野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

「みんな天才だ」と対等に扱うのはやめました

8月31日に開催される「こども熱帯音楽祭」(大友良英+こどもたち、小島剛+こどもたち、佐久間新+こどもたち、野村誠+こどもたち)

http://www.ur-plaza.osaka-cu.ac.jp/2012/07/20120831.html

に向けて、ワークショップを豊崎東小学校で行いました。で、今回は、こういう子どものプロジェクトには珍しいと思うのですが、一人を特別扱いする、という試みをしております。

普通は、

講師:野村誠
受講者:小学生

となり、みんな対等です。3月に行った2回のワークショップでもそうしていました。
しかし、今回は、

講師:野村誠+吉井くん(6年生)
受講者:小学生(主に1〜3年生)

としました。吉井くんだけが、特別扱いです。もっと言えば、

講師:吉井くん
アシスタント:野村誠
受講者:小学生

という状況を目指しているのです。きっかけは、3月のワークショップで吉井くんと出会ったことです。次々に湯水のようにアイディアが思いつき、思いついたアイディアをどんどん発言していく彼の姿に、小学校時代の野村誠が重なりました。

小学時代の野村誠は、授業に積極的に参加しているつもりなのに、「野村はうるさい。廊下に出ていなさい。」と毎時間、廊下に出されていました。ぼくは、授業の妨害をしていたつもりもないし、素直に参加していたり、率直に疑問や意見を述べていたつもりだったのに、先生に注意され続けました。今思うと、意見と質問が、湯水のように湧き出てきて、それを次々に口にしているのを、当時の先生が邪魔だと感じたのでしょう。

普通、学校などでは、みんなを平等に扱います。でも、授業じゃないし、ここでは、吉井くんを特別扱いして、彼の能力と思いっきりコラボレートしてみたい、と考えました。(もちろん、吉井くんに過去の自分を投影するのではなく、彼自身の個性に着目していくことは言うまでもありません。)
そこで、今日のスケジュールは、

13:30〜14:30 吉井くんとの打ち合わせ
14:30〜16:30 全体でのワークショップ
16:30〜17:00 吉井くんとの反省会

となりました。

吉井くんとの打ち合わせは、期待以上に素晴らしいものになりました。子どもの年齢構成や一人一人の性格などから、誰が誰をケアすべきか、など次々に提案してくれました。また、野村がやろうと思っていたワークショップの内容を提示すると、それぞれに対して、面白くアイディアを膨らませてくれました。

「こども熱帯音楽祭」で上演する際に、観客参加の部分を作ろう、という提案や、31日のシンポジウムには、各グループから代表の子どもも参加して、大人だけでなく子どもも加わってディスカッションしよう、と提案。ワークショップを始めるにあたり、部屋の空間構成(椅子を並べるか床に座るか、どちらを正面にするか)などなど、彼の意見は非常に的を得ていました。つまり、吉井くんとの打ち合わせは、ワークショップを計画するワークショップになっておりまして、このワークショップは、吉井くん一人のために開催しているわけです。

さて、小学生達とのワークショップでの吉井くんの指揮も、一人一人の子どもの様子に配慮した暖かいものでありました。ワークショップは、順調に進み、指揮や進行は吉井くんが見事に行ってくれるので、ぼくは、ちょっとした子どもの面白い表現を拾っていくことに専念できました。

もちろん、他の子どもたちは、吉井くんに比べると、まだ年齢も低く、自分の意見を発する術を十分には持っていませんが、それでも非常にクリエイティブで、色々、面白いことを密かにやっています。今日だけで随分たくさんのアイディアが出てきました。

吉井くんを特別扱いして開始したワークショップですが、他の子どもたちを軽んじているわけでは、ありません。他の子ども達も、回を重ねるごとに、どんどん積極的にアイディアを出すようになるでしょう。最終的には、全員が特別な役割を得て、結果として誰も特別扱いしていない状況になるかもしれません。そうなれば、大成功でしょう。

つまり、子どもはみんな天才なのですが、「子どもはみんな天才だ」と吐き捨てて、みんなを対等に扱い過ぎると、かえって子どもはみんなで凡人に振る舞うと思うのです。ですから、とにかく、「吉井くんは天才だ」と言う事実を認めることから始めることにしました。確かに、彼は凄いのです。吉井くんが天才で、他の子が凡人というつもりはありません。吉井くんの特別扱いが、他の子ども達の才能も引き出すに違いない、という予感しております。

ということで、本日

1)声とカラダのアンサンブル(リズム、ジャンプ、ネコの真似、壁たたき、など。観客参加も目標)
2)ペットボトルのアンサンブル(ソロとオーケストラ。次回はバケツも投入)
3)色んな楽器のアンサンブル(指揮者あり。空間移動。)
4)歌(だじゃれ。ガムランの伴奏もあり。)
5)ガムランアンサンブル(次回は、さらに発展)

の5曲が生まれつつあります。初演は8月31日、大阪です。