野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

天才の方がスキンシップを求める

日本への帰国カウントダウン、香港も残り16日。

朝、「點心組曲」第4楽章「MTR Remix」の11回目。既に、準備した出来上がった曲の演奏を練習した後に、カヤンが録音のスイッチを押すように指示してきた。彼女にとって、過去の自分をなぞることだけでなく、今、新たに作り続けることが重要なんだ、と思い、ぼくは即座にスイッチを押した。前々回までと同じように、録音しては、新しいフレーズをいい、また録音する。彼女は、作品を完結させることよりも、新たに録音すること、新たに生まれてくるものに出会うことを望んだ。だから、7月8日のツアー・パフォーマンスでは、フィックスした作品をやるだけでなく、その場で生まれてくるものもやりたいと思う。

今日からは、各セッションごとにi-dArtのスタッフの担当が割り振られ、本番のセッティングなどを考えていく作業が始まった。カヤンの「MTR Remix」は、カヤンの絵画作品とともに鑑賞できるような空間にしたい。

その後、香港駅まで俳優の倉品淳子さんを迎えに行く。昨日、小日山さんが帰国し、今日は倉品さんが来る。倉品さんとランチ後、JCRCに到着。

午後は、「點心組曲」第5楽章の「静かな五重奏」の10回目。このセッションは、今日を含めて本番まで3回リハーサルがある。相変わらず、反応はそんなに多くない、ミニマルなパフォーマンスで、だからこそ、何かが起こった時に、非常にドラマチックになる。今まで一度しか楽器を触ったことがなかった人が、ピアノを初めて弾いた瞬間と、彼の驚きの表情。いつも部屋の中を歩き回る人が椅子に座った瞬間など、色々なドラマがある。自分のTシャツの色と、鉄琴の鍵盤の色の色合わせをしている人。みんなマイペースで、自分の世界に浸っている。その掛け合わせの中で、ぼくだけが、みんなと関係を結ぼうとしていることに違和感を感じ、最後は、ぼくも自分の世界に没頭することにした。それが、一番よい存在の仕方なのだ、という当たり前のことに気づく瞬間。

「點心組曲」第6楽章の8回目。今ではタイトルは「ピアノ協奏曲」となり、本日は、本番の会場である中庭で。中庭でやりたいのだが、視覚的に一番美しい場所は、暑すぎて無理で、比較的風通しのいい場所を選んでやる。ここでやると、偶々通りがかった人が立ち止まり観客になってくれる。初めて観客がいる形で上演。実際に拍手をもらうこと、おじぎをすること、そうしたことが、モチベーションを高めていく。ここは、次回が、7月5日の本番への最後のリハーサル。

「點心組曲」第14楽章「Improvised Cantonese Opera」の10回目。もうここは、ほぼ本番を想定しての通し稽古。今までに作った9つの歌とインストの合計10曲を一気に演奏する。2回通し稽古をして、倉品さんの即興芝居を少しだけ体験。次回が、最終リハーサル。

そして、「マコトバンドA」の最終リハーサル。昨日は、トラムを想定した仕切られた場所で演奏することに困惑したメンバーも、二日目にして、既に慣れたのか、昨日よりも断然、演奏のクオリティがあがっている。相変わらずの天才ぶり。ここはメンバーが濃いので、爆発ピアノくんを筆頭にしたチームと、仕切り女王を筆頭にしたチームの2チームに分けている。仕切り女王とノリノリちゃんが、もの凄く自分の世界でガンガンに演奏するのに、実は二人で波長があったり共鳴し合ったりして、それが奇跡のようでもある。このチームは、みんなマイペースなのに、ぼくにスキンシップを求めてくる。ある意味、自分の世界を持っている孤高の天才であるがために、周りから理解されないことも多かったのかもしれない。

その後、雑誌の取材でビデオインタビュー。このインタビューはウェブ上で公開されるらしい。色々、語ることができて良かった。

「マコトバンドB」も最終リハーサル。こちらは、もっとルールのある中での即興。マイペースというよりは、アンサンブルの妙。しかし、アンサンブルの結果、本当にワクワクするサウンドになる。

皆さん、長時間、おつかれさまでした。倉品さんのホテルチャックイン後、夕食で倉品さんと語り合う。