野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

1,700人と音楽をした作曲家

インドネシアの作曲家メメット・チャイルル・スラマットを招いて、レクチャー/コンサートを準備中です。メメットはインドネシアで1,700人で新作を上演したことがあり、これはインドネシアギネスブックの記録になっています。来年、千住で1,010人の音楽を実現する際に、是非メメットと一緒にやりたいと思っていて、本番の候補地を何ケ所か下見に行きました。

足立市場という市場に車を止め、駐車場に出た瞬間、メメットは、「マコトがここに立ち、1,000人が周りを取り囲んで」と言い、その場で指揮をする仕草をしました。彼には本番の光景が見えたようです。彼に光景が見えたのをぼくも見てしまったので、ここで本番をするのだと心に決めました。

その後、芸大に戻り、熊倉さんの授業を見学し、大友良英さんの凧あげ音楽プロジェクトの映像をいくつか拝見しました。メメットが構想していた空の音楽が既に実現しているのを見て、メメットは驚いたようです。

その後、お箏の松沢さんが来て、メメットの新曲「Senju」を練習しました。松沢さんは演奏の腕前も素晴らしいのですが、本当に勘がいい。インドネシア人の初めて体験する音楽を、すぐに理解していく。それにしてもメメットの手書きの譜面は読みにくく翻弄されます。しかし、この譜面を見やすく整理するよりも、この譜面に翻弄されることも含めて彼の音楽なのでは、と思うと、この譜面でやってみたい気がします。

そして、夜は特別講義。少人数での贅沢な講義でしたが、本当に素晴らしい講義だった。彼の「水の音楽」、「石の音楽」、デジリドゥーや舞踊や声やキーボードや口琴などを混在させた曲、「缶の音楽」、そして1,700人による音楽の映像を見ました。生きている人の肌を擦ると音がするが、死人の肌を擦っても音が出ない。石は生きている。石には神が宿っている。ムラピ山が噴火して3日後にムラピ山で石を演奏。1,700人の音楽をするために、一人の人間として、1,700人の社会の一員となり、子どもとも、お年寄りとも、大人の男性とも、大人の女性とも、それぞれと練習を重ね、最後にそれを合体させて1時間半のパフォーマンスを行った。それも、スポンサーとかがあったわけではなく、その村の住人との個人的な関係から立ち上がり、村の収穫祭として村人達が全部パフォーマーになり、たった3人のアシスタントで実現。彼は1,700人の音楽を作曲し統率したのではなく、1,700人と一緒に過ごし、1,700人と一緒に音楽を奏でたということも分かった。イスラム過激派がいる学校に、音楽を通して入っていく。そして、1,700人の音楽ができると思った理由を尋ねると、その前に50人の狂った人と音楽をやった経験があったからだ、と言う。ここで言う狂った人の意味することが最初は分からなかったのですが、どうやら精神病の人か、知的障害の人を指しているようでした。そして、講義の最後に、誰もが音楽をすることができる、と言って、講義を終えました。

ぼくはメメットという作曲家の仕事の全貌を知りません。彼の「石の音楽」、一緒に即興をした経験、インドネシアの民族楽器を集めたガンサデワ、という3つを知っていただけです。しかし、まだまだ奥深いのです。明日、明後日と残り二日間ですが、彼との貴重な時間を大切にしたいなぁと思います。

http://aaa-senju.com/nomura