野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

シェアリング、ダンス、山水画

午前中、i-dArtスタッフと、野村のこれまでの活動についてシェア。野村が音大に行かずに、理学部に行ったこと。そこで、楽器の技術がない人々と音楽を即興的につくる方法を試行錯誤したこと。そして、学生時代に幼稚園を尋ねて子ども達とコラボレーションした時に、教育の世界と現代アートの世界の間の大きなギャップを体験したことを語る。そして、同じ状況を、子ども達が豊かに表現している場と見るのか、コントロール不能の場と見るのか、まったく違う二つの見地があることを説明した上で、特別支援学級でのワークショップで、即興演奏から映像リミックスして作曲した経験をプレゼン。続いて、テレビ番組「あいのて」に関して、説明し、番組の映像を見る。ここで、黄色のあいのてさん片岡祐介さんが、岐阜県音楽療法研究所で働いていた話をし、「即興演奏ってどうやるの」について語る。メーリンが、この本は英語に翻訳しなければダメよ、と言う。大して文字数ないんだから。どうして、マコトさんが音楽療法セミナーに講師に呼ばれるのか?という質問もあり、ノードフ・ロビンズの創造的音楽療法において即興演奏が重要とされるが、具体的な即興演奏のセミナーや教材が不足していたからだろう、と答える。エイブルアート・オンステージについても、少しだけ話をした。検校の話も少しだけ。イギリスで、どんなことをしたかと質問があり、イギリスはあまりにも色々な経験があるので、一例として、ヨークでの「神戸のためのコンサート」、ロンドンでの「出前しょうぎ作曲」の話もする。野外での様子も見れるといいかと思い、JACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)の映像も少し見せる。ベリーニが、他にも映像とか見せてと言ったら、メーリンが、また次回を設ければいいから、少し意見交換しましょうと言って、最後は、色々、活発に意見交換ができた。今日だけで既に色々なインスピレーションを得られたと喜んでくれる。勘のいい人たちなので、打てば響くので嬉しい。

メキシカやグレースと昼ご飯。今日の午後は、二人がファシリテートするダンスワークショップを見に行くのです。i-dArtのスタッフは、オフィスで事務仕事もするけれども、ワークショップもファシリテートする。だから、3ヶ月経って、ぼくがいなくなった後も、今のメンバーで続けられるような活動ができたら、と思う。

1時半―2時半は、高齢者のためのダンスワークショップで、最年少が69歳、80代の人が多い。車椅子の人と、イスの人がいて、合計10人くらいで円になって座る。リーダーの指示で、首を曲げたり、腕をあげたり、ストレッチというか体操というか、体ほぐし。ぼくも一緒に参加して、気持ちよかった。そのうち、音楽を流しながら、ビートに合わせて、結構激しく、足をあげたりする運動も。お年寄り、それでも頑張って動かすから、なかなか元気。

2時45分―4時は。高齢でない人のためのワークショップで、車椅子や身体障がいの人がいなかったので、おそらく知的障がいの人が集まってのグループ。こちらは、イスもなく、立ってストレッチ。床に座ってストレッチ。二人組でストレッチ。そして、その後、一人ずつ、他の人とどこかでくっつくコンタクトポーズをやったり、レジ袋を使ってのダンスをしたり、何かの振付をみんなで踊ったりしました。ダンスのワークショップに参加すると、右(やぉ)、左(じょっ)、という言葉が連発されるので、今日は、それを覚えました。あと、チョンベーラー、という言葉が何度も使われていて、チョンベーは、準(ちょん)備(べー)で、準備できましたか?という意味。こうしたワークショップでしか聞かない広東語、ぼくが一番習得しなければいけない言葉なのです。

ワークショップの合間の時間とかに、ついついi-dArtのオフィスに行っては、雑談をする。トビーは、日本に5、6回くらい行ったことがあって、また、来月も旅行するらしい。香港の人は、日本好きな人が多いと、みんな言う。本当に日本が好きらしい。今度は四国に行くんだ、とのこと。通な旅行者になっている。トビーが四国に行く前に、日本語をもっと教えないと。

いつものように売店に買い物に行き、今日はパン「ミンパオ」という言葉を教えてもらう。

その後、疲れていたのか、部屋でうとうと眠ってしまい、気がつくと夕方6時。あ、今日は、ディックがやっているアートコースの授業を見に行くつもりだったんだ。ディックは、ロンドンのミドルセックス大学で修士をとったアーティスト。ぼくも、昨年、エンリコに連れられて、偶然、ミドルセックス大学に行ったので、不思議な縁を感じます。教室に行くと、ディックがパワーポイントで、山水画について説明していました。まさに、大学の講義のよう。そして、知的障がいの受講生たちが、まさに日本の授業を聴いていない大学生みたいな感じで、関心なさそうにしている。その中で、ディックが熱弁をふるい続ける。ベリーニがやっている障がいのある人のための3年間の美術教育コースって、こういうことか、と思った。健常者と呼ばれる人が美大に入って美術教育を受ける権利があるのに、障がいのある人たちが、入学できず、こうした教育を受ける権利を奪われている。そうした場を設けてみよう、ということ。だから、自由に描かせるだけでなく、独自に試行錯誤しているカリキュラムで、教える。もちろん、卒業した後は、各自の自由に美術をすればいいことは大前提で。ということで、山水画の特徴は、太い筆で山の稜線をひき、その中に細い筆で、ドットがいっぱい打たれている、というディックのまとめとデモがあった後、紙が配られて、各自の山水画が始まる。ぼくも描かせてもらい、大変面白かった。山水画への理解が深まると同時に、そうしたルールを設定されても、みんなルールの枠におさまる行儀のよい生徒ではないので、ルールが強制感が弱く、それもよかった。素敵な山水画がいっぱいできた。