野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

天才の苦しみ

香港滞在も、残り9日。

朝から、皆さん出勤。昨日のトラムの興奮が、まだ続いているが、明後日には、ツアーコンサート。写真を見せてもらう。いい写真がいっぱい。いろいろベリーニと打ち合わせ。「広東語で喋っても、私の表情で内容が分かってる。ああ、マコトが来週帰るので良かった。あなたの前で何も喋れないから!」とベリーニが笑う。ちょっとずつ、話してる内容が想像つくようには、なってきた。

今朝は、WEPの方々が、送別会をして下さりました。ここの利用者の方々に、ベリーニが「マコトが明日帰ると思う人」と言うと、みんなが手を挙げていました。明日じゃないよ、来週だよ、とベリーニが説明して、「バイバーイ、マコト」と、大袈裟な嘘泣きをする。

午後、「點心組曲」第5楽章の「静かな五重奏」の最終回。7月8日の本番を想定してのリハーサル。施設長のケリーも参加。ケリーにも、ちょっと出演してもらおうと思う。相変わらず、渋いパフォーマンス。演劇的で、前衛的で、全ての音が聞こえてくる。会場の配置も確定。

「點心組曲」第6楽章の「ピアノ協奏曲」の最終回。7月5日の本番を想定して、リハーサル。演奏時間も計って、流れをよくするように練習。雨天の場合の場所も決定。

「點心組曲」第14楽章の「Improvised Cantonese Opera」の最終回。7月5日と8日の本番を想定しての通し稽古。みなさんは、ばっちりで、野村がうまく流れを作れれば問題なし。9曲が次々にメドレー。その後、この曲の上演場所を確定すべく、ロビーで打ち合わせ。

ここまでが、ツアーコンサートの練習。ここからが、昨日、大活躍のマコトバンドのリハーサル。7月10日の元州邨でのアウトリーチ野外パフォーマンスに向けて。まずは、マコトバンドA。今日も、天才たちは、凄かった。仕切り女王が、凄い勢いでウッドブロックを叩き、壊れそうなくらいのテンション。それをしながら、もう片方の手を唇に持っていって、「しーっ」とやっている。これは、冗談なのか?それとも、うるさくて静かにしたい彼女と、猛烈にうるさくする彼女が、同時に存在しているのか?ノリノリちゃんは、踊るし、叩くし、耳をつけて響きを確認するし、いつものごとくの天才ぶり。爆発ピアノ君は、最近は全くピアノに興味を示さず、ドラムに没頭。すごいセッションが次々に繰り広げられ、もう大満足。しかし、10分ほど時間が余ったので、一人ずつと野村で2分ずつ2人だけの即興をすることに。これが、良い時間でした。そして、爆発ピアノ君と野村の即興が最高潮に達した時に、仕切り女王が突然立ち上がり、爆発ピアノ君の頭を叩いた。仕切り女王も、自分が何をしたのか、理解できていない様子。爆発ピアノ君の怒りは爆発。ぼくは、爆発ピアノ君をなだめ、彼は、ぼくに抱きつき、泣き続けた。複数の天才が共存する場で、ぶつかることがあるのだ。複数の演出家で創作が難しいように。あとで、おやつを配った時に、仕切り女王は、ぼくにおやつを差し出し、これを爆発ピアノ君に渡すように、目で合図してきた。彼女の精一杯のお詫びの気持ちだろう。爆発ピアノ君は、その後もぼくの腕の中で泣いていた。その後に、仕切り女王が、ぼくの手をとり、ぼくと部屋の中をグルグル、グルグルと無言で歩き続けた。色々な気持ちや衝動、押さえ難いものと、それぞれが格闘している。また、彼らの奥深い世界の一面を垣間見えた時間。

マコトバンドBのリハーサルは、それとは対照的に、平和に進んだ。そして、時間が余ったので、ぼくがピアノの独奏をするのをみんなが聞いて過ごした。