野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

めでたい、愛でたい、芽出た 千住だじゃれ音楽祭

「千住だじゃれ音楽祭 第1回定期演奏会」、やりました。今日、この日に立ち合って下さった方々、演奏者、スタッフの皆さん。本当にありがとうございました。

大田智美さんのアコーディオンは、本当に繊細で表情豊かで、彼女と一緒に「ウマとの音楽」を演奏するのは、2008年にウイーンで共演して以来5年ぶりでして、彼女のように繊細に音を愛でたいなぁ、と共演すると、いつも思うのです。そして、アコーディオン独奏の新作「お酢と納豆」の音のやさしく深く美しい響きに人々が引き込まれていく時間もとても良かった。勝ち抜きだじゃれ選手権から生まれた言葉から誕生した「お酢と納豆」は、アコーディオンのレパートリーとして、今後、世界各地で演奏されていくことでしょう。

松原勝也さんのヴァイオリンの名演を聴きながら、観客があれだけドッカンドッカンと爆笑する「だじゃれは言いません」は、あり得ない光景でした。演奏が完璧であればあるほど、可笑しくて笑ってしまう。それにしても、松原さんの演奏は、なんて雄弁なのでしょう。ぼくの書いた厄介な譜面に振り回されずに、ちゃんと自分の音楽として演奏できる力量はさすがです。芸大打楽器科の3人の才女とのヴァイオリン協奏曲「ポーコン」も、さすがでした。

35名の「だじゃれ音楽研究会」は、音楽経験は初めてという人もいるとは思えない、凄いビッグバンドでした。このバンド、続けていったら、一体どうなるんだろう?1年前に、お風呂のイベントで遭遇した時のこと、半年前に、芸大で「しょうぎ作曲」をした時のことを思うと、凄い進化しています。この調子でいくと、3年後にどうなっているか、考えるだけでも、ワクワクします。

三浦正宏さんは、野村誠が遠慮なく突っ走れるように、全力を尽くして下さいました。置いていかれた観客とアーティストの間を映像で絶妙につないでくれました。また、ご自身の作られる映像作品の中に、だじゃれ音楽研究会のメンバーや、町の人が関われる仕組を上手に作っていただけたおかげで、色々な人が参加して関われる場が増えました。実は、三浦さんの作品づくりは、映像制作ワークショップになっていて、これに参加した人々は、映像づくりの様々なノウハウを学んだわけです(インタビューの仕方、撮影の仕方なども含めて)。

漫画ミュージカル「大団演」で、梅津和時さんのパンチのある演奏とデュオで即興演奏させていただくのは、本当に贅沢な時間でした。と同時に、ぼくは梅津さんのように、魂のこもった一音を出せているだろうか、と自分にも問いかける貴重な時間をいただきました。背筋が伸びました。そして、思う存分、遊び楽しませていただきました。漫画のラストシーンに来た時に、もう終わっちゃうのか、もっと演奏していたいなぁ、と思ったのは、正直な気持ちです。

宮田篤さんの漫画は、本当に傑作でした。そして、米朝落語のカセットを聞いて育っただけあって、語りも見事だった。梅津+野村の味の濃いライブの即興音楽を背景に語るというのは、実はかなり過酷な環境なのです。それを見事にやってのけたところが、やはり米朝を聞いて育った人は違うなぁ、宮田くんは、パフォーマーとしての力があるなぁ、と改めて思いました。

巫女の姿でご登場の田中悠美子さんは、強烈な個性とエネルギーを持つパフォーマーですが、「千寿万歳」の創作過程では、「千住」に関するデータの収集から始まり、尾張万歳、三河万歳から、柴田南雄の万歳をベースにしたシアターピースなどを踏まえた上で作品を作っていきました。こうした創作プロセスが、ご一緒できたところが、非常に楽しかったです。弾き語り、お笑い、共同創作という当初の方向性を、最初の一歩ではありますが実現できて嬉しい。これからも、このコンビで色々続けていきたいものです。悠美子さんのお誕生日と足立区の80周年を、めでたい尽くしの「万歳」で祝うことができて、おめでとうございます。

足立男声合唱団の指導者である中原雅彦さんが、急なお願いにも関わらずご快諾いただき、「千住の先住民」を見事なテノールで歌っていただけたのは感動的でした。イタリアでオペラの修行をされてきただけあって、美声だけでなく、きちんと身体での演技も含まれていたようで、さすがです。さらに、「千寿万歳」にまでご登場いただき、即興的に「ケローー」とまで歌っていただき、大感謝です。

ADACHI HIPHOP PROJECTの方々も「千住トラップ喜怒哀ラップ」でご登場いただきました。あれだけ高齢の方々が多い客席で、ラップをする機会もあまりないのではないかと思います。きっと、普段のステージと観客の反応も違いやりにくかったかもしれません。そうした状況でのステージがあったことも、大きな一歩だったように思います。ラッパーの方々と本番までに一度も練習をさせていただく機会がなかったため、そこまで濃密なコラボレーションができなかったので、本番でラップを聴いているうちに、ぼくもラップで混ざりたい気持ちになり、彼らの退場のテーマが鳴ると同時に、即興でラップをしてしまいました。だじゃれとラップは近いですから、次はもっと関われればと思います。

ところで、「千寿万歳」の途中での「寿式三番叟」の中で出てくる「鍵パンダ・ハーモニカ」のパンダが来ていた衣装が、三番叟の衣装であることは、皆さんお気づきになられましたよね。妻が作ってくれましたが、ご存知ない方は、「三番叟」で画像検索などをするなどしていただければ、と思います。能の「翁」で翁が面をつけて神格化し、舞いを舞い、その後に三番叟が出てくるという流れに対応して、だじゃれの神の冠を被って登場し、舞いを舞い、パンダが出てくることになってます、一応。

運営スタッフの皆さん、本当にご苦労さま。町のプロジェクトで、これまで銭湯、市場、河川敷、商店街などで展開してきたものが、芸大という場所で開催できたことは、凄く大きな一歩だと思っております。芸大も町の一部です。そして、そこに、東京都内でのアートイベントでは通常考えられないほどに、業界人が少なく、地元の人々が老若男女勢揃いしていたアットホームな会場になったこと。これも大事件だと思います。まるで、地方都市のコンサート会場のような客席になったことが、何より驚愕でした。東京で、作曲家やミュージシャンや音楽評論家やアート関係者や、そういう人がもっと遠くから電車に乗って来ていて、今日の内容だったら、東京以外の遠方からもそういう人がいっぱい来ていて、地元の人は実はあんまりいなかったりすることが多いのに、今日のは、そうした人が申込みする前に、あっと言う間に地元の人の予約が殺到して、満員御礼になってしまったのです。そして、そんな地元の観客が集まっている場で、観客の多くは、実験的な音楽を聴くと想定せずに来た場で、怒濤の新作を発表し、それに対して、帰る際に、お客さんがスタッフに「ありがとうございました」と言って帰って行かれた。こんなコンサートが東京でもできるんだ、と感激しました。

ということで、千住で「だじゃれ音楽」の芽が出ました。めでたい、愛でたい、芽出たい!

みなさま、おつかれさまでした。

当日の様子は、ユーストリームにあがっていて、今でも見られるようです。


第一部
http://www.ustream.tv/recorded/30010051
第二部
http://www.ustream.tv/recorded/30011142

http://www.city.adachi.tokyo.jp/hodo/20130316dajare.html