野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

幼児の鍵ハモ、箏曲界のイノベーター

東京学芸大学の付属保育園で、鍵ハモのワークショップ。学芸大の子ども未来研究所と、鈴木楽器製作所の共同企画。野村が鍵ハモを活用して、4、5歳児と30分間遊び、その後、1時間かけて、大人たちでその30分の活動について、フィードバックする。子どもたちは、本当に色々な鍵ハモでの遊び方を提案してくれて、短い時間に一気に仲良くなり、創造性を発揮しまくってくれて、素晴らしい時間になる。印象に残っているのは、ホースを外して、ホースで喋る。それを耳に近づけて聴く。鍵ハモを吹きながら、運動会のように走る。外側のコースは走る、内側のコースは歩く、などと、子どもがルールを提案。鍵ハモの演奏で、自分の名前を表現するとか。鍵盤ハーモニカを持っている野村を、相撲みたいに押してみるとか。その野村が、起き上がりダルマみたいな感じで、コロコロ転がったり。急に、「ゾウさん」やってー、と言って、曲を吹くと、それに合わせて、ゾウの動きをやってみたり。ほぼ、子ども主導で、30分で、色々できました。その後のディスカッションも、非常に濃密な時間。

鈴木楽器の多田さんとランチをしながら、鍵ハモ談義をした後に、移動し、地歌箏曲家の竹澤悦子さんと待ち合わせて、沢井一恵先生のお宅へ。沢井一恵先生は、あの宮城道雄から箏を習い、天才箏曲家の沢井忠夫さんとともに、沢井箏曲院を設立され、数多くのお弟子さんを育てられて、その上、ジョン・ケージのプリペアドピアノの曲を箏でやったり、フリージャズと即興セッションをしたり、ソフィア・グバイドゥーリナの箏協奏曲を献呈され、NHK交響楽団世界初演されたり、本当に素晴らしい尊敬すべき大先輩なのです。一恵先生のお弟子さんたちが、野村誠に作曲委嘱を、いっぱいして下さっています。野村作品のほとんどは、沢井箏曲院の人々なのです。そして、一恵先生も、ずっと野村のことを気にかけて下さっていて、大変感謝なのです。

ということで、野村誠竹澤悦子のコラボレーションに、沢井一恵先生が加わったら、どんなことになるのでしょう?という可能性を探すような一日でした。具体的には、ただ3人で、ずっとお喋りをしていて、お互いの音楽観や体験などを、ゆっくりお話させていただきました。グバイドゥーリナのコンチェルトを演奏した時の指揮者のシャルル・デュトワとのやりとりとか、加古隆さん作曲のコンチェルトを演奏しに、エストニアツアーした時のお話、教育観や箏の可能性についてのお話。十七絃の音色について。フィリピン大学に箏を寄贈された話。その一つ一つが、面白過ぎる冒険話や体験談で、全部、録音しておけば良かったと後悔するくらいに、面白いお話でした。ということで、一恵先生と共演することになりそうです。そのために、もっと箏と一恵先生についても、勉強しようと思い、ワクワクしながら新幹線に乗りました。

帰宅後、沢井一恵「現代邦楽の世界」というCDを聴きました。これは、本当に名盤です。石井真木、入野義朗、杵屋正邦、沢井忠夫、細川俊夫武満徹の作品が収録されています。1979年と1983年の録音の復刻版。武満の「海へ」は、アルトフルートとギターの名曲ですが、これをアルトフルートと十七絃でやっていて、本当にこれが十七絃で演奏できたのか、と楽器を知る者としては驚愕であり、その音色の豊かさに、感嘆せざる得ません。沢井忠夫の名曲も含めて、十七絃という楽器を、70年代に一恵先生は、ここまで昇華させていたのだ、と今更ながら、圧倒される。これは名盤です。お持ちでない方は、購入して聴いておくことをお薦めします。

そして、沢井一恵/ジョン・ケージ「3つのダンス」というCDも素晴らしい。このCDは、もともと持っており愛聴していたのですが、このリマスター版で、また音色がより楽しめる、いいアルバムです。クリスチャン・ウォルフの独奏曲も美しく、加古隆さんのコンチェルトも力作で、全然侮れません。

聴いたことがない方は、是非、ご購入をお勧めします。