野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

Maltby Manor Academyでのワークショップ

昨日からヨークシャーのロザラムに来ている。シェフィールズの近くの町。今日は、Maltby Manor Academyの6年生とのワークショップ。エンリコと二人で行く。エンリコは今年の春から、何度もこの学校に通っている。2−3週間に一度のペースで通っていて、10回シリーズの6回目。今日は、このシリーズの中の特別な回で、ゲストに野村誠を招いて、即興演奏について学び、共同作曲をし、野村の仕事の体験談を聞き、それをブログにまとめる、のが、今日の学習内容だ。最初に、エンリコと野村で即興演奏をして、聞いてもらう。エンリコが、野村との即興演奏を特別だと感じてくれていて、野村と出会う以前は、現代音楽の演奏のスペシャリストだったエンリコが、即興演奏に喜びを感じることになった。だから、わざわざ日本から野村を招聘して、学校でのワークショップの中で、エンリコと野村の即興演奏を子どもたちに体験させるプログラムを作ったのだ。子どもたちは、ぼくらの即興演奏にお題を出してくれた。red, loud, crazy, bee, jubilationという5つのキーワードを考えてくれて、それに応えて、エンリコと野村は即興演奏をした。ピアノも打楽器も、声も、床も、あらゆる物を演奏した。結構、長い即興演奏を、子どもたちは集中して楽しんでくれた。今度は、子どもたちが演奏する番だ。ぼくとエンリコが、「chips, winter, fly, konnichiwa」という4つのキーワードを出して、子どもたちに演奏してもらうことにした。ここで、面白いことが二つ起こった。
一つは、楽器の名前を発明した。鉄琴のことを、子どもがシロフォンと言った。「シロフォンは、木琴で、これは金属だから、シロフォンとは呼ばないんだ」とエンリコ。「でも、名前がわかんないから、名前を作っちゃおうか」とエンリコ。子どもたちは、crankalizerという楽器名を発明した。
もう一つ起こったことは、クセナキスという作曲家の「プレアデス」という曲と、全く同じ構造を、こどもたちが自然に選んだのだ。「プレアデス」は、1曲目が皮の太鼓、2曲目が金属打楽器、3曲目が鍵盤、4曲目が混合という4曲だが、子どもたちの曲は、1曲目がタンバリン、2曲目が金属楽器、3曲目が木の楽器、4曲目が混合になったのだ。
曲ができあがったところで、6年生の別のクラスを招いて、発表することに。最初は、エンリコと野村で、野村誠作曲「Slapping Music」の演奏で、ボディパーカッションの曲を楽しんでもらう。続いて、野村の鍵盤ハーモニカ独奏で、鍵ハモイントロダクション。こどもたちは、大いに笑ってくれる。その後、エンリコと野村の即興演奏をした後、子どもたちとの新曲を発表。他のクラスの先生が、このピアノが弾かれるのを聞いたのは2年ぶり、と言う。学校に音楽の先生もいなければ、音楽の授業もなく、学校に唯一あるピアノも2年間一度も弾かれることがない。そのピアノを、今日はこんなにたくさん弾いたので、来た甲斐があったと思う。
午後の授業は、コンピュータ室で。前半は、野村のパワーポイントでのプレゼン。このパワーポイントを、ロンドンの副校長のハナがいつの間にか作ってくれていた。大学で数学を勉強したこと、ソニーのオーディションでグランプリになったこと、路上演奏したこと、動物園で動物と音楽したこと、テレビ番組をつくったこと、などなどを語る。
これらをもとに、今日の話しを各自がウェブサイトにまとめていくのが午後の授業。子どもたちは、各自でログインして、今日の体験や野村の話を、自分なりの言葉で作文していく。音楽の体験をするだけでなく、体験を言語化するところまでが含まれているのが、面白いワークショップの構造だ。
ホテルに戻り、ホテルの付帯設備であるサウナとプールを楽しんで後、夜はインドレストランへ行く。エンリコが言うには、ぼくが鍵ハモで曲を吹き始めて1秒もたたないうちに、こどもたちが自然に踊り出した。みんなが、自然に動き出したんだ、と興奮して語る。今日のワークショップは、野村とエンリコが演奏して、子どもが聞く時間が結構長くあった。また、野村が話をして、こどもたちが聞く時間も、たっぷりあった。この聞く時間がたっぷりあった上で、こどもたちが楽器を演奏して作曲する時間、こどもたちが作文してウェブサイトをつくる時間もたくさんあった。こんなにたっぷり「聞く」時間をとるワークショップは、意外に珍しいかもしれない。