野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

メシアンと中川賢一から学ぶ

名古屋での猛稽古が続いている。中川賢一さんは、メシアンピアノ曲を全曲演奏するメシアンスペシャリストで、現代音楽グループ「アンサンブルノマド」などで活躍する現代音楽のスペシャリスト。こちらは、大学生の頃にアマチュアとしてメシアンを演奏した以外に、メシアンの公開演奏などしたこともないので、メシアンの初心者だ。それでも、野村独自の音楽活動を展開してきたので、恐れ多くもメシアンの大家である中川さんと2台ピアノでメシアンを共演させていただくことに挑んだのだ。

 

そもそも、クラシックや現代音楽のレパートリーを部外者である野村が演奏するなんて、考えたこともなかった。ぼくの領域は作曲と即興演奏。だから、即興演奏でピアノを弾くのは、自信を持ってやってきた。自分が作曲した曲を作曲者として自作自演することも、やってきた。では、どうして領域外に手を出したか。それは、オーケストラと仕事を始めたことが原因だ。日本センチュリー交響楽団の楽団員は、クラシックを演奏する専門家だが、苦手意識のある即興演奏やワークショップに果敢にチャレンジしている。自信がない苦手領域に取り組む態度に、ぼくは感銘を受けたと同時に、だったら、ぼくだって、逆に、クラシックの演奏に果敢にチャレンジしてもいいじゃないか、と思うようになった。だから、メシアンをやっている。

 

しかし、即興演奏や自作自演で表現するのに比べて、メシアンを通して表現するのは、なかなか大変だ。まずは、厄介な譜面をしっかり読み込み、自分のものとして消化しないことには、表現/解釈に到らない。そこまでの作業だけでも、不慣れなので大変で、さらには、中川さんとアンサンブルする上で、二人のイメージを共有しないといけない。そうした確認作業をしっかりやり、ようやく音楽で遊べる土台ができあがった。メシアンの音楽の中に何を見出し、どう表現するか。それが結実しつつあり、明日の本番が本当に楽しみになった。

 

ドイツに占領されたパリで、1943年に作曲し初演した《アーメンの幻影》だが、戦争の厳しい環境の中、表現する場を求め、苦しい状況の中で生きる意味を考え作曲した音楽だからこそ、混沌とした世界の中に光が差し込むような音楽が書けたのではないか、と思う。様々な音楽技法の実験を盛り込みながらも、単なる技術革新に陥らない。単なる宗教音楽や神秘主義でもない。人間味溢れる苦悩を持って創作したエネルギーに、ぼくは勇気付けられるので、この作品を通して、21世紀の現在を生きていく上での立ち位置を再確認するために、この音楽を2021年に演奏してみたいと思う。

 

リハーサルには、譜めくり要員として強力な助っ人二人が来た。牛島安希子さん、野口桃江さんという名古屋の気鋭の作曲家だ。3年前に「エンリコと名古屋の作曲家」という企画で、ご一緒させていただいたお二人が譜めくりでいるのは、本当に心強い。

 

ということで、明日の本番に向けて、テンションが高まりまくる中、朝から晩までピアノを弾いて、明日に向けて準備中。

 

一方、東京藝術大学の卒業試験で野村誠作曲《弓から弓へ》を演奏するコントラバス科の水野翔子さんから、最終リハーサルの動画が届く。こちらも、本当に4年間の最後を飾るにふさわしい気持ちのこもった演奏で、本番が楽しみだ。