野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ミロトのテレ・コラボレーション

朝から市役所に書類を取りに行く。受け取ると、受け取った書類以外に、ここで提出した書類と同じもの(パスポートのコピー、ビザのコピー、調査計画など)を持って、別の役所まで行くように言われる。えーっ、それなら、再ヨから全部2部コピーとっておいたのにーー! 家に戻る途中で、コピーを取ろうと思って行くと、「停電だから、無理」と言われる。停電か、書類の用意ができないし、家に戻り、プリンターを借りて、計画書をプリントアウトしようと思う。まずは、洗濯しようと思うが、洗濯機が動かない。ここも停電か。プリントアウトもできないや。役所は明日以降だ。ということで、ビザの手続きが、続行中。

夜、ジョグジャを代表するコンテンポラリーダンサー、ミロトのスタジオを訪ねる。何でも、スカイプで砂連尾さんとダンス共演を試みようとしているらしい。行ってみると、ミロトのスタジオには、ステージが組まれていて、ステージ上に、プロジェクターが吊ってあり、それを、ステージの下にあるスクリーンで反射させて、舞台上に斜めにつり下げてある透明板に移るという仕組み。ミロトは、「ぼくたちは、時々facebookなんかで、元気?とかやりとりしているだけで、一緒に作品づくりができない。助成金がとれてお金が入ればできるけど、そうじゃないとできない。でも、お金がなくても一緒に始められることをやりたいんだ。」と言う。そして、映像と共演する準備を着々と整えていると、バチンという音を立てて、プロジェクターの灯りが消えた。投影される等身大の砂連尾さんと共演する実験は実現しなかったが、それでも、パソコンの中で踊っている日本の砂連尾さんと、実際にジョグジャで踊っているミロトの間で演奏するのは、面白い体験だった。

ベンさんの即興舞踊に強く影響を受けたミロトで、その根底にはジャワの哲学が根づいている。しかし、その一方でピナ・バウシュのところに行ったり、アメリカで学んだりしたミロトでもある。スカイプとプロジェクターを活用しながら、バーチャルに共演を指向するミロトは、単なるテクノロジーを活用したダンス作品ではなく、しかし、21世紀でのコミュニケーションとコラボレーションのやり方を、彼なりに模索しているのだろう。植物とも会話ができるミロトが、コンピュータを前に右往左往しているのを見ると、やっぱり路線違うんじゃないかな、という気もするし、今日はシステムの説明がいっぱいで、ぼくの青森の展示作品すら見せることができなかった。いつも、彼と話すと、一気に深い話に入り込むのに、今日は、そこまで行けずに終わってしまった。彼としても、プロエクターさえ壊れなければ、この場で砂連尾+ミロト+野村の即興の場が生まれ、ここで創作が始められると思っていただろうし、壊れなければ、言葉で説明しなくてもすんだはずだ。最終的には、舞台上にはミロト一人、残りは日本や台湾やアメリカのダンサーがプロジェクションされる。でも、それは録画ではなく、リアルタイムに。「復興ダンゴ」で空間を越えてお年寄りと共演する砂連尾さんのダンスとも、通じる気もするし、まずはミロトのやりたいことを見届けていこうと思う。プロジェクターを修理して、来週に再チャレンジすることになった。