野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

コンサートで隣に座った人

午前中は、「點心組曲」第4楽章の「MTR Remix」の昨日の多重録音に、自室でさらに多重録音。野村が鍵ハモ、大正琴、ゴミ箱、ボディパーカッションなどを重ねてみる。

それで、本日は、「MTR Remix」の3回目のセッション。ぼくがパソコンを持って行って、セッティングし編集音源を流すと、そこで絵を描いていたリサがノリノリで太鼓を叩き始めたりする。カヤンは別に反応なかったが、描いていた絵が一段落したのか、ぼくのところにやってきて、新たなフレーズを唱え始める。月曜日は、電車の駅名から、テレビ番組名に以降していったが、今日は、シャンプーの商品名から始まった。一つ録音を終えると、続いて、歯磨きの商品名、さらには、現存しない(30年前の)歯磨きの商品名、続いて、「韓国楽器」という謎の言葉を経て、最後はファンタのジュースまで、展開した。これらが、どれも非常にリズミカルなオスティナートになっていて、リズムはかなり正確に反復される。

カヤンが一頻り終わると、他の絵を描いていたメンバーも色々な言葉を録音して楽しんだ。

i-dArtのメンバーとのランチ交流の後、「點心組曲」第1楽章の「Happy Handsome Rock’n Roll」の時間。Fさんに会いに行くと、いつも穏やかなFさんは苛立っていて、暴れていた。ピアノを弾き始めると、最初は穏やかに弾いても、自然に身体が暴走していく。何か制御するスイッチがきかなくなっているようだ。逆に言うと、いつも微かな声で歌っているFさんが、苛立ちとはいえ、これだけ大きな声を出すということも大きな発見だった。 前回つくったところまでの歌を、ぼくがピアノで弾き語りすると、暴れていたFさんが幸せそうな表情で一緒に歌う。でも、それは長くは続かずに、また暴れる。 彼の中にあるエネルギーを体感する貴重な時間だった。

「點心組曲」第2楽章の「ドラムカーニバル」の2回目。前回は5人だったが、今日はさらに二人増えて7人。ひたすら1時間、太鼓を叩き続ける時間で、ビートが合っているようなバラバラなような感じで、ひとによっては、凄い勢いで叩き続けているので、聞いているのかなぁと思うのですが、みんな聞いているのです。ぼくが太鼓の演奏を一瞬でもやめると、あっという間に全員やめて曲が終わるのです。四六時中笑い転げている人がいるのですが、前回は、木琴を叩いて鍵盤が外れるのがおかしくて笑っていたと思うのです。今日は、随分、バチづかいが巧くなって、リズムが正確になり演奏っぽくなっているんです。相変わらず、四六時中笑っているけれども。終始カラダを前後に揺らしている人がいると思っていたのですが、実は、ぼくが見ていると、カラダを揺らすのです。ぼくが視線を外してしばらくすると、やめる。やめていても、ぼくがそちらを見ると、動き出す。2回目は1回目より深まります。週2回、計10週間で20回近くやるつもりでいるので、このグループがどこまで変化していくか、楽しみなのです。

「點心組曲」第3楽章の「Wheelchair Quartet」も2回目。前回で四重奏の楽器編成が決まり、今日は一人ずつと15分ずつのセッションになった。まず、鍵ハモさんとの15分。前回、鍵ハモの上に手を置いた時に、喜んだ表情をされたので、この楽器の担当に。今日の一番の発見は、彼が2本指を見せたり、4本指を見せたりしたこと。2本で弾くのと、4本で弾くのでは、感じが違います。あとは、彼の手に触れてみて、結構冷たくって、暖めてみた。続いて、木琴さん。前回、木琴を叩いた時に、本当に嬉しそうな表情をされたのが印象的。今日は、そこまでの表情ではなく、しかし、非常に集中して叩き続ける。1台の木琴を向かい合ってデュオできたのも良い時間。3人目はウクレレさん。ウクレレの4弦を弾き続ける持続力も素晴らしい。周期的に速くなる瞬間がやってくるが、それ以外は一定のテンポという独特なリズム感に、できるだけついていこうと弟子入りするつもりで共演。4人目は、太鼓さん。なかなか力強い演奏だが、時々、皮を擦ったり、特殊奏法が入る。

そして、少し事務所で休憩して後、「點心組曲」の第8楽章「Music for Yellow Bamboo」の初回。数人と聞いていたのに、9人もメンバーが来てしまい、竹のアンクルンが7つしかなかったので、楽器が足りずに、想定外で、木琴や太鼓が加わりました。それにしても、アンクルンという扱いの難しい楽器を、30分も楽しんでくれたメンバーたちは素晴らしい。しかも、こちらがあまり教えないので、色々な奏法を発見していた。終わった頃にリオが来て、行き違いで、本来は4人が参加するはずらしく、来週から4人になるとのこと。

ということで、今日のセッションは終わり、夜は、Hong Kong New Music Ensembleのコンサートに出かける。主催のWilliam Laneと始まる前に少し話をすることができた。そして、客席に座ると、隣に座った人から、声をかけられる。「あなたは、愛知トリエンナーレのエコバッグを持っているけれど、飯田志保子を知っている?」と。もちろん、知っていますよ、と会話が始まり、M+ Museumのエグゼクティブ・ディレクターのSuhanya Raffelさんと写真家/キュレーターのMichael Snellingさんで、オーストラリアと香港を行き来する現代美術の方々。話してみると、島袋道浩くんの作品「弓から弓へ」を見ていたことが発覚し、あの作品の音楽はぼくが作曲したんですよ、と言うことで、世界は狭し。香港のコンサートで隣に座った人は、ぼくの音楽を聴いたことがある人だった。

コンサートは、香港、インドネシアカンボジア、中国と4人の作曲家の作品をとりあげ、それぞれ個性的で面白かったのと、1ヶ月間連日福祉施設の中で過ごしていると、現代音楽のコンサートというものが新鮮すぎて、いつもと違った感じ方をして面白かった。香港に来て、プロの音楽家の演奏に触れること自体が全然なかったので、本当に新鮮。インドネシアの作曲家のM. Arham Aryadiともインドネシア語で話せて良かったのだが、4月26日に香港で彼のガムラン楽団のコンサートをしていたことが分かり、ああ、26日は香港にいたのに!と、非常に残念に思う。彼の作品は、グンデルと箏とマリンバとヴァイオリン、ヴィオラオーボエ、フルートという編成だったのですが、グンデルは、ガムランの演奏をおそらく全くしたこともない西洋音楽の打楽器の人が演奏していて、ガムラン経験者に演奏して欲しいなぁ、とは思いました。香港で絶滅しかかっている南音演唱を取り入れた作品をつくったSteve Huiの作品にも好感を持ちました。