野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

メシアンと中川賢一と対峙した一夜

巨大な台風が接近している中、なぜか両国は雨も降らずにいます。西東京までは雨が降っているのに、ここだけ雨が降っていなかったようです。ところが、名古屋でも在来線が全て止まり、コンサートに来られないとの連絡が入り、東京都内の電車も大幅な遅延が出るなど、相当な事態であったようです。

本日のコンサートは、中川賢一さんと野村誠の二人で野村誠作品14曲とメシアン作品3曲の合計17曲を演奏するのですが、コンサートは二人だけでつくるものではありません。今回は、千住だじゃれ音楽祭の「だじゃれ音楽研究会」(だじゃ研)のメンバーがスタッフとして、お手伝いをしてくれました。譜めくり、会場づくり、物販、撮影、観客誘導、などなど、様々なことを担当していただき、さらには、観客参加の場面も積極的に参加していただきました。皆さんの力があってのコンサートでした。

そして、台風の中、電車の遅延の中、超満員の客席になったのは、観客の皆様のおかげであり、狭い会場でギッシリの状況で最後まで見守って下さった観客の皆さんのエネルギーがなければ、今日の演奏をすることはできなかった。皆さんとも一緒に作ったコンサートでした。また、観客参加の時間にもご参加ありがとうございました。

電車の遅延が相次ぐ中、開演の時点で予約のお客様の7割以上が到着しておられましたが、それでも、3割近いお客様が遅れていて、急遽、プレコンサートトークを開催し、開演19時であるところを、19時ー19時25分が、プレコンサートトークとなり、実際の開演は19時25分になりました。この25分のトークの中で、メシアンという作曲家について、中川さんと色々話すことができたのは、とても貴重な時間になりました。

19時25分に開演した第1部は、野村誠作曲作品6曲で、予定通り1時間かかり、20時25分に休憩となりました。

20時40分に、第2部が開始、メシアンの「アーメンの幻影」を中川さんと2台ピアノで演奏する。クラシックはクラシックの専門家が演奏したらいいし、現代音楽は現代音楽の専門家が演奏したらいい。ぼくのフィールドではない。この立場を守って活動してきました。ただ、鍵盤ハーモニカでは、そのプロがいないので、クラシックも現代音楽も演奏するけれども、ピアノは素晴らしいピアニストがいるので、野村は、ピアノでは、自作曲か即興演奏しかしない、と専門性を明確に活動してきました。しかし、今回は、掟破りで、メシアンの専門家の中川さんとメシアンで共演させていただきました。2018年の今、なぜメシアンを演奏するのか、その問いの答えは、いろいろあるのですが、とりあえずは、皆さんはどう思われたのか、聞いてみたいものです。

「アーメンの幻影」が終わった時点で、21時をまわり、お客さんの拍手のボリュームも凄かった。ここで、コンサートが終わってもいいくらいですが、この後に、野村の新曲「オリヴィエ・メシアンに注ぐ20のまなざし」の8曲が待ち構えていました。中川さん曰く、メシアンの「アーメンの幻影」を今まで何度も演奏したが、この曲はもの凄いエネルギーとパワーと使うので、この曲はいつもコンサートの最後の曲だった。この曲がコンサートの途中に入ったのは、初めてだ、とのこと。この曲で、全エネルギーを注ぎ込んで演奏したつもりですが、幸いにも、まだ8曲演奏する体力は残っておりました。

新曲8曲は、2018年の今の野村からのメシアンへのお返事。メシアンの音楽から、我々はこのように継承していきます、という8つの例。メシアンは膨大な作品を残していますが、メシアンの1949年の「音価と強度のモード」は、20世紀後半の現代音楽に大きな影響を与え、トータル・セリエリズムの音楽が生まれてきます。しかし、それは、メシアンの膨大な遺産のうちの、たった数分の小品としてのポスト・メシアンでしかない、と思うのです。メシアンの膨大で多様な面を持つ遺産の一面だけを現代音楽は継承してしまったのではないか。ポスト・メシアンとしての現代音楽は、もっともっと多用であり得る、とぼくは思う。ぼくがメシアンに見る自由、メシアンに見る様々な遊戯、様々な作曲技法を、8つのサンプルとして紹介しました。おそらく、メシアンに注ぐまなざしは、何曲でも書けると思います。書こうと思えば、第2集でも、第3集でも書けると思いました。

これらの新作初演に付き合って下さった中川さんに感謝しながら、そして、このマラソンのようなコンサートに最後まで席を立たずに残って下さった満席のお客様に、大いに感謝しながら演奏を続けました。アンコールで、ピアノを変えて「十年音泉」を演奏した後、さらに、もう一曲のアンコールで、「ハッピーバースデイ」を演奏し、22時少し前に終演し、その後、簡単なお飲物を用意しての会場でのミニ打ち上げにも多くの方が残って交流していただき、22時半に大慌てで片付けて、23時頃に、ようやく出演者とスタッフで中華店で夕食と乾杯を始めることができました。お昼から何も食べずに、中川さんもぼくも皆さんも、本当に本当にありがとうございます。中華料理は、あっと言う間に食べ尽くされたので、本当に空腹でした。

皆様、本当にありがとうございました。中川さん、また何かでご一緒できれば幸いです。