったシンポジウムは、休憩のないまま16時半くらいまで2時間半突っ走り、様々な話題を突散らかして、これから議論が深まっていくところまでで時間切れ。第2部のコンサートの前の10分間の休憩の間に、小田部先生とお話しし、印象に残った言葉が、「未来のコンセンサス」という言葉。つまり、未来で合意を得るために、様々な文化的な接触、交流などをしていくことに意義がある。合意に達した上で交流をする場合は、現時点で合意できる間柄しか交流できなくなってしまう。その辺の話、面白かった。

 

16時45分ごろにようやく第2部のコンサートが始まり、角野さん、園田さん、野村とそれぞれ、20分ずつ演奏。それぞれが即興演奏をした後に、レパートリーを演奏したのが印象的だった。そして、角野さん、園田さん、ともに、ショパンを弾いた。(園田さんはジャズアレンジの)。ぼくは、自作の「たまごをもって家出する」をボロボロな演奏で弾ききった。来月、ポーランドフレデリック・ショパン音楽大学でコンサートするし、フレデリック・ショパン高校でワークショップするし、その時にも「たまごをもって家出する」を弾くつもりなので、今日は、ポーランドに向けても、触発されることが多かった。そして、急な思いつきで、角野さんと「相撲聞序曲」を連弾したが、本当に素晴らしいピアニストで、共演していて、本当に楽しかった。最後は、園田さん、角野さんのピアノ連弾に、野村が鍵盤ハーモニカで加わってのセッションで終了。

 

懇親会でも、いろいろお話ができて良かった。角野さんは、大学院でAIと音楽に関する研究をしている。ぼくは、バッハは素晴らしい作曲家だと思うし、現時点では人類最高峰の一人の作曲家だと思うが、バッハの音楽が存在し得る至高の音楽だとは思わない。それこそ、人工知能が発達して、バッハの音楽なんて稚拙だと感じられるくらいのとんでもない音楽を作曲してくれたっていいし、そうした音楽の存在を想像している。何十年かして、人工知能がバッハなど人間の作曲を遥かに凌ぐ音楽を作った時に、その音楽の価値をぼくは味わえるだろうか?人間には難しすぎてチンプンカンプンなのか。それとも、そうした音楽に触発されて、人間ももっといろんな音楽がつくれるようになるのか?そんなことを想像しながら、ぼくはこれからも、そうした音楽に辿り着くために、アリクイと音楽をしたり、人工知能に音楽を教わったり、子どもたちと音楽を創作したり、様々な共同作曲を試みたり、世界の色々なところを旅したり、していくのだと思う。

 

それから、東大という日本の中では知名度も高く、研究費も多い大学が、音楽や芸術の領域横断的な研究をする場として、機能できる可能性は十分にあるのだから、そこをどんどんやっていって欲しいと思う。

 

それにしても、2時間半のシンポジウムの後に、さらに二人のピアニストの演奏を20分聞いた後に演奏する、というのは、なかなか他では得難い体験で、このような機会をいただいたことに、本当に感謝!円光くん、ありがとう!みなさん、ありがとう!多謝!!!

 

そして、宿にチェックインして、ポーランドのアルベルトと打ち合わせ。12月16日のワルシャワでのレクチャーについて。