野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

こども熱帯音楽祭

「こども熱帯音楽祭in大阪」の第1回が大阪市立大学で行われました。4つのグループの発表がありまして、

1 豊崎東小学校+野村誠
2 大空小学校+小島剛
3 Ohana+佐久間新
4 こどもオーケストラ+大友良英

となり、トップバッターでした。我々は1、2年生が多く、人前の発表にも慣れていないので、できれば最初じゃない方がいいなぁ、と思っておりました。子ども達を信用していないわけではありませんが、緊張してかたまったら、伸び伸びやれなかったら、と心配すると、不安なものです。

音楽に力を入れていて、毎学期にコンサートをやっていて4年生中心の大空小学校だったら、コンサートに慣れているだろうけど、うちの子ども達は大丈夫かなぁ。子どもだけじゃなくて大人も一緒に参加しているOhanaだったら大人がサポートできる部分あるけど、うちはぼく以外は子どもだからなぁとか。子どもオーケストラのように高校生もいて30人以上いたら、人数の力で緊張が少しは和らぐかもしれないけど、うちは13人だしなぁ。正直、先頭バッターは荷が重かったのです。客席の空気も、まだ暖まっていないし。

そして、4グループともに、即興の要素が大きい音楽なので、会場の空気は時に音楽をサポートし、時に足を引っ張りかねない。そう思うと、ますます、トップバッターとしての荷が重いわけです。で、本当に不安だったのですが、子ども達は緊張しつつ、ミスもいくつもあったけれども、ステージ上で音楽を楽しんでくれました。そのことが本当に良かった。

しかも、ぼくが凄く感動したのは、本番の最中に練習をなぞるのではなく、工夫しながら、新たな創造をしていこうとする子ども達の姿勢です。手堅く無難にやるのではなく、今まで試さなかった奏法を試みてみたり、本番でいきなり新たなアイディアをやりたいと提案する。あっ、そうか。彼らにとっては、今日はコンサートでありつつ、ワークショップでもあったのだ、と気づかされた瞬間でした。ワークショップは昨日で終わった、と思っていた自分に反省。彼らは、この瞬間にも、遊び、学び、成長していっているのです。

本番で、我々のチームが演奏したのが、以下の5曲。

1 SUPERトリオ
2 キンコンカンコン
3 スイッチ
4 フルーツバスケット
5 七阡六佰参拾弐萬伍阡六佰七拾参

1の「SUPERトリオ」は、6年生の川端くん、吉井くんと、野村の3人だけで行った「しょうぎ作曲」の作品です。様々なガムランの楽器を演奏する川端くんと、掃除機を顔に吸いつける音で笑いをとりにいく吉井くんと3人で演奏していて、あいのてさんのような気分になりました。川端くんが青のあいのてさんで、吉井くんが黄色のあいのてさんのようなのです。来年は彼らは中学生になりますが、もしチャンスがあれば、来年も、この「SUPERトリオ」で新レパートリーをやってみたい、とさえ思いました。

2の「キンコンカンコン」は、8月19日のワークショップで生まれたガムランの新曲です。低学年の子が初めてガムランに触れた時に、学校のチャイムの音を連想しました。そこで、各自が自分なりの「キンコンカンコン」を演奏してみた。それだけのシンプルなアイディアの曲です。ただ、それだけを延々と演奏しているだけなのですが、繰り返していくうちに、妙にトランスしてきます。

3の「スイッチ」は、イギリスのヒュー・ナンキヴェルがよくやっているリズムのゲームです。そのゲームをすることを導入にして、ボディパーカッションの新作を作ろうというのが、ぼくの当初のプランだったのですが、吉井リーダーは、このゲームを観客とやってみたい、とのことで、観客とやることになりました。吉井リーダーは、本当にユニークな動きを次々に思いつきます。ぼくは、このステージと観客とのセッションに、ピアノで伴奏をしておりました。

4の「フルーツバスケット」は、京都造形芸大の授業の中で生まれたもので、実際に小学生とステージ上で上演するのは、今回が初めてです。ゲームを行いながら、次々に指揮者が入れ替わっていく即興音楽なのですが、この指揮は、足をあげたりジャンプしたりするので、ダンスにもなっているのです。指揮をしている子どもたちは、ダンスしているつもりは全然ないのですが、とってもいいダンスだなぁ、と思って見ておりました。お客さんも彼らのダンスを楽しんでくれたかなぁ。

5の「七阡六佰参拾弐萬伍阡六佰七拾参」は、3月のワークショップの時に作ったダジャレの歌で、ガムランで演奏する曲です。この曲を、子どもたちは大声で歌い、8月19日に初めてガムランに触れたとは思えないほど、ガムランの楽器を自分のカラダの一部のように演奏する子どもたち。間奏では、6年生二人が客席に紙テープを投げました。

それにしても、曲の展開を指示する主要な合図は、吉井リーダーに委ね、スイッチの指揮も吉井リーダーに委ねたので、ぼくは指揮をせず。ガムランを演奏する曲でも、子ども達が楽器ができるようになるため、ぼくはペットボトルを担当。曲間のトークも吉井リーダーに任せたため、野村のコメントはほとんど入らず。今回は、思いっきり子ども主体でやってみました。アーティスト野村誠の個性を、もう少し出しても良かったのかもしれませんが、まず第一歩として、子ども主体をやってみたくって、ひとまず、その点では後悔なくやれました。これだけ子どもが主体的に動けるようになったので、次は、もっと、野村誠の世界を出してもいいかな。

自分達の出番が終わった後、他のグループの演奏を鑑賞。「大空小学校+小島剛」の子ども達は、自分達で次々に考案していくそうで、その知的なコンポジションを聴いたという感じ。特に、最後の「目隠し音楽」は、音としてだけでなく行為そのものが面白かった。「Ohana+佐久間新」は、最も拘束の少ない即興で、その場で立ち上がってくる音楽は、ステージ上だけでなく会場内の空気をも巻き込んだ渦になっていた。神が出現する入り口くらいまで到達し、場がトランスしていき始めたところで、夢が覚めるように照明がフェイドアウトしていった。「子どもオーケストラ+大友良英」は、2時間近く待たされて、ようやく出番だ、という最初の一音。これが、本当に緊張感があり集中した良い音だった。大友さんが、最後に出演者全員の名前を読み上げていたのが、印象的だった。

いろいろ勉強させていただきました。ありがとうございました。