野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

楊琴、哨吶、琵琶の若者たち

香港での3度目の土曜日。午前中は、「ミワモキホアプポグンカマネ」の第2楽章「アプポ」の編曲をする。i-dArtの美術スタジオでは、ディックの指導のもと、アートコースの受講生たちが絵を描いていた。今日は、模写。何かの絵を見て、それを模写する。写真を模写している人もいれば、画集を模写している人もいる。一人、書道をしている人がいる。4文字あるので、紙に4文字順番に書けばいいのだが、この人、画面の中央にでかでかと一文字目を書いて、2文字目をその右脇になんとか書き込む。3文字目をどこに書くのかと思いきや、中央に書いた一文字目の左横に、またでかでかと書いて、4文字目をどうするんだろう、と思ってみていると、3文字目の上にある小さなスペースに書こうとして、書いているうちに、3文字目と合体してしまう。うーむ、なんてクリエイティヴな模写なんだ。

「アプポ」の編曲を途中でやめて、バスで灣仔に出る。つい9日前に、初めてベリーニに案内してもらった時は、全然土地勘がなくって、どこをどう歩いたのか、分からなかったけれども、今になると、彼女の説明が的を得ていたことがよく理解できる。目印になるガソリンスタンド、駅のすぐ側の運動場、マーケット。ベリーニありがとう。

今日は、マスクをせずに出かけてしまったが、明らかに空気が悪いので、セブンイレブンに入って、マスクを探す。日本製のPM2.5対応マスクが売っていたので、さっそく購入。レジカウンターのすぐ脇に、日本製のコンドームが大量に売っている。

香港アートセンター(香港藝術中心)に行く。1階に赤く塗られたオンボロピアノがあって、所謂ストリートピアノというやつで、誰でも自由に弾いていい。リュックサックを背負ったまま、延々、ピアノを弾いている20代くらいの男子。バッハを弾いていたかと思ったら、ジェフスキー。どれも暗譜。このセンターがまた、十何階まであって、階によって、作曲家協会だったり、演劇のなんかだったり、音楽スクールだったり、色々らしい。階段で3階くらいまで行ってみたが、エレベーターで各階をまわるほどの時間もないので、これくらいで。香港シンフォニエッタのチラシは、武満徹の「弦楽のためのレクイエム」とウォルトンの「ヴィオラ交響曲」とシベリウスの「交響曲2番」。コープランドと、香港の作曲家の曲。ストラヴィンスキーと、香港の作曲家の曲、などのチラシ。そこそこ、現代作曲家のコンサートはありそう。

香港演藝学院(Hong Kong Academy for Performing Arts)に、作曲家のViola Yuenを訪ねて行く。人づてに紹介されて、彼女のレッスンの合間に、会う。アカペラのグループを持っていて、現代音楽からクラシックからポップスのアレンジまで、幅広く演奏。現代音楽の作曲家でもある。香港の現代音楽事情を少しでも教えてもらおうと思って話す。あまり具体的には、聞き出せなかった。その後、学校を案内してもらい、アメリカで賞をとった12歳の女の子に会い、ヴァイオリンを少し実演してもらう。上手。でも、その後、中国楽器を専攻の学生と会い、その場でヴィオラさんから紹介される。楊琴、哨吶(チャルメラのような中国オーボエ)、琵琶の14歳くらいの学生の演奏を聴かせてもらったのが、断然よかった。みんな凄く表現力も高く、うまい。単に、今日は試験なので、廊下で試験を待っている間に練習しているだけなのだが、これが聞けただけで来た甲斐があった。香港って、アヘン戦争の時に、イギリスの植民地になって、今では金融とビジネスの高層ビル街でしかないのに、こんなに巧みに中国楽器を演奏する若者がいること、しかも、その演奏が素晴らしいことに、感銘を受けた。

灣仔のマーケットで、手作り豆乳や野菜を購入して、JCRCに戻る。今日、マーラーの「大地の歌」と香港作曲家の新作を演奏するオーケストラコンサートがあるらしいのだが、もう一度、出かける元気はないので、またのチャンスに。