野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

野菜のピアノ

国際芸術センター青森での滞在も残りわずか。本日は、コンサート「野菜のピアノ」を開催いたしました。ギャラリーBにて、弦楽三重奏による「根楽三重奏」の演奏。チェロを演奏していただいたのは、芸術センターの館長の野坂徹夫さんで、野坂さんは、展示のプロセスにずっと立ち合い、畑の野菜の成長も見守って下さっていたので、この作品を非常に深い部分で理解して演奏しようという思いのある演奏でした。こうした演奏に出会えるのは、作曲家冥利につきます。

さて、その後は、ピアノソロのコンサートをしました。水曜日、昨日、今日と、3回ピアノソロをしたのですが、結局、一曲も同じ曲を弾くこともなく、3回とも全く違った内容になりました。今回のコンサートは、何を弾くかは事前に決めずに、その場で曲目を決めていくことにしておりました。

今日のコンサートは、「音楽畑」で育てた野菜について語りながら演奏する、という以外には、何も決めずに臨んだのです。畑で野菜を育てて思ったのは、野菜はじっくり根をはり、ある時、突然一気に成長を始めたということです。音楽も無理に作ろうとしたり、成長させようとするのは、やはり違って、音楽も気がつくと成長していた、というのが良いのです。これは、老人ホーム「さくら苑」で長大な歌ができた時も、最初は、ゆっくりな成長だったのですが、ある時、気づいたら一気に伸びていたことを思い出します。

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野菜の楽譜を、こんな楽譜にしようとコントロールしても、全くコントロールできませんでした。ズッキーニを8ケ所に植えましたが、4ケ所のズッキーニは大きく成長し、他の4ケ所は枯れてしまいました。でも、その違いはどうしてなのか、分かりません。野菜の譜面は、ぼくの想定通りではなく、成長していきます。そして、荒れ地を開墾して、除草剤もなく無農薬で育てて、まさか、これだけの収穫を得るとも、全く想像できませんでした。畑の野菜は、本当に大地からの恵みをいただいているという感覚で、コントロールできないものでした。委ねるしかない。本日の演奏会でのピアノ演奏も、もちろん自分のカラダをコントロールして演奏しているのですが、自分の意識でコントロールするのではなく、意識ではコントロールしないで演奏しようと心がけました。それは、自分の無意識に委ねて演奏しているとも言えますし、もっと大きな何かに委ねて演奏しているとも言えます。そして、そうやって即興で演奏しているというのは、自分自身の立ち位置や人生観と向き合っていく時間でもあるのです。ああ、ぼくは、こんなことを感じて生きているのだと、それに向き合う時間。そして、それを越えて何を音楽として発するのか、そんな時間です。砂連尾さんが、以下の映像の中で言っているコントロールしない身体、という言葉も、頭をかすめました。

3日間に渡り、このようにピアノを弾く時間を与えていただき、また、その場に立ち合っていただき、そのことに非常に感謝いたします。