野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

サムライゲームと最終公演

いよいよマルセイユでの最終日。本日が公演です。

公演に向けて通し稽古をするのか、と思いきや、ディディエは、今日は通し稽古をする気が一切ないようでした。即興の要素が多い作品なので、通し稽古をすることで、練習をなぞってしまったり、本番の新鮮さが薄れることを避けたかったからでしょう。3週間一緒に過ごしてきたERACM(演劇学校)の学生たちとの時間を愛おしむような時間。

森川弘和さんがやったゲームをやってみよう、とテーブルを出してきて、二人が向き合う。テーブルの上に、スプーンと皿が一つずつ置かれる。これを二人が、即興で、どちらが先に、お皿のスープを食べることができるか、という即興。片方が皿を手にすると、もう一方がスプーンを手にする。どちらかを奪い取ると、どちらかを取られてしまう。様々な駆け引きで、色々なシーンに展開する。今日の本番と全く関係ない、こうしたエクササイズを笑顔で楽しみながら、身体感覚や即興を新鮮に楽しむ気持ちを思い出す。

この学校は、大学で演劇を専攻した人々が、さらに学ぶための学校で、授業料は無料。一流の演出家や俳優から、直接教われる。年間たった14名だけの教育のために、凄いお金をかけている。フランスのこうしたエリート育成は、半端ないと思う。来週からは、また別の演出家が数週間来て、毎日、その人との作品づくりをするらしい。なんと贅沢な環境なのだろう。

この学校に伝わる「サムライ」というゲームをやってくれた。これは、円になって、誰かが「サ」と言いながら、誰かに向かって刀を振るおろす仕草をすると、その人は「ム」と言いながら、別の誰かに向かって刀を振り上げる仕草をする。すると、「ム」を言った左右の人が、「ム」を言った人を横から刀で切る仕草をする。そして、「ム」で指された人が、次なる「サ」を言い、以下同様に続いていく。間違えた人が脱落して、最後に残った人が勝者、というゲーム。これが、学生たちはみんな凄く得意で、しかも、本当に真剣に取り組む。あまりの真剣さとゲームの質の高さに驚く。もちろん、このゲームも、今夜の公演とは全く関係ないが、それでも、こうした遊びの気持ちを最後まで持ち続けるのが大切と、ディディエは知っている。

みんなで作った4つの歌も練習した。最初は普通に歌うけれども、2回目からは、アドリブしたり変形していい、というルールで。遊び感覚でやるから、みんなが伸び伸びする。最後の最後まで、通し稽古をしなかった。そして、本番が複雑にならないように、決めごとを最小限にした。ディディエは、こういうシーンがあった方がいいかも、とかは言うのだが、でも、約束事を決めすぎると、頭で考えちゃうから、別にそうならなくてもいい。全部、自由、と言う。

そして、本番を迎えた。お客さんが入ることで、緊張感も高まるし、集中力も高まるし、力強く思い切りもよくなる。逆に、リラックスしている練習時にふと現れるゆるい表現は、なかなか現れない。でも、本当に良いアドリブがいっぱいで、面白い公演になった。ぼくは、即興でピアノ、鍵ハモ、ペットボトルを演奏。即興芝居のテンションが弱いと、ピアノが強すぎて、音が入れにくいのだが、今日は、みんなの芝居がしっかりとした強度があったので、ピアノでイメージをぶつけることで、さらに芝居が展開していくので、音を楽しんで出すことができた。

学生のみんなとお別れは寂しかったし、この3週間よく遊んでいただいたニホさんとヴァンシアンヌとも今日でお別れ。でも、また再会できるはず。京都から伝説の雨男が到来しているためか、それとも3週間の終わりを悲しんでか、この3週間で一度も体験したことのない雷雨となり、どしゃぶりの雨が降り、ついには氷まで降ってきた。マルセイユの空が大泣きに泣いている。でも、ぼくたちは、次なる未来に向かって、歩いていく。ありがとうディディエ・ガラス。