野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

帰国のち、センチュリー響

寧波大学ホテルをチェックアウト。空港を目指す車内で朝食。焼き小龍包と豆乳。最後まで中国の食の豊かさに圧倒される。

王さんとお別れし、チェックインし、あっという間にボーディング。たったの2時間で関西空港に到着。帰りは、偏西風に乗るので早い。大阪と寧波の距離は、大阪と札幌くらいかもしれない。大阪音大の皆さんとお別れ。おつかれさま。

バスで京都に移動。関西空港から京都も2時間くらい。京都駅で明日の鳥取駅へのバスの切符を購入して後、市バスで自宅を目指す。

自宅に戻ると大急ぎで洗濯。そして、日本はインターネットの規制がないので、メールをチェック。4日分のメールを受信するが、返信する時間がないまま、大阪での日本センチュリー交響楽団のコンサートへ。

今日は、シンフォニーホールで、日本センチュリー交響楽団定期演奏会なのだが、プログラムが、チャールズ・アイヴズの「答えのない質問」、「交響曲第2番」、マイケル・ナイマンチェンバロ協奏曲」、バーバー「弦楽のためのアダージョ」という珍しいプログラムなので、疲れているけれども無理して聴きに行く。

客席には、作曲家、音楽評論家の方、ホールの方、音楽学者の方など、色々な方がおられる。1曲目の非常に繊細な音色での美しい緊張感の中に調子はずれの管楽器が加わる「答えのない質問」が美しく終わった瞬間に、2曲目バーバーが始まる。なんと2曲をつなげたメドレー。指揮者の川瀬さんのアイディアか。ナイマンのチェンバロ協奏曲は、1995年作曲。ぼくがイギリスのヨークに住んでいた頃に作曲されたもの。あの当時のイギリスのことも思い出しながら、聴く。もっと単純な曲かと思いきや、なかなかの複雑怪奇な曲でソリストのみならず楽団も熱演する狂騒曲。アンコールに応じ、チェンバロソロは、パーセル。イギリスの作曲家のナイマンはイギリスの作曲家のパーセルを研究して、パーセル的な響きの曲が特色なので、この選曲はうなづける。

後半は、アイヴズの「交響曲第2番」。この曲の5楽章は、センチュリー響が小学校巡りで、何度も演奏しているらしい。小学生に面白さが伝わるように、という意識で何度も演奏した経験がある曲を、新進気鋭の指揮者のタクトで熱演。客席にいた音楽評論家が、この曲をこんなに楽しそうに演奏するのか、と驚く。同じ曲をNHK交響楽団が(つまらなそうに?)演奏したのを聴いたそうで、そのギャップに驚愕したらしい。小学生に聴かせる演奏を何度もしてきたセンチュリー響であり、鈴木潤さんと高齢者との即興演奏をしているセンチュリー響であり、野村誠と一緒に邦楽器やシタールやバリガムランと一緒に大合奏しているセンチュリー響であり、イギリスのマンチェスター・カメラータの人と即興のトレーニングをして耳が開いてきたセンチュリー響である。日本の他のオーケストラがしていないような音楽的な経験をしているのだから、こういう演奏ができるんだ、と(身内の贔屓の気持ちもあるかもしれないけれども)思う。とにかく、ポジティブなエネルギーに満ちた素晴らしい演奏会だった。この楽団だったら、時に繊細に時に野蛮に、大胆に色々な味わいを楽しめると思う。

このオーケストラのためだったら、本当に喜んで曲を書きたい。野村が次にオーケストラ曲を書くなら、絶対、センチュリー響。この楽団のために書く場合は、このメンバーたちの顔を思い浮かべながら作曲できるし、この人たちの特色を活かして書けると思えた。こんなにオーケストラを愛することができている自分が不思議だが、柿塚拓真というマネージャーの様々な仕掛けに4年半も付き合ってくると、変わってくるものだ。

終演後、ロビーで楽団のメンバーと次々に顔を合わせる。演奏が終わって興奮されている皆さんとお話できる貴重な時間。近年のセンチュリー響の定期演奏会は、本当に充実しているなぁ。ヴァイオリンの巖埼さんが、11月18日に、ぼくの作品(「ルー・ハリソンへのオマージュ」)を演奏してくれたと挨拶して下さる。12月20日の彼女のリサイタルでは、古典からブーレーズブリテンなど20世紀の音楽までの意欲的なプログラム。リサイタル聴きに行きます。ヴァイオリンの小川さんが、「先生、中国行っておられたんですか。次は、ニーハオ音楽やりましょう」と仰る。皆さん、新しいことにチャレンジすることに臆するところが全くなく、ワクワクされている。打楽器の広川さんが、今度よろしくお願いいたします、と挨拶される。来月1月25日の定期演奏会で、ぼくの曲(「ポーコン」)を演奏して下さるので、来週には、初練習があるらしい。こちらこそ、よろしくお願いいたします。チェロの北口くんが、作曲家の近藤さんの曲を今度演奏するらしい。昨年の北口チェロリサイタルの打ち上げで近藤さんにご紹介したことをきっかけに交流がどんどん広がっている。

これからも日本センチュリー交響楽団をどうぞよろしくお願いいたします。