野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

広東語の歌、香港理工大学の展覧会

本日は、アートコースA班の人たちとのシェアリング・セッション。普段は、この時間、このスタジオに絵を描きに来ている方々、数名が集まってくる。紹介されて、とりあえず、鍵ハモで演奏を聞いてもらう。体が自然に動く人、硬直する人、声が出る人、いろいろ。そうしたことに応じながら、即興で演奏。声が出る人にあわせて、声を出したりもしたくなったので、キーボードにうつり、即興つづける。立ち上がって、踊りだす人もいる。机をバタバタと叩いたり、色々な感じで進んで、最初の即興セッションを終える。

その後、広東語を教えてもらうことにする。「サイカイ(世界)ウォーペイン(和平)」という言葉が出たので、そのイントネーションを教えてもらい、それをメロディーにして、歌う。キーボードで伴奏。続いて、「ンゴーイバーテック(外婆的)ぱーんうーうぁん(膨湖灣)」というフレーズが出て、おばあさんの住んでいる所の地名だそうです。これもメロディーを作って歌う。「ホイサム(開心)ファイロッ(快樂)」という楽しい幸せという意味の言葉が出て、それを歌うとノリノリに踊る。ノリノリだったので、小物楽器を配って再度歌う。「ホーイ(去)ホーイイーぷーーんとぉ( 海怡半島 )たーてぃってぃっく(塔地鐵)」というの出て、これは、もはやイントネーションが難しすぎて、聞き取りしているうちに、みんなが待てなくなったので、野村は伴奏に徹する。地下鉄の 海怡半島駅に行く、という意味らしい。「かむちょん(金鐘)でぃてぃっくちゃむ(地鐵站)」(金鐘駅)、「とむろーわん(銅鑼湾)ふーろん(歓楽)しるてぃんでぃ(小天地)」(銅鑼湾駅)と電車の駅に因んだメロディーをいくつも作って終了。最後にアルミホイルの音を楽しんで終了。

と思ったら、リサがノリノリで、キーボードを弾き始めたので、即興鍵盤セッションがしばらく続く。そして、終了と思ったら、みんなが絵を描き始め、いくつか自画像をプレゼントされる。一つは、部屋のドアに貼り、他のをどうしようと考えているうちに、他の3枚の絵をコラージュしたくなり、しかし、はさみを入れるのも申し訳ないので、電気スタンドの灯りで透かして、重ねてみると、なかなかきれい。電気スタンドと絵を持って事務所に行って、リオに写真にとってもらったりした。

午後は、香港理工大学へ行く。ここのカフェで、キュレーターのダヤンと待ち合わせ。フィリピン人でサウンドアートを専門にするキュレーター。香港のリンナン大学の博士課程で研究中でもある。そこに、香港理工大学で准教授をしているダヤンの友人のアーニカが現れる。アーニカはオランダ人で、路上のゴミ収集からの文化研究をする人らしい。今回、2月に学生たちにダヤンが音に関する講義をしたことを経て、学生たちの音に関する展示「unmute! The sound of Hong Kong」が開催されるということで、それほど期待せずに見に行ったが、想像以上によかった。何が良かったかと言うと、デザインの学生なので、音に特化しているというよりは、音自体はそれほど目新しい音はないのだけれども、それを視覚的な要素も含めて、どのように展示として成立させるか、ということが、非常によく、視聴覚のバランスが面白かった。さすがデザインの学生と関心。もう一つの、香港の道をテーマにした展示も、かなりいい出来で、これを16人もの学生が共同で議論し分担して成立させたのかと思うと、コミュニケーション力も、トータルコーディネート力、企画やコンセプトも、実際の作業も全部ができている。香港のデザインの学生の力量を思い知らされた。ダヤンと二人で、感心し、学生たちにも伝える。

その後、アーニカと3人で夕食に。アーニカお薦めの麺の店。そこで、ダヤンやアーニカの仲間であるトビーとトトと合流。トビーは、香港のサッカーの文化的背景の研究者でオーストリア人、トトは香港の廃墟ビルの研究者で韓国人。皆さん、ぼくが福祉施設にいることに驚き、詳しく色々と説明する。アーニカが昨年、交通事故にあって骨折し、香港の町中が如何に障害者にとって生きにくいかを体感することになった、と教えてくれた。エレベーターがあっても、実質、移動に使えないとか。階段や斜面がまったく車椅子に対応していないのは、言うに及ばず。骨折している人が電車に乗っても、誰もかばってくれないし、平気でぶつかってくる。こうした福祉施設が隔離された場所にあるからそうなのかもしれない。また、こういう状況だから、安全な場所に隔離しなければいけないと、人は考える。

トビーとダヤンとわかれた後、トトとアーニカが中国笛の路上演奏家のところに連れて行ってくれた。楽器も初めて見た/聞いたもの。おじさんは、試しに吹いてみる、と言って吹かせてくれた。