野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ディックのパフォーマンス

香港での3度目の月曜日。午前中、自室で編曲作業。8月の北口大輔リサイタルのため。メキシカがやって来て、今夜、食事に出かける約束など。i-dArtのスタッフが交代でぼくを夕食に連れ出してくれる。これも、ベリーニの采配なのか、みんなが気を使ってやってくれているのか、それとも単純に誘ってくれているのか。何にしても有り難い。

i-dArtのオフィスに行き、とりあえず、今朝の日本語レッスン。毎日、みんなに日本語を一つ教えるのが日課。i-dArtのスタッフは、次々に日本に旅行に来る。トビーが5月に、イェンが7月に、イヴォンヌが9月に、日本旅行を計画しているが、みんな既に、何度も日本に旅行に行っている。香港の人に、こんなに日本が愛されているのは、嬉しい。

その後、オフィスでイェンと話し込む。イェンは二胡を一年習ったことがあるらしく、古琴(七絃琴)を習おうと思ったことさえあると聞いて、驚く。古琴は楽器自体がないから、楽器づくりから始まる講座で、参加希望者が定数に達したら開講するとのこと。定員に達した時には、イェンは忙しくなり、参加できなかったそうだ。イェンの教養の奥深さが、徐々にわかってくる。彼女が見せてくれた日本旅行の写真で、彼女は明の時代の伝統衣装を着ていた。清は北から南下してきて明を含めた中国全域を征服したので、清の文化は北方の文化で、それ以前の明の文化を一掃する。そういうことを多くの香港人は知らないで、中国文化と清の文化を同一視していると言う。個人的には、相撲の起源や瓦の起源のことに興味があるが、香港にいて中国史を色々感じられるのは面白い。雑談する時間も活かし、いろいろ学びたいと思う。

編曲作業の後、イェン、トビー、ジョウイ、メギーとランチ。今日のランチは、珍しく菜食メニューがあった。今日は旧暦の十五日(あ、満月だ!)だから、菜食なのだそうだ。1ヶ月前の満月の日は、ながらの座・座で、「徹夜の音楽会」をしていたことを、懐かしく思い出す。

午後のお年寄りとのダンスクラスに参加。途中でメキシカに振られて、野村のコーナーになったので、歌声を聴かせてもらって後、車椅子で踊れる簡易版「炭坑節」をつくって、やってもらい、最後は、中国歌曲にのせて「炭坑節」を踊ってもらった。意外に、手を下に向けたり、上に向けたり、後ろだったり、前だったり、車椅子のお年寄りにとって、適度な運動かもと、盆踊りってよくできているなぁ、と感心。

次のダンスクラスでも、途中でメキシカに振られて、野村のコーナー。同じことをしても芸がないので、違うことをしようと思い、とりあえず、鍵ハモの演奏を聴いてもらう。そうしているうちに、声を出す人がいたので、それを真似たりしていると、一人がイスから立ち上がり、徐々に踊りだし、共演。これをきっかけに、一人ずつと野村のデュオをやることになり、結局、合計15人の人とデュオをさせていただいた。色んなキャラがあり、こちらも色々な表現ができて、充実の時間。最後の15人目の人とのデュオをしていると、徐々に一人ずつ加わってきて、最後は全員になっていった。面白い即興のダンスの時間だった。

ダンスのスタジオから、美術のスタジオに行くと、英語の文字を書く講座が終わって、ディックがアートコースの準備をしていた。この中国美術史の授業をするにあたり、彼も美術史に詳しくないから、いろいろ調べて準備して、面白い経験であるらしい。彼は、かなりパフォーマンスをするアーティストであることが分かり、仲間数人と毎月最終日曜日に、パフォーマンスのセッションの日を始め、昨日が第1回だった、と言う。昨日は、ファミリーデイだったから無理だったけど、是非、来月は参加してみたい。ディックの24時間スローモーションで動き続けて、それを早回しにして24分間の映像にするプロジェクトの映像を見せてもらう。クレイジーな人だ。こういう変な人を講師に招き入れるベリーニは、やはり面白い。

i-dArtの事務所に行くと、トビーが針金とハンガーで何か作ろうとしている。ぼくは、凧糸を使って、ハンガーでお寺の鐘のゴーンという音を聞くのを、みんなに聞かせたいと思い、体験コーナーをする。急に、事務所が音遊びの部屋になる。徐々に、野村のいろんな側面を理解してもらうのが、楽しい。

今日は、メキシカとディナー。メキシカとバス、地下鉄を乗り継いで、新界のKwai Fongまで行く。香港に来てからの最も遠出。駅前のショッピングセンターの人混みの中をメキシカに連れ回されて、タコ串を買って食べて後、近くにある劇場を通って、ミニバスに乗って、目的地である住宅地の一室で、メキシカの妹さん夫婦と合流し、家庭料理をたらふくいただく。有り難き家族団欒の時間に混ぜてもらい有り難い。