野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

初心忘るるべからず

本日は、地歌箏曲家の沢井一恵さん、竹澤悦子さんとのリハーサル。1月19日の両国門天ホールでのコンサートのための。

http://www.monten.jp/20180119?_fsi=Uo33KkFj

沢井一恵先生に関しては、数々の華々しい経歴があるので、もちろんご存知の方が多いことでしょう。宮城道雄先生に箏を習って、東京芸大卒業後、世界中で箏の魅力を伝え、数々の弟子を育成し、さらには、ジョン・ケージのプリペアドピアノの曲を箏で演奏したり、武満徹の「海へ」のギターパートを箏で演奏したり、さらには、グバイドゥーリナの箏協奏曲、坂本龍一の箏協奏曲、加古隆の箏協奏曲などで、数々のオーケストラとの共演、ジョン・ゾーンほか数多くの即興ミュージシャンとのセッションなど、本当に素晴らしい大先輩であり先駆者であり、今なお第一線で活躍しておられる先生なのです。そして、高校生の頃に、一恵先生に弟子入りした悦ちゃん(竹澤さん)も、古典から現代作品からオリジナル曲から即興からダンスとのコラボレーションまで、本当に多彩な活動をされていて、歌も大変素晴らしいのです。

今回、野村は、50曲作曲しまして、そのうちのいくつかは、1月19日に初演するのです。一恵先生のお宅に着いたのが、朝10
時半ごろ。野村の50曲をまとめたファイルの表紙に、「まことっち」と書いてあり、「野村さんの頭の中はどうなっているのかしら」と思い、まことっちと書いたとのこと。

それからは、お二人の優れた箏曲家によって、ぼくのアイディアが想像を遥かに越えるクオリティで次々に音になっていく奇跡の時間が続きました。本当にお二人が楽しそうに演奏して下さり、結局、夕方7時過ぎまで、9時間近く滞在させていただき、その間に、50曲中、12曲も音にしました。さすがに、1月19日のコンサートで12曲全部はやらないですが、それにしても、どれもが全然違う味わいで、箏の魅力が引き出される。驚きの連続でした。お二人は、ぼくが47曲目につくった「不思議の国のアレア」という曲をいたく気に入って下さり、調弦もこのままキープしたい、と印をつけて写真にもとり、通常とは違う数学的かつ幾何学的な調弦をした箏を、壁に立てかけて眺めては、「美しいわ」と感嘆していただけたことが、今日のクライマックスでした。

9時間、音楽づけの濃厚な時間を過ごさせていただき、本当に感謝です。帰り際に、一恵先生が、「即興の初心者ですけれども、どうぞよろしくお願いいたします」と仰った。もちろん、一恵先生は、百戦錬磨で初心者なわけがないのですが、それでも、初心者と仰るのは、ユーモアであると同時に、本心なのかもしれない、と思い、驚愕した。これだけ第一線で走り続けてきて、今なお、初心を忘れずに、箏の打ち込んでおられる。だから、初心者の気持ちを忘れていないし、大御所なのに、初心者の気持ちで取り組めるのだと思う。素晴らしいことであり、ああ、ぼくも初心者であることを忘れてはいけない、と思い、ドキっとした。

京都の自宅に戻ったときは、深夜0時が近かった。そして、「あ、佐久間新さんのお誕生日だ」と気づいた頃に、時計が0時を指した。「越後獅子コンチェルト」の作曲を再開するのは明日にして、今日は余韻に浸っていようと思う。