野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

6種類の味を味わう

香港の滞在も5週間になります。「點心組曲」と題して、17の音楽プロジェクトを同時並行で進めています。今日は、臨床心理士でコミュニティ音楽家のアンドリューが見学に来たので、施設を案内したりして後、「點心組曲」第7楽章の「Japan Cantata」の2回目。日本語を話す10名のお年寄りが集う。実際に日本語を話したお年寄りは3名ほど。他の人は日本に行ったことがあるか、何か関心があったか。横浜の「さくら苑」で作った「わいわい音頭」を歌って聞かせたところ、「あらえっさっさー」をコール&レスポンスすることができ、こうした掛け声は国境を越えるなぁ、と思った。途中で、ぼくの演奏に合わせて微かに手拍子で拍をとるお年寄りがいたので、その方に「リズム感が素晴らしいので、音楽をされていたのではないですか?」と質問してみたところ、中国琵琶の演奏をし、ヴァイオリンを弾き、ピアノの先生をされていたことが判明。最後には、皆さんから広東語の歌も大熱唱して聞かせていただいたり、素晴らしき交流。

続いて、第4楽章の「MTR Remix」の5回目。音源を再生し、カヤンの声を録音したと見学のアンドリューに説明。カヤンは、スイッチが入ったように、次々に言葉を唱えてくれて、それを次々に録音。合計16回に渡り、16種類の言葉を録音。無限に続くのかと思いきや、16個目を録音したら満足したのか、席に戻って絵を描き始めた。面白い。

昼食後は、第1楽章の「Happy Handsome Rock'n Roll」の7回目。前回の続きのメロディーを作曲の後、それぞれを何回ずつ繰り返すかをFさんに尋ねていく。「てんぷら、すきやき、すーし」というフレーズを何回繰り返したいか、と聞いたところ、manyという答え。繰り返し続ける中で、このフレーズの反復にのせて、「てんぷら、すきやき、寿司」の言葉によるアドリブをすると、確かに、如何に彼が日本食が好きかが表現されて、断然説得力が出る。なるほど。

第2楽章の「ドラム・カーニバル」の4回目。例によって、1時間の太鼓叩き続けのセッション。今日は、各メンバーの名前を言えるようにして、メンバー紹介のコールをやってみました。「バンドマスター:メンキッ、木琴:プィイー、カスタネット:タイチュン、ダンス:ゲイウー、太鼓:ヒウトゥン、ノリノリ探求:ヒウチン、タンバリン:イーマン、ワイマン」と言った感じで。徐々にバンドっぽくなってきた。なんというか、どこかの村の架空の民族音楽のようでもあるので、打楽器だけにこだわらず、笛か何かを加えてもいいのかもなぁ、と思ったりもし始める。

第3楽章の「車椅子四重奏」の4回目。木琴さんとの15分のセッション。なんだか、前回よりも木琴を叩き続ける持続力が増している。おおっ。太鼓さんとの15分のセッション。前回、あんなにパワフルだった太鼓さんは、今日は意外に繊細。日によってキャラクターが違うものだ。Q-Chord+ウィンドチャイムさんは、この楽器に馴染みつつあり、少し音が出るようになってきたし、表情が和らいでいる。ああ、こういう顔する人なんだ、と思った。最後のハープさんは、ハープを延々とグリッサンドし続けるだけだと思っていたのに、途中から弾きながら声を出し始め、最後には凄く歌った。新展開。やはり継続していくと、面白い。

最後に、第8楽章の1回目。4人の予定が3人。色々な楽器を触ってもらった結果、3人とも鉄琴や木琴が気に入ったようなので、鉄琴や木琴での鍵盤打楽器グループになりそう。

ということで、楽しく6種類の音楽を楽しんだ一日でした。アンドリューに、こんなに一日に6つもセッションをして、疲れないのか、と言われたが、かえって元気になるのです。それぞれが大盛りではなく、小鉢的なサイズ(30分ー1時間程度の時間)です。しかも、どれも味わいが違うので、色々な味を少しずつ味わって、お腹いっぱいになっているのに気がつかない感じです。まだもう一つくらい食べたい気持ちになるのです。