野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

根を張る

根っこを張ることについて。
青森での3ヶ月に渡る滞在制作で、ぼくは何をしていたのでしょうか?
震災と原発事故を経験し、本当に足下がグラグラになった中、足下を見つめ直す作業をしていたように思います。
未来への展望が見えない不安を、まず再確認すること。不安の中で焦って動き回っても、実を結ばないことを思い出すこと。一寸先は闇の非常事態を生きていることから、目を背けないこと。その上で、どうやって生きようと、一人の芸術家として考えること。

まず、生きることの原点、衣食住について、一つずつ見直していかないといけないと、直感しました。畑をやろうと思ったのも、そうしたことと無関係ではありません。その結果、野菜を育てたこともないのに、畑でもない荒れ地を開墾して、40mの五線の畑をするという無謀なプロジェクトに着手してしまったわけです。
初心者で農地でもない場所で無農薬で、作物が収穫できるなんて、そんなに甘くはないと、十分覚悟していましたし、発芽した直後や、苗を定植した直後は、日々の成長など微々たるもので、一向に急成長の兆しなど感じられなかったのですが、根っこをしっかり張った後、ある時期を境に、野菜は一気に育っていったのです。今では、次々に野菜を収穫し、買い物に行く必要が全くなくなり、人に振る舞っても余る程に、なってしまったのです。

青森での滞在制作で、学んだことは、焦らずにじっくり根っこを張ることです。これまでも、ぼくはずっとそう言い続けてきたとは思うのですが、〆切に追われて、作品(アートプロジェクト)を無理にでっちあげるのではなく、まず、環境(状況)にゆっくり適合して、根っこを張る時間を与えること。そして、そこから芽が出るのを待つこと。それさえすれば、あとは作品(プロジェクト)は、自然に育っていくと思うのです。

世界を変えたい、社会を変えたい、と思うと、焦って動き回りたくなります。でも、根っこを張ることは忘れてはいけないと思います。



6月中旬から始まった青森での滞在制作も今日で最終日、明日には京都に戻ります。一昨日は、青森県にある隠れた名所「キリストの墓」や「ピラミッド」に行ったり、八甲田温泉に行ったりしました。

昨日は、センター技術院で音楽家の椎啓さんのお宅にお邪魔して、椎さんの手作り野菜と手作り楽器を堪能いたしました。

本日は、「レタスピアノ」の撮影、学芸員によるインタビュー、撤収の打ち合わせ、後片付けなどをして、プリペアドピアノ体験会をした後、畑の収穫を食べるパーティー、センターのスタッフの方々と、公立大学の芸術サークルの方々、そして、新たなレジデンスに到着したばかりの青山悟さんが参加。

我が音楽畑で収穫したモロヘイヤ、つるむらさき、トマトに、キャベツ、レタス、キュウリ、ラディッシュ、ジャガイモ、ズッキーニ、ワサビ菜、スイスチャード、インゲン、思う存分食べて、食材もほぼ使い切ることができました。これから1ヶ月間ほど、まだまだ収穫できると思いますが、残りの収穫は皆さんで食べて下さい。