野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

プロデューサーのことばのはじまり

ディディエ・ガラスの「ことばのはじまり」のリハーサルも、いよいよ本番まで残り2週間を切りました。相変わらずディディエは、即興から少しずつ確定していく要素を増やしております。8月上旬の稽古の時点で、構成は決まっているものの、即興の占める割合は、70%くらいでした。8月半ば頃には、50%くらいになり、確定している部分と即興の部分が半々くらいになっていました。ここにきて、確定の部分が3分の2、即興の部分が3分の1くらいになっております。このペースで進むと、今月末には、確定部分が90%、即興の部分が10%になるのでしょう。即興の部分の確定は、無理に作っていくよりも、即興の中で面白い要素が出てきたら、採用する感じで、植物を少しずつ育てているように、少しずつ作品が成長しております。こういうアプローチは、大変、ぼく好みなので、楽しいです。そして、音楽の方も、徐々に確定させてはおります。

今回のプロデューサーの杉山準さんの言葉を改めて読み直しました。彼がどのような願いを持って、この公演を企画したか、再確認し、ますます公演が楽しみになりました。

2010年6月、京都のアトリエ劇研演劇祭において上演された、フランス人俳優ディディエ・ガラス氏の公演『アルルカン天狗に出会う』は鳴り止まぬ拍手の中、大盛況のうちに幕を閉じました。約1時間にわたる、一人芝居の多くの台詞を日本語で語り観客を驚かせました。その作品は、東京と静岡(静岡県舞台芸術センター〈SPAC〉Shizuoka春の芸術祭2010招聘)でも上演され、大きな反響を呼びました。 
参考映像はこちら →この作品の再演が今年もあります!

そして、2012年この作品の改訂版を沖縄にて上演する企画が持ち上がり、それに合わせて再びその作品を日本国内で上演できないかという相談をフランス側の制作者から打診され、私は二つ返事で引き受けました。作品はもとより、俳優(アーティスト)としての彼の態度や、人間性を私はとても尊敬しており、ぜひ一人でも多くの日本の観客に彼を紹介したいと思ったのです。そして、できれば日本各地の役者さん(特に若い役者さん)に出会っていただき、多くを彼から得て欲しいと思ったのです。

私たちは彼の新版『アルルカン(再び)天狗に出会う』をもって、横浜、京都、広島、東京、福岡、鳥取とツアーしました。そして、各地でワークショップを実施し多くの日本の俳優やダンサーと出会う機会を設けました。

日本では無名の俳優で、しかも仮面劇というなじみの薄いパフォーマンスでありながら、彼の作品は各地で好評を得ました。特に、日本語を始め様々な言語を駆使して、観客と交流しながら芝居を運ぶ彼の作風は、子供からお年寄りまで幅広い層に受け入れられました。

また彼は、日本の俳優やダンサーとであったことで、自分が演出をして日本の役者達と作品を作ることに意欲を持ち始めていました。今までのプロジェクトを通じて育んで来たものが、繋がって来ていると実感しました。そこで、ぜひそうした機会を作ろうと、今回のプロジェクトが立ち上がったのです。初演する2014年はアトリエ劇研の30周年にもあたり、幅広い層に楽しんで頂ける、国際共同プロジェクトとして、そして国内のいくつかの劇場とも手を組んで行うプロジェクトとして、非常に意義深いものになります。


私の思いは、特に子供さんに向けてこの作品を制作したいということです。シンプルで、楽しい作品でありながら、大人の鑑賞に堪える思想的な深みをもつ作品を目指します。2013年6月に行ったオーディションでは、全国から多くの優れた俳優、ダンサーが参加してくれました。そして、高倍率を勝ち抜いて5名のすばらしいキャストが選ばれました。

音楽には京都在住の音楽家野村誠さん、やぶくみこさんが加わってくれることになりました。

日本の才能が彼と出会って、どのような化学反応が起こるか、是非ご期待ください。

2014年3月 杉山準