野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

21世紀を生きぬくための哲学

マルセイユでの学生たちとディディエ・ガラスとの創作も、今日、明日の二日を残すのみ。今日は、午前中から通し稽古。昨日よりも積極的でいい感じ。

午後は、大学の授業を受けにいくために4人の学生が一時的に抜けたのですが、その間、残ったメンバーで、フォーカスゲームの色々な即興の展開を、遊び感覚で楽しみました。遊びの気持ちが大切なので、ぼくもピアノなどで、かなりハチャメチャに遊び感覚で即興して、学生たちを触発/刺激しました。楽しい時間でした。

最後に、通しをしましたが、昨日や今朝の通しよりも、面白くなってきています。

夜は、NPO劇研のプロデューサーの杉山準さん、ディディエと夕食の後、未来について語り合いました。ディディエと一緒に仕事をすると、出演者やスタッフが皆楽しい仕事場になる。こんなに俳優を幸せにさせる演出家はいるだろうか、というくらい、ハッピーな現場をつくる。俳優を信頼し、多くのことを委ねるのも、ディディエの良さだ。演出家というのは、自分の強い世界観やエゴを打ち出すことを求められる仕事でもあるので、ほとんどの場合、全てを掌握しコントロールしようとする傾向が強くなる。しかし、ディディエは、仲間をコントロールしようとは思わない。信頼し、委ねて、創造することを望む。平和的で民主的で恊働志向の21世紀型の新タイプ演出家なのだと思う。そのことが評価され理解されるのは、まだまだ時間がかかりそうだけれども。

また、演劇というジャンルは、言語による部分が多いので、多国籍での共同作業に向きにくいジャンルである。しかし、ディディエは、言葉や国境の壁を越えて演劇をつくる「ことばのはじまり」メソッドを生み出し、人種や言語を越えて演劇ができることを実証してみせた。ある意味、彼は、哲学者なのだと思う。21世紀の今の世界が直面している様々な問題に対する大きな問いを、言葉で言うのではなく、パフォーマンスとして提示する。21世紀を生き抜くための新しい哲学を身体から模索するのが、ディディエ。彼は、西田幾多郎ハイデガー、バデュウなどの哲学者の言葉を引用しながら作品をつくっているが、彼の作品自体が、現代を生きていくための新たな哲学を提示しているように、ぼくには見える。我々が現代を生きていく上で、どんな哲学が必要なのか。そのことを、ディディエは、作品づくりの中で、実践し続けている。今回も、彼と一緒に仕事をしてきて、彼の考え方、哲学に、ぼくは大きく共鳴すると感じた。ディディエとやっている仕事は、まだまだ、多くの人には理解されていないし、その意味や価値が評価できる人は、決して多くない。でも、これは、埋もれさせてはいけない大切な宝物のようだ、とぼくは思うので、今後も伝えていきたい、と思う。