野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

City Concert構想

インドネシアの現代音楽の中で、最も異色の作曲家Memet Chairul Slametの5年ぶり来日公演。メメットのとんでもなさは、

 

1)村人全員を参加させる1700人によるコンサートを行った作曲家。

2)国立芸大の西洋音楽の先生だが、インドネシアの様々な島の民族楽器を集めたワールド・ミュージック・プログレバンドGangsadewaでライブ活動を展開。

3)最近は、石の音楽を極めていて、原始人のような格好をして、石でつくった様々な楽器のための音楽を作曲。

 

とにかくユニーク。

 

本日のイベントは、

 

1)Memet Chairul Slamet作曲 「Bermain」

2)トーク1 メメットの作曲哲学と実践について

3)即興 野村誠、佐久間新、メメット

4)トーク2 「千住の1010人 in 2020年」の構想について

5)Memet Chairul Slamet/野村誠 作曲 「Senju 2019」

 

 

という内容だった。メメット作曲の「Bermain」は、西洋音楽のスコアに書かれた作品で、これを野村が「ふとんがふっとんだ、だー」などの言葉に分解して、だじゃれ音楽研究会のメンバーに口伝で伝えて発展させた曲。曲の最後には、全員が石を演奏する。

 

メメットの作曲哲学と実践についてのトークでは、メメットの「ポストテクノロジー」としての原始音楽の考えが提示された。テクノロジーと情報が過多な時代に、敢えて、石のみを用いて音楽をすることで、既存の文化の音楽語法を無効にすることで、人々が共同できる開かれた水平性を獲得する。また、石という限定した素材でありながら、そこから多様な音色を引き出し、音楽表現の本質を見事に表出させる。

 

佐久間新、メメットという二人の達人と野村で10分間の即興セッションを行った。達人とのセッションは、貴重な時間で、至福の時間だった。

 

来年5月31日に開催される「千住の1010人 in 2020年」についての討論。インドネシアの村人全員による1700人の音楽を作曲したメメットは、今度は、日本の千住で「都会の音楽」を構想する。町全体を鳴らすコンサート。2020年5月31日、千住という街全体がコンサート会場となり、様々な場所で音が鳴り、そして、最後に一箇所に全員が集合する。そのプロセス自体がcity concertとなる。そして、全員で合奏した最後に、全員が二つの石を持って、石を鳴らす。1010人の人々が、2020個の石を鳴らす。石の音楽は、意志の音楽でもある。

 

最後に、メメットの指揮で、「Senju 2019」を演奏した。メメットが2014年に作曲した音楽の構造を忠実に保ちながら、野村が、だじゃれの言葉に変換し、2台ピアノで新たな和声をつけて構成した新曲。これは、メメットとの共同作曲の実験でもある。作曲家同士でのコラボの仕方は色々あるが、メメットが大きな枠組みをつくり、それを野村が発展させる。今回、この作曲をして、メメットとこの方法でコラボできる確信を得た。ここに、タイのアナンも加わって、どうやって創作を広げていくかも、アナンと近々相談してみたい。

 

終演後、東京大学新聞の記者であり、東京大学の学生である円光さんと打ち合わせ。11月22日の東京大学の学園祭でのシンポジウムに登壇する予定。

 

それにしても、今日のイベントは、作曲家や現代音楽の関係者などの顔ぶれを見なかった。偶々忙しかったのかもしれないし、他のイベントと重なっていたのかもしれないが、インドネシアで最も重要な仕事をしている現代音楽の作曲家の5年ぶりの来日に、日本の作曲家や音楽家たちにも、もっと参加して欲しかった。若い作曲家や学生などにも、もっと参加して欲しかった。甚だもったいないと思う。インドネシアの現代音楽は、日本の現代音楽や欧米の現代音楽とは全く違う魅力がある。そのことを、今日のトークなどを通して、一緒に討論してみたかった。

 

旅館で、深夜までメメットと平出さんと語り合う。新しい音楽の地平が、少しずつ開かれている。6年前にメメットにしたインタビューの日本語訳がこちらで読めます。

 

Memet-Jp - Asian Contemporary Composers - Makoto Nomura

 

 (文章が直訳のままアップしていて、ぎこちないですが)